日本企業における海外事業再編のポイントと進め方 福元 章士
2022年に勃発したロシアのウクライナ侵攻は、原材料やエネルギー価格の高騰など、世界的な景気後退局面を招く事態を引き起こした。一方で、コロナ禍において新たな行動様式は定着しつつあり、未来に向けた企業の変革への対応力が試されていると言える。
昨今、世界経済の勢いが減速し、インフレが進んでいる。2022年4月、約20年ぶりに1ドル=130円台となった為替は、10月には150円台を記録。今後さらに円安が進む懸念もある。
こうした世界的な混乱期においては、円安を考慮しつつ、「利益確保」と「リスク分散」をいかに行うかが重要となる。円安の場合、輸入品が高騰してインフレにつながるデメリットがある半面、海外への営業・販売は日本企業にとってビジネスチャンスになる。特に越境ECの金額は中国のみならず米国も大きく成長しており、あらためて海外展開を視野に入れるべきである。
その中で、米国と中国の経済を切り離すデカップリング(分断)の動きは「新冷戦」とも呼ばれ、世界一の座を巡って大国同士の競争が激しさを増している。米中間の貿易はコロナ禍においても活発に行われる一方、今後の対立先鋭化に備えた各種法整備が両国で着々と進んでいる。
現在、経済安全保障上の重要物資の調達構造を見直す動きが各国で強まっており、サプライチェーン面では国内生産への回帰が進んでいる。円安対応のみならず、地政学的リスクの低減や日本国内での技術力の確保や進化など、国内生産のメリットは大きい。
企業規模の大小を問わず、インフレや円安の影響を受けない会社はない。これらの環境を背景に、全ての企業が、販売・サプライチェーンの両面から海外戦略再構築を実行に移すタイミングにある。
多くの日本企業が、コストメリット追求や取引先の要望に応じるため、海外現地法人の設立やクロスボーダーM&Aによる海外進出を行っている。だが、ビジネス環境の変化や人件費の上昇などにより、当初の計画より大幅に業績が下振れしている企業は少なくない。
また、現時点で業績不振に陥っておらずとも、将来を見据えたときに事業ポートフォリオの組み換えやサプライチェーンシフトといった戦略的な視点から、海外現地法人の存続可否判断を検討すべき企業も多くある。しかしながら、海外事業・海外現地法人に対する方針を「意思決定できない」「実行できない」まま、問題を先送りして赤字が拡大し、親会社からの資金流出が続くなど、グループ全体に対してマイナスインパクトを与えているケースが散見される。
その要因として、次のようなものが挙げられる。
❶海外現地法人が放任状態にあり、存続可否の判断ができるだけの情報がない
❷海外現地法人撤退による事業へのインパクトが計り知れない
❸海外現地法人撤退のやり方やスキームが分からない
❹海外現地法人撤退による親会社における多額の損失の発生(含み損の顕在化)
❺撤退後のビジネスプロセスやサプライチェーンの設計が描けない
撤退の意思決定と実行は、進出する以上に難しいのだ。
海外事業の状況を踏まえて大切なことは、戦略的撤退判断と撤退戦略を、グループ全体最適視点および客観的判断でどのように描くかである。つまり、事業と組織の戦略的判断をグループ全体最適の視点で検討しなければならない。その意味では、現地の状況をいかに調査して、判断できる正確な情報を把握するかが大切である。
タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)では、タナベコンサルティングとグループ会社であるグローウィン・パートナーズ(以降、GWP)およびGWP海外現地パートナーとの連携による「現状認識→オプション設計→戦略判断→撤退実務」までの一貫したソリューションの提供が可能だ。
当社の海外事業再編コンサルティングの進め方を紹介したい。海外事業再編を進める全体像は、【図表】の通りである。海外事業再編の際に最も大切なことは、現地法人の撤退の意思決定だ。この決定をいかにスムーズに実施するかが成功のポイントであり、大きく分けて4つのフェーズになる。
【図表】海外事業再編コンサルティングのフレーム
フェーズ0:クイック経営診断
まず、クイック経営診断で撤退検討に値するかを見極める。具体的には、グループ全体のビジネスモデル分析として取引先動向や製品別採算など、また、グループ各社の収益・財務分析として、グループ連結、グループ間商取引や資本・貸借取引関係などについて調査分析する。海外現地法人に対しては、海外現地法人経営陣へのヒアリングや財務分析、簡易マーケット調査などを実施する。この分析により、今後の海外現地法人の存続可能性について簡易的に検討する。
フェーズI:現状分析・海外現地法人の撤退オプションと方向性の提示
組織再編にかじを切る可能性が極めて高いと判断した場合、フェーズIに進む。ここで本格的な事業・組織・財務デューデリジェンスを開始するとともに、再編後のシミュレーションによる撤退意思決定の最終判断を実施することになる。
フェーズII:海外現地法人の撤退判断と撤退スキームの策定
撤退判断後は、具体的な撤退スキームの策定に入る。海外現地法人撤退後のグループ全体のビジネスモデル設計、収益・財務モデル設計、そして現地法人の撤退スキームの策定である。
フェーズIII:撤退準備・実行推進
最後に実行推進フェーズとして、策定したプランを実行推進する。フェーズIIIにおいて、特に海外現地法人の撤退には1、2年以上かかることも珍しくない。そのため、どこまでサポートしてほしいのかを明確にしておく必要がある。
このように海外現地法人の再編は時間と資金のかかる決断を迫られる。だからこそ早いタイミングで意思決定しなければならない。
今後、グローバル戦略の見直しにおいて再編の意思決定をする機会はますます増えていくと思われる。その際はぜひ、タナベコンサルティングにご相談いただきたい。