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コンサルティングメソッド

「戦略人事」へのアプローチ

多様な働き方を実現しつつ成果を出せるか。コロナ禍をきっかけに、この命題が企業の存続を左右する経営課題となった。未来を創る人材を確保・育成する「戦略人事」とは。
コンサルティングメソッド 2021.10.29

経営機能としての人事PMI:HRコンサルティング部

 

 

M&Aにおける人事PMIの重要性

 

近年M&Aが活性化している。特に2017年以降、M&A件数は急増し、2019年には4000件を超えた。新型コロナウイルス感染拡大に伴って2020年は3730件と減少したものの、アフターコロナにおいては、事業拡大や事業成長の加速化を目的としたM&Aがさらに増えていくと予測されている。

 

また、M&Aの在り方にも変化がみられる。近年は特に、買い手が売り手の企業を買い取って支配する「企業買収」ではなく、企業同士の事業シナジーを高めたり、互いの弱みを補完したりする目的の「友好的M&A」が少なくない。

 

友好的M&Aを成功させるために重要なのがPMI(Post Merger Integration)である。これは買収に伴う事業・組織・機能の統合を意味しており、中でも組織・人事の領域においては、両社の企業文化や経営スタイル・マネジメントスタイルの違いを踏まえ、慎重に行うべきテーマである。

 

支配型M&Aの場合、買い手側の論理が強調され、M&Aが進められることが多い。一方、友好的M&Aの場合、その目的に沿い、両社は何が譲れないのか、何を統合していくのかを十分に議論し、慎重に進めていく必要がある。

 

 

人事PMIを推進する経営機能

 

人事PMI実施に当たっては、推進を担う経営機能が自社にあることが前提となる。グループ経営企業ではグループ本社、事業会社(単独)の場合は経営企画部などの社長直轄組織がこの機能を担うケースが多い(本稿ではグループ経営を想定)。

 

M&Aを中期経営計画に掲げ、推進体制を整備しているにもかかわらず、実践に至らない企業は多い。要因として、M&Aの実践ノウハウ不足や、理想とする案件に出合えていないことに加え、そもそもM&A戦略が十分に構築されていない場合も多い。中には、M&Aの必須条件(業種・業態・規模・従業員数・保有サプライチェーンなど)でさえ整理されていないケースもある。こうした「計画なきM&A」の成功は考えにくい。

 

グループ本社には、事業戦略と連動したM&A戦略の設計から実務、その後のモニタリングやマネジメントまでの一貫した仕組みと、それを推進する機能が求められる。M&Aを本格的に進めるには、まずこれらの機能の強化から始めたい。

※レコフデータ「グラフで見るM&A動向」(MARR Online)

 

PMI推進の3つのポイント

 

続いて、M&A成功の鍵を握る人事PMI推進のポイントを解説する。

 

M&Aのプロセスは、M&A戦略の設計に始まり、デューデリジェンス(DD)※1などの実行段階、後段階であるPMIへと続く(【図表】)。重要なのは、PMIに関する議論を後回しにしないことである。言い換えれば、M&Aの戦略設計段階で、経営統合のビジョン(目指す姿)に沿ったPMIの方向性を定めておくことが肝要であり、この方向性に沿って企業間のコミュニケーションとDDが行われるべきである。そして、これら一連の流れを推進する役割がグループ本社に求められる。

 

 

【図表】M&AプロセスでのPMI推進ポイント

出所:タナベ経営作成

 

 

次に、人事領域におけるPMI実行のポイントを考えたい。PMIと言っても、M&Aの目的や企業規模によって注力すべき内容は違ってくる。例えば、メーカーが直販体制の強化を目的に販売会社をM&Aする場合と、メーカー同士が経営統合する場合ではPMIの着眼点が異なる。

 

前者の場合、製造と販売という、機能特性の異なる会社が統合し、サプライチェーン強化による付加価値向上を目指すものと考えられる。その際、人事評価におけるコンピテンシー※2の統合や、報酬制度の見直しなどがPMIで注目すべきポイントの1つとなる。

 

後者の場合、例えば一方が安全第一、もう一方はスピード第一を理念に掲げているとき、企業文化の統一が必要となる。

 

このように、M&Aの目的に応じてPMIのポイントは異なるが、その中でも共通して押さえるべき項目が次の3点である。

 

1つ目はハード面で、社員の成長や働きがいをサポートする人事制度(等級・評価・賃金)や教育制度、福利厚生、退職金制度といった経営システムがこれに該当する。

 

2つ目はソフト面で、主に企業文化や風土、コミュニケーションやマネジメントである。いずれも人に関わることであり、両社社員のモチベーションにもつながる重要なポイントである。歴史の長い会社ほど“企業DNA”が浸透しているケースが多く、風土の違いは働く社員の価値観の違いに直結するため、十分に話し合うことが必要である。

 

3つ目はガバナンスである。特に決裁権限や意思決定構造については、両社合意のもと明確なルール化が必要となる。グループ本社としてどのような経営機能を保持(集約)し、M&A対象企業に対して何をどこまで任せるのか。友好的M&Aでは対象企業に任せる領域が多くなる傾向にあるが、権限・役割が曖昧にならないよう十分に検討すべきである。

 

M&Aを成功させるために、グループ本社がM&A戦略の設計からPMI実行、その先の企業成長を支える機能を保有しているか。そのための仕組みがあり、人材が配置されているか。あらためて確認していただきたい。

 

 

※1…M&A実施にあたり、対象企業の価値やリスクなどを調査すること
※2…ハイパフォーマーに共通した行動特性

 

 

人事研究会

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