ターニングポイントとなる事業承継
「ファーストコールカンパニー(100年先も顧客から一番に選ばれる会社)」を目指す上で、全ての企業は事業承継を経験する。企業の成長過程において、事業承継は良くも悪くもターニングポイントになる。特に、同族企業(ファミリー企業)においては親族への事業承継を行うことが多いものの、親族だからこそ承継できる要素がある半面、親族だからこその難しさもある。
本稿では、親族への事業承継を成功させるための「志の承継」と「事業承継5つのメソッド」を確認する。
親族であるがゆえに本音でぶつかってしまい、後継者に対して経営者としての価値観を共有するプロセスを正しく踏めていない企業が多い。そのような企業の経営者は、後継者の判断基準・経営者視点の不足に嘆きがちだ。しかし、それは後継者が悪いのではなく、現経営者が経営に対する志や判断基準を正しく承継できていないことが課題である。
タナベ経営の事業承継コンサルティングでは、「事業承継キャンプ」を実施し、志や価値判断基準を引き継ぐことを目的に、判断基準を「憲章」として可視化することが多い。
【図表】は、クライアント企業A社社長の経営における考え方・判断基準をヒアリングし、体系的にまとめた憲章を抜粋したものである。
【図表】A社の経営者憲章
社長の価値判断基準を可視化するポイントは、可視化するプロセスを後継者に見てもらうことだ。社長が思いを語る場に同席し、憲章としてまとめていくプロセスを通じて、判断基準の背景や狙いを理解してもらうことが肝要である。
ただし、これを親族メンバーだけで行ってしまうと感情が入り過ぎ、前に進まないことが多いため、コンサルタントが第三者としてファシリテートすることが重要である。
❶事業承継カレンダー
「事業承継は10年事業である」とタナベ経営は提唱している。企業経営に経営計画書があるように、事業承継にも計画書が必要である。その計画には、人・事業・資本の3つの要素が求められる。
10年の事業承継カレンダーは、「3・4・3の原則」に基づいて作成する。初めの3年は後継者に専務以上の役割を経験させる。次の4年は代表者との並走期間。さらに次の3年は会長(先代経営者)が代表権を外すというスケジュールである。
もちろん会社によって時間軸の前後を判断することもあるが、原則としてこのステップは変えてはいけない。また、後継者を支える幹部の育成も承継カレンダーの中で並行して進める。後継者の年齢から上下7歳のメンバーを中心に組成することが望ましい。
❷中期経営計画
未来は予測するためにあるのではなく、創るためにある。後継者には、自社の未来を描く力が必要である。次世代の経営チームでビジョンを描き、それを推進することが未来を創ることにつながる。