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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2022.04.01

ステークホルダーとの関係性を高める社会体験価値:中野翔太

社会体験価値を高め他社との差別化を図る

 

近年、企業の経営活動において、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点でSDGs(持続可能な開発目標)達成を目指す取り組みに注目が集まっている。事業を通じて環境・経済・社会の課題を解決するビジネスモデルが注目されており、多くの企業がステークホルダーに向けた発信を行っている。

 

しかし、どの企業も自社の事業をSDGs17のゴールに関連付ける程度にとどまり、社会課題に対してどれだけの影響を与えているのか明確になっていないケースが多い。そのため、SDGs達成に向けた取り組みを行っていても、他社との差別化ができていないのが現状である。他社との差別化を図るためには、SX(ソーシャル・エクスペリエンス:社会体験価値)をいかにしてステークホルダーに伝えられるかが重要である。

 

SXとは、企業にとっての顧客や従業員のほか、取引先や株主、地域社会などさまざまなステークホルダーに対して体験価値を提供していくことを指す。本稿では、SXを高めるための要素と、自社の取り組みをステークホルダーに共感してもらうための手法について解説する。

 

 

自社の取り組みを可視化し目標を再設定する

 

SDGsの達成を通じてSXを高めていくに当たり、まずは「自社の取り組みがESGに対してどのくらい良い影響を与えているのか」を可視化する必要がある。例えば、環境に対しての取り組みを行っている場合、「バリュー・サプライチェーン上でどれだけのCO2(二酸化炭素)が発生しているのかを知る」などである。

 

自社の生産活動でどれだけのCO2が排出されているのかを把握し、削減目標を設定することが重要だ。環境省からCO2排出量の算出式が公開されているため、参考にしていただきたい。

 

社会に対しての取り組みを数値化する場合、社会問題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」を展開するボーダレス・ジャパンの事業の1つであるビジネスレザーファクトリーの取り組みが参考になる。

 

ビジネスレザーファクトリーでは、バングラデシュで働きたくても働くことができない貧しい人々に、安全かつ安心の労働環境を提供している。「『世界中の働くを楽しく』を実現し、貧困のない社会を共創する」をビジョンに掲げ、事業KPI(重要業績評価指標)では、「バングラデシュでビジネスレザーファクトリーの製品を作る雇用者数」に設定している。この指標は、「社会にどれだけのインパクトを与えることができたのか」を可視化するための指標にもなっている。

 

まずは、自社の取り組みを数字で押さえ、目標数値を決定することが重要だ。そうすることで、次の段階であるステークホルダーへのコミュニケーションを行うことができる。

 

 

【図表1】社会体験価値(SX)を高める流れ

出所:タナベ経営作成

 

 

【図表2】小川珈琲のSDGs宣言の概要

出所:小川珈琲HPを基にタナベ経営作成

 

 

各ツールを活用し活動内容を発信する

 

SXは、【図表1】の段階を踏むことで高まっていく。まずは、自社の事業とSDGs17のゴールを整理する。次に、定量的な数値目標を設定していくが、PDCAを回しながら社会課題の解決に取り組んでも、ステークホルダーから共感を得られなければ、企業価値の向上、ひいては自社のブランディングにつながらない。自社の取り組みに共感してもらうためのステークホルダーとのコミュニケーションが重要となる。ポイントは次の2つだ。

 

❶自社社員のSXを高める

 

企業ブランディングには、インナー・アウターブランディングの2要素がある。筆者は、社外とのコミュニケーション(アウターブランディング)を行う前に、定期的な社内ワークショップなどを通して、全社員が自社で行っている社会課題を解決する取り組みを理解し、誇りを持つこと(インナーブランディング)が重要と考えている。

 

あらゆるビジネスシーンにおいて、さまざまな社員がステークホルダーと対話を行っている。SDGsに理解が乏しい社員が1人いるだけで、企業価値を損なう可能性があるからだ。

 

また、SDGs市場に「SDGsウォッシュ」(実態が伴っていないのにSDGsに取り組んでいるように見せかけている状態)という言葉があるように、中身が伴わない形だけのSDGsを揶揄する風潮があることにも留意していただきたい。

 

❷取引先や株主のSXを高める

 

自社の取り組みをやみくもに発信しているだけでは、取引先や株主からの共感は得られない。「この企業と関わることでどれだけのソーシャルインパクトがあるのか」は、体感できなければ分からないからだ。ここで重要なのは、アウターブランディングツールを活用して共感を促すことである。主なツールとして、自社ホームページや統合報告書、サステナビリティーリポートなどが挙げられる。

 

企業事例を1つ紹介したい。コーヒーの製造を手掛ける小川珈琲(京都市)は、SDGs宣言「一杯のコーヒーからできること」の中で、「小川珈琲のコーヒーを飲むことが社会貢献につながる」というストーリーを設計している(【図表2】)。利益の一部がコーヒー生産者の健康・環境を守り、未来のコーヒーづくりの一部を担う好循環のサイクル設計がポイントとなっている。

 

また、統合報告書による顧客価値創造ストーリーの展開も重要である。統合報告書とは、法的に定められた財務情報に加え、知的財産などの非財務情報をまとめたものだ。

 

SDGsの取り組み状況は、非財務情報としてステークホルダーに発信することが多い。統合報告書でSDGsの取り組みを紹介する場合、日々の経営活動(ビジネスモデル)がSDGsとどう連動し、サービスの付加価値を高めているのか、自社のビジネスモデルとSDGs17のゴールの関係性を図で示して伝えることが重要である。

 

本稿では、SXを構成する要素と、ステークホルダーに取り組みへ共感してもらうための手法について解説した。SXをさらに追求するためには、自社のSDGsの取り組みを数値化し、ステークホルダーの共感を得るためのコミュニケーションが重要である。

 

まずは、ファーストステップである自社の事業とSDGs17のゴールの整理から始め、アウターブランディングツールを活用して自社の取り組み内容を発信していただきたい。

 

 

 

 

 

 

PROFILE
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中野 翔太
Shota Nakano
タナベ経営 ドメインコンサルティング大阪本部。SDGsビジネスモデル研究会のサブリーダーとして、SDGsを軸とした戦略構築・教育を展開。「ステークホルダーがワクワクしないSDGsは展開しない」を信条とし、企業価値向上に向けたコンサルティングを行っている。