秋元康氏から学ぶ人材マネジメント
「AKB48」や「乃木坂46」、「欅坂46」などの総合プロデュースを務め、アイドル産業の中核で“革新”を起こし続ける作詞家・放送作家の秋元康氏。ビジネスパーソンとして、「人材採用」や「人材育成」に関する同氏からの気付きや学びは多い。
まず人材採用について、アイドル業界の採用はオーディション形式が基本である。オーディションでは「ルックス」「表現力」などの項目に対し点数を付けて審査する方法が一般的だが、同氏は異なる。
審査員の誰か1人が「この子いいね」と言えば、たとえ他の全審査員が反対しても合格にするそうだ。審査員それぞれの見方や価値観はそもそも異なっており、その1人と同様の見方や価値観を持つファンがいる、と考えるからである。また、1人の審査員が成長イメージを持てるのであれば、その人材は成長していく可能性があるという。
次に人材育成について、同氏はアイドル業界で活躍するために必須の「環境」と「機会」を与えながら、メンバーを育てている。実際、AKB48を礎に乃木坂46をデビューさせ、乃木坂46が切り開いた道を欅坂46ほか「坂道シリーズ」のグループが歩んでいる。
特にAKB48の人材育成の取り組みは、企業にとって参考になる。AKB48はファン投票による「選抜総選挙」を定期的に実施し、その得票数でレギュラーメンバーが入れ替わっていた。この仕組みにより、メンバーが切磋琢磨し、成長し合える環境と機会を創っていたのである。
また、劇場という活動環境も人材育成の取り組みの1つだ。演じたパフォーマンスが、その場でファンに直接評価されるため、成長しやすいのである。
管理職層の育成が多くの企業の共通課題
日本企業の経営課題に関する調査データは種々存在するが、「管理職層のマネジメント能力」については常に課題感が残る結果だ。中でも近年は「次世代経営層の発掘・育成」が上位に食い込んできている。
タナベコンサルティングが実施した「2022年度企業経営に関するアンケート」の結果によると、自社で今、特に不足している(強化したい)と感じる人材は「マネージャー(管理職)」が52.3%と最も高く、依然としてマネージャー人材の育成は課題となっている(【図表1】)。多くの企業・組織に共通する経営課題であり、そのソリューションが求められているのだ。
【図表1】特に不足している(強化したい)と感じている人材(複数回答)
出所:2022年度企業経営アンケート
企業にとって「人材」は永遠のテーマであり、タナベコンサルティンググループもさまざまなソリューションを提供している。特に近年は、マネジメント層の経営人材育成を課題とする企業が多いが、今回はその中で最も評価をいただいており、年間100社以上が取り組んでいる方法「ジュニアボードプログラム」を紹介していく。
ジュニアボード制度の起源は古い。1930年代の米国で、香辛料で有名なMcCormick社において始められたのが最初と言われている。1932年にC.P.マコーミック氏が36歳という若さで社長に就任したのに伴い、社員の意見を経営に反映させるため、本来の役員会以外に、従業員が参加する疑似役員会や各種の委員会を設けた。同社はこの経営スタイルを「複合経営制(Multiple Management)」、擬似役員会を「ジュニアボード(Junior Board of Directors)」と呼んだ。
最上の経営人材育成手法
ジュニアボードの効果
タナベコンサルティングが提唱するジュニアボードとは、企業経営における「若手(青年)役員会」の位置付けであり、いわば次世代の役員・経営幹部候補をつくる研修である。同時に、単なる座学や経営シミュレーションにとどまらず、「もう1つの役員会」として、自社の経営の現状と将来について具体的な改革プランを発信・提言する機関である。
ジュニアボードメンバーは経営に関与する「環境」と「機会」を得ることで、自然とマネジメント能力や経営に関する知見・考え方を身に付けることができる。
次に、ジュニアボード活用の目的と期待効果について詳しく見ていきたい。(【図表2】)
【図表2】ジュニアボードの目的と効果
出所:タナベコンサルティング作成
1つ目は「事業承継」である。事業承継はどの企業も確実に迎える経営テーマだが、後継社長が現社長の経営に対する思想や考え方を引き継ぐに当たり活用している。
2つ目は、「経営幹部としてのマネジメントノウハウの習得」である。ジュニアボードを運営する過程で、タナベコンサルティンググループからジュニアボードメンバーに必要なノウハウを提供していく。そして、そのインプットを通じた「高品質なアウトプット」を目指している。
3つ目は、「経営意識の向上」である。機会がない限り、経営幹部や役員以外の社員が経営を意識することはなかなかない。ジュニアボードの取り組みを通じ、経営者・経営幹部のモノの見方・考え方を身に付けることができる。
この他にも、「若手による新しくて若々しい発想や、現場からの発想などに基づく提言を現役員会に投げ掛けることで、経営判断に新しい視点を組織に与える」「ジュニアボードの活動を通じて、ボードメンバーの経営者的な感覚・行動を評価し、次世代の役員・経営幹部登用の登竜門とする」「起業家精神の育成」などの効果も期待できる。
ジュニアボードの4つのタイプ
ジュニアボードの取り組み方法は、大きく4つのタイプに分かれている。(【図表3】)
【図表3】ジュニアボードの目的別4タイプ
出所:タナベ経営作成
1つ目は、中長期ビジョンを策定する「ビジョン構築型」である。簡単に言えば、自社のミッションや今後の方向性と市場動向を押さえた上で、中長期ビジョンを描くものだ。
2つ目は、「インプット重視型」のジュニアボード。「働き方改革」など、会社の抱える具体的な経営テーマを定め、全社活動として取り組むためにジュニアボードを活用する方法である。
3つ目は、「アウトプット重視型」のジュニアボードである。新規事業などの事業戦略の構築にウエートを置いたもので、自社の強みを明確にして市場調査を行い、新規事業を提案するタイプだ。この場合、ジュニアボードでの提案後も、新規事業の立ち上げ・推進段階まで展開するため、事業経営者・経営者チームをつくるのに適している。
4つ目は「ビジネススクール型」のジュニアボードである。経営のイロハから事業戦略・計画の立案方法のノウハウまでをインプットし、最終的にはボードメンバー各人が中期のロードマップを作成する。自社の課題に応じ、会社単位で考えるケースや、自部門に絞ってロードマップを描くケースなどがある。
次に、ジュニアボード運用の際の5つの留意事項について押さえておきたい。
❶ジュニアボードメンバーの選任
基本的に社長が人選し、役員会が承認する。選任基準を文書化し定着させる。
❷各部門とのコンセンサスと優遇措置
メンバーは原則、ジュニアボード職務が優先できるように各部門との合意を取り付ける。これにより実務業務を下位者に委譲し、組織力の向上にもつなげる。
❸メンバー構成
6~8名程度が望ましい(コーディネーターとして外部コンサルタントなどを活用)。
❹取締役会の対応
取締役は必要に応じてオブザーバーとして参加し、ジュニアボードの目的を統轄する。また、ジュニアボードからの提言事項は役員会で討議し、ジュニアボードに回答する。
❺情報の共有化
ジュニアボードの進捗状況を定期的に社内へ広報する活動を行い、情報の共有化を図る。
自社の特性に合った手法を取り入れる
これまで「目的別」の4タイプを見てきたが、最後に「自社の特性別」のパターンを紹介したい。ここでは、現社長が創業者か後継者か、またオーナー経営(同族経営)かそうではないか、の4パターンについて見ていく。(【図表4】)
【図表4】自社の特性に合ったジュニアボードが必要
出所:タナベ経営作成
まず1つ目は、創業者でありオーナーのパターンだ。この場合、社長は「自分以外には事業戦略を考えることはできない」と思っていることが多い。そのため、事業戦略ではなく「経営戦略」についてテーマセットをしたジュニアボードがお勧めである。
2つ目は、創業者で非オーナーのパターンだ。具体的には、社内ベンチャーや新規事業で創業した社長などが該当する。この場合、社長は自分自身が事業戦略を立案し、経営も実践してきているので、社員にも同様の経験をさせたいと思っていることが多い。そのため、事業戦略立案から経営までを経験できるジュニアボードが適している。
3つ目は、オーナー家の後継経営者のパターンである。この場合、オーナーの後継経営者だけではなく、先代経営者にも配慮した内容のジュニアボードが良いだろう(先代経営者の考えや意思を落とし込んだ内容など)。
最後に4つ目は、非オーナーの後継経営者のパターンである。上場・中堅企業に多いパターンだが、経営者はオーナーではないため一存で物事を決めず、会社の意思決定機能である「取締役会」などを経て取り組んでいる。そのためジュニアボードでのアウトプットも、取締役会などに提言する必要がある。
この4パターンを踏まえ、自社の特性に合った取り組み方を検討していただきたい。

PROFILE
細江 一樹
Kazuki Hosoe
戦略総合研究所 副本部長。アパレル商社を経て、2006年タナベ経営入社。2021年より北海道支社副支社長兼教育・学習ビジネス研究会リーダー、2022年現職。学校・教育業界における経営改革やマネジメントシステム構築を強みとしており、大学、専門学校、高等学校、こども園などにおいて、経営改革の実績を持つ。また、「人事制度で人を育てる」をモットーに、制度構築を通じた人材育成はもちろんのこと、高齢者・女性の活躍を推進する制度の導入などを通じ、社員総活躍の場を広げるコンサルティングにも高い評価を得ている。著書に『教育改革を先導しているリーダーたち』(ダイヤモンド社)がある。