中長期の顧客コミュニケーションでいかにファンを増やせるか
マーケティングの基本は、提供価値を最大化するための顧客創造スキームを設計し、実行することである。場当たり的なセールス活動ではなく、リードジェネレーション(見込み客創出)→リードナーチャリング(見込み客育成)→受注→アフターフォローの遷移ロードマップ(【図表1】)の設計が必要なのである。
【図表1】リードジェネレーションから受注、リピートファン化につなげるためのロードマップ
出所:タナベコンサルティング作成
その中でリードナーチャリングとは、「獲得した見込み顧客(リード)に対し、コミュニケーションを通じて購入意欲を高め、将来的に受注につなげていく活動」を言う。
受注を妨げる要因には、次の3つがある。
❶コロナショックによる人々の価値観の変容(社会全体の判断基準、嗜好、行動の変容)
⇒顧客の意識動線・行動動線を捉える難易度が高い
❷人口減少と少子高齢化による内需の縮小
⇒既存ビジネスモデルの延長による競争力の低下
❸コモディティー化(商品価値の陳腐化)
⇒生産技術の向上などによる商品価値の同質化。商品の質や機能の差別化が難しい
こうした市場で生き残っていくためには、顧客・見込み客と中長期的なコミュニケーションを取り、ブランドやプロダクトを支持してくれるようにする(=「ファン化」する)ことが重要になってくる。
ただ、リアル営業(フィールドセールス)のみのマーケティングでは、顧客・見込み客管理が属人的になっていたり、中長期的な視点に立っていなかったりといった課題が挙げられる。この状況下で特に難しくなるのは、購買サイクルや購買検討期間が長いケースだ。顧客・見込み客がいつ買うのかが見えず、次の購買まで接触を繰り返し、時間を浪費してしまう。一方で、少し接触を控えているうちに顧客をライバルに奪われているケースもある。
よって、カスタマーサポート(顧客支援)やカスタマーサクセス(顧客の成功)も、デジタルを活用し効率化して、顧客とのコミュニケーションを継続することが重要である。顧客情報を一元管理すれば、決定権者、商談の履歴、プロダクトの購入時期、数量、次の購入タイミングなどを可視化できるため、複数人での対応が可能となる。これが、いわゆる「インサイドマーケティング」である。
リアルでのコミュニケーションはもちろん重要だが、限られた人員体制や新型コロナウイルス感染拡大防止のための接触回避などにより、その回数は減少傾向となるだろう。しかし、デジタルマーケティングであれば、対面のコミュニケーションに依存せず、メールマガジンやプッシュ通知の定期配信による有益情報の提供などによって接触回数を増やすことができる。
つまり、【図表1】のようにインサイドセールスとフィールドセールスを組み合わせれば、リードジェネレーション、リードナーチャリング、リードリサイクルとともに、既存顧客に対する丁寧なフォローアップも可能となり、口コミ紹介やリピート受注の増加といったLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)向上にもつなげることができるのだ。
リードナーチャリングのタッチポイントを整理する
リアル×デジタルが複雑に組み合わさった今の市場環境では、リードが商品を購入するまでに、さまざまなタッチポイントで、多くの情報を得ることができる。
リードが商品を購入するまでに生じる企業とのタッチポイントを整理したのが次頁【図表2】である。
【図表2】商品を購入するまでに生じる企業とのタッチポイント
出所:タナベコンサルティング作成
商品知識がない層(A)、または購入したことはないが商品は知っている層(B)が、注目して興味を抱き(認知)、ネット検索やカタログ請求などを行い(検討・情報収集)、商品の購入やサービスの利用に至る(行動)。購買行動時点でのコミュニケーションアプローチの仕方によって、購買活動がストップするのか、商品・サービスを気に入ってリピートしてくれるか、エバンジェリスト(伝道者)として、周囲にも広めてくれるのか(推奨)が決まる。
顧客がA~Dのどの階層に位置するかによって、具体的アクションの温度は変わってくる。
商品購入やサービス活用の経験がある層(C)に対しても、再び前述の流れを踏むが、AやBの層に比べリピートする確率は高まる。Dの段階に入ると、もはやファンやロイヤルカスタマーといって良い。
このようにリードがタッチポイントのチャートを進んでいく過程を、“旅”に見立てて「カスタマージャーニー」と呼ぶ。
タッチポイントごとに企業側が取るべきコミュニケーションは異なり、顧客が抱く温度や熱意に合わせた対応が必要となってくる。それぞれで適切なコミュニケーションを展開することで、顧客はカスタマージャーニーの次のステップに歩みを進め、より熱心なリピーターへと変貌を遂げていくのである。
人々が購入に至る心理や行動についてはさまざまなパターンがあるが、さまざまなカスタマージャーニーを体系化、プロセス化してデータで効果を検証しながら改善することで、リードナーチャリングをより効率的・効果的に行うことができる。
顧客を理解する上で見るべきポイント
では、どのような観点で顧客の理解を進めるべきか。そのためには、顧客の“行動の理由”が見えないといけない。まずは、売り上げを「客数×単価×頻度」の3要素に分解し、購買行動について考えてみよう。売り上げが伸びたとき、何が起こっているのかである。
もし、客数はそのままで単価や頻度が上がっていれば、商品への満足度が高まって、既存顧客のロイヤルカスタマー化が進んでいる可能性が考えられる。しかし、もしかするとキャンペーンや会員制ポイント施策などでまとめ買いを促進しただけで、満足度自体は高まっていないかもしれない。
前者であれば、単価と頻度はこの後も安定するが、後者であれば単価と頻度は維持できず、売り上げ増は一時的なものと判断すべきである。
また別のケースとして、単価と頻度は下がったものの、客数が大きく増えて売り上げが上がったケースはどうだろう。
この場合、新規顧客の急増は何らかの販売促進施策が奏功した結果であって、将来に発生する見込みのあった需要の前倒し(先食い)にすぎないかもしれない。満足度が低ければリピートは望めないため、今後の売り上げは落ち、再度、販売促進への投資が必要になる可能性すら出てくる。しかし、新規顧客がプロダクトを使用して強い価値を感じ、次回も購買したい気持ちを持てば、売り上げは継続的に上がっていく。
これらのケースはいずれも「売り上げ増」として会社へ報告される。仮に客数、単価、頻度まで報告されていても、さらにその背景にはさまざまな可能性が考えられるため、今後も継続的に売り上げが増加するのかどうかの見通しは不確かであることが理解できると思う。
では、継続的に売り上げを向上させて、収益性を安定させるために何を理解すべきだろうか。
それが、顧客の行動と、その行動を引き起こす意識への理解だ。
なぜ買ってもらえたのか。
なぜ購入頻度が上がったのか。
商品やサービスを実際に購入し体験して、どう感じたのか。
その価値はどう判断されたのか。
これらの答えは、全て顧客の意識に中にある。「その行動を起こす背景にある意識」と「行動した結果の意識」を理解できなければ、一時的な売り上げ増や利益増という事実があっても、実施したマーケティング施策が正しいとは限らない。「売り上げをもたらす顧客の行動」を理解するだけでは不十分なのだ。
顧客を見つめ直し、リードナーチャリング戦略を見直す
リードナーチャリングに必要なことは、顧客が価値として認める利益(便益)と体験を商品・サービスを通じて提供し、継続的に売り上げ(利益)を向上させることである。つまり、リードナーチャリングとは、企業が継続的な事業成長と収益性の向上を達成するために実践すべき戦略そのものだと言えよう。
顧客は多様であり、日々刻々と変化している。そのため、適切にセグメンテーションし、その動きに応じて、次にどのセグメント層へ投資すべきかを見極める必要がある。自社の商品・サービスを継続的に育成するため、複数のリードナーチャリング戦略を描くことが重要なのだ。
例えば、新規顧客化しそうなリードに、最後のひと押しとなるような魅力を訴求して受注する。もしくは離反しそうな既存顧客層に、その層が認知していない商品・サービスの魅力を訴求して離反を防ぐなどである。
そして、その戦略の実行が、ターゲット層の行動の変化へ狙い通りにつながったか、定期的に時系列で追って検証する。
この一連の「顧客の行動や意識を理解したリードナーチャリング」を実行することで、事業と組織が拡大する中でも属人的なリーダーシップに頼ることなく、また各部門で個別最適になることなく、顧客へ継続的に価値を提供していくことが可能になる。
私たちが理解すべきなのは、顧客の意識や多様性、変化であり、これらの理解を深めて「顧客は誰なのか」を定義し、それを共通の横串として組織全体で共有しなければならないということだ。顧客の状況を時系列で可視化し、顧客を起点とした考えでリードをマネジメントするリードナーチャリング戦略を構築し、これらを経営層と共有し、組織全体での顧客の理解とPDCAを繰り返す。それが、“顧客を本当の意味で理解したリードナーチャリング戦略”であり、自社を持続的成長に導くことができる。
本稿のリードナーチャリング戦略の考え方を自社組織の戦略へ落とし込み、実践することで、新たな顧客創造モデルを構築していただきたい。
PROFILE
庄田 順一
Junichi Shoda
タナベコンサルティング 執行役員 ブランド&マーケティング東京本部 本部長。マーケティング戦略パートナーとして、顧客に向けたデジタルとリアルを融合したコミュニケーションの戦略設計コンサルティング活動を展開。ウェブとリアルを融合した集客プロモーションコンサルティングにより顧客創造と売上げ拡大を支援している。マーケティングの戦略策定から実行・運営までのトータルサポートに加え、プロモーション企画とその推進マネジメントを通じた人材育成で、クライアントから高い信頼を得ている。