中長期ビジョン策定とM&A戦略
本稿では、中長期ビジョンにM&A戦略を取り入れた企業のコンサルティング事例を紹介したい。
A社は年商20億円、従業員50名の建設業の企業だ。タナベ経営はA社に対し、10年後を見据えた中長期ビジョンコンサルティングを実施した。ビジョン策定の大きなテーマは、10年後に年商100億円企業となること。足元の現状分析から開始し、現状の事業や組織体制から10年後までのロードマップを作成した。
10年後の目標を達成するためには、既存事業の成長と新規事業の開発が必要であり、自社の課題改善や組織体制の刷新が必要であった。コンサルティングを進める中で、自力で成長戦略を描くだけでなく、他社とのアライアンスやM&Aにより企業を譲り受けることで成長が加速するため、M&Aによるターゲットリスト作成や買収基準の判断などのコンサルティングを行った。
ビジョン策定のコンサルティングを進める上で、A社の事業内容を詳しく分析した。A社の既存事業は大きく3つに分類される。既存事業の成長に向けて、人員の強化、技術力の向上、営業力の強化、新規エリアの進出を検討した。
また、既存事業とのシナジーを踏まえ、新規事業としては建設資材の製造を検討した。というのもA社社長には長年、工事だけでなく技術力を生かしてメーカー機能を保有したいという思いがあったからだ。
これらを踏まえて事業戦略の方向性を明確化し、アライアンスやM&Aを行う際に満たすべき条件となる「強化・改善点」と「パートナーとの提携」を洗い出した。(【図表】)
【図表】アライアンスやM&Aを行う際に「満たすべき条件」
満たすべき条件を洗い出すことで、アライアンスやM&Aを行うべき企業先が明確になった。この条件を基に、「受動的な情報収集」と「能動的なアプローチ」の活動を行うのがセオリーだ。
受動的な情報収集とは、金融機関やM&Aを取り扱う専門会社へ明確に譲渡企業の条件を伝えることである。この方法は、M&A市場にある案件しか紹介されないという欠点がある。良質な案件はストロングバイヤーに集約されるため、紹介されるのは良質とは言えない案件ばかりであることも少なくない。
一方、能動的なアプローチとは、満たすべき条件を基に、独自で対象先をリストアップし、アプローチを行うことである。M&Aが実現するかどうかは対象先の個別事情もあり、簡単ではないが、100%譲渡のM&Aだけが目的ではない。A社にとって自社独自ではできないことをアライアンスによって解決できれば、目的は達成できる。
A社の既存事業や新規事業の満たすべき条件を明確にし、具体的な対象企業のリストアップを行った。対象企業の満たすべき条件が明確であればあるほど、A社にとって有効なリストとなる。
中長期ビジョン策定のコンサルティングを通じてA社の既存事業や新規事業の戦略に携わることができたからこそ、ビジョン実現に役立つ具体的なM&A戦略を策定することが可能になった。A社は今後、独自の買収候補企業リストを基に、具体的にアプローチを行うフェーズに移行する。
最後に、中長期ビジョンを達成するための「10年ロードマップ」を作成した。既存事業や新規事業において、どのタイミングで何をすべきか、どうあるべきかを示した一覧表である。
フェーズIは「組織基盤固め・新規事業立ち上げ」、フェーズIIは「グループ経営体制への移行・新規事業確立への資源再配分」、フェーズIIIは「グループ100億企業体制の構築」だ。10年ロードマップを策定することにより、フェーズごとに行う内容や目指すべき姿が明確化される。M&Aとして強化する分野やタイミングも明らかになった。
中長期の成長戦略において、M&Aは有効な手段である。しかし、M&Aを視野に入れていたとしても、何をどうするかについて具体的に決めていない企業は多いのではないだろうか。M&Aを行うために譲渡企業に求める条件や投資判断基準、M&A後のシナジー効果など把握できていないことが多いとも言えよう。
金融機関やM&Aの専門会社から場当たり的に提案された案件を個別に検討しているだけでは、踏み込んだ成長戦略は描けない。まずは中長期ビジョンの策定を行い、M&Aの目的を明確化する必要がある。戦略の1つとして、ぜひ広い視野を持ってM&A戦略を検討いただきたい。
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