あらためて注目されるトータルリワード
2020年1月に新型コロナウイルス感染が日本国内で初めて確認されてからもうすぐ2年になる。この2年間で市場環境は大きく変化したが、その変化に迅速に対応している企業と対応できていない企業には大きな差が開きつつある。
変化したのは環境だけではない。社内の意識も変化している。この2年間の対応を見て、自社への不満や将来に対する不安を感じた社員は多いのが実情である。
こうした不安を抱えた状態だと、やりがいや働きがいを感じることができず、離職につながるケースも多い。また、ハイパフォーマー人材ほど、自分の成長のためにも自社の成長を重視しており、「コロナ禍をきっかけにスタートアップ企業に転職した」というケースも多い。
「安心」「成長」というキーワードをいかに明確にし、社員に伝えるか。そして、働きがい・やりがいにつなげることができるかが、企業の喫緊の課題である。
このような環境下で、「トータルリワード」という考え方が再び注目を浴びている。
トータルリワードとは、従業員に対する報酬(リワード)を総合的な動機付けの仕組みとして捉える考え方だ。「金銭的な報酬」だけでなく、「非金銭的な報酬」も含めて考え、従業員のモチベーションにつながる報酬体系を整備する仕組みである。(【図表】)
【図表】トータルリワードの全体像
出所:タナベ経営作成
重要なのは、非金銭的な報酬である。ハーズバーグの二要因理論※でも述べられているように、金銭的な報酬は、慣れてしまえばすぐにそれ以上を求めるようになり、社員の動機付けにはなり得ない。非金銭的な報酬こそが、社員の動機付けにつながる。
労働環境の改善に取り組むことで、社員が安心して前向きに働くことができる環境を用意できる。そこに、さらに新しい仕事や責任と権限を与えて成果につなげることで、仕事の面白さや自分自身の成長を感じ、働きがいを感じてさらに仕事に取り組むようになる。
このような善循環をつくり上げることができれば、社員はさらに自発的に仕事に取り組むようになり、想像以上のパフォーマンスを発揮する。そのためにも、非金銭的報酬の整備が求められている。
※米国の臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが唱えた、職務満足および職務不満足を引き起こす要因に関する理論。
労働環境を整えて安心感を与える
では何から実施すべきか。まずは、社員が安心して働くことのできる労働環境の整備が必要である。大きく分けると、実行具体策として次のような項目が挙げられる。
❶働きやすさ
勤務場所・オフィス環境の改善、充実した設備、女性が働きやすい職場づくり、育児・介護休暇取得の推進
❷人間関係
信頼できるマネジャー層の育成、優秀な同僚と切磋琢磨できる環境づくり、差別のない職場づくり
❸勤務の柔軟性
柔軟な勤務形態・勤務時間の実現、各種休暇の取りやすさ、地域限定社員制度・副業や兼業などの導入、週休3日制の導入
ワーク・ライフ・バランスを改善し、生産性向上へ
コロナ禍の影響により、テレワークやフレックスタイムなどの導入が多くの企業で進み、以前と比較すると柔軟性の高い働き方が可能になりつつある。これを一時的な対応で終わらせるのではなく、さらに推し進めていけば、従業員のワーク・ライフ・バランスが改善し、仕事への意識が高まり、生産性も上がる。
また、「働き方改革」の観点から、選択的週休3日制を導入する機運も高まっており、大企業ではすでに導入が始まっている。休暇を増やす分、給与を減らす企業と維持する企業に分かれるものの、今後も導入する企業は増えていくだろう。
中堅・中小企業は、労働環境を大きく変えるに至っていないところも多いだろう。しかし、世の中の流れは確実に労働環境改善に進んでおり、実現できる企業とできない企業で採用や離職に影響が出ることが予想されるため、早期の対応が必要である。
成長につながる仕事や環境を与え、働きがいにつなげる
従業員が安心して働ける環境をつくることはとても重要だが、ハイパフォーマー人材にとってさらに重要なのは、仕事そのものの内容である。
ハイパフォーマー人材は、会社や仕事に魅力があり、自身のキャリア構築につながるどうかが重要だと考えている場合が多い。そのような人材にとって、仕事の報酬は仕事である。活躍している社員にはさらに活躍の場を与えることで、自身のキャリア構築はもちろんのこと、他者からの評価・称賛にもつながり、それがまた働きがいとなる善循環が生まれる。
例えば、パナソニックには「eチャレンジ」という社内公募制度がある。各部署が必要な人材を公開して一斉に募集する制度で、社員は自己実現に向けて挑戦することができる。また、同社は2018年から「社外留職制度」をスタートさせた。この制度は、パナソニックに籍を置いたまま1年ほどベンチャー企業などの他社に出向できる制度である。
風土や価値観が異なるスタートアップでの業務経験を通じて、イノベーション創出につなげるという主旨があるが、さまざまなキャリアの積み上げ方が存在することで、ハイパフォーマー人材のモチベーションアップや離職を防ぐことにもつながる。
1つの部署にとどまる限り、いつかマンネリ化する。部署内で新しい仕事を与えることが難しいのであれば、同社のように、部署外や社外に視点を向け、新しい環境を提供することも1つの手法である。金銭的報酬だけに注目するのではなく、自社の社風に合わせた独自の非金銭的報酬を検討・構築・活用し、社員に働きがいを提供していただきたい。

タナベ経営 経営コンサルティング部 部長代理 内田 佑(うちだ ゆう)
2008年タナベ経営入社。2020年部長代理。中堅・中小企業の人材採用、5S、営業力強化のコンサルティングを中心に活動。「社員がイキイキ働ける企業づくり」を信念とし、企業の成長発展、活性化に向け日々活躍中。各活動の仕組みづくりから定着に至るまでの着実なサポートでクライアントから高い評価を得ている。戦略採用研究会
タナベ経営の研究会とは、同じ顧客課題の解決に取り組む仲間とともに、視察先企業や最新の企業事例を通じて、ビジネスモデルやマネジメント手法を研究するプラットホームです。
PROFILE
内田 佑
Yu Uchida
タナベ経営 経営コンサルティング部 部長代理。2008年タナベ経営入社。2020年部長代理。中堅・中小企業の人材採用、5S、営業力強化のコンサルティングを中心に活動。「社員がイキイキ働ける企業づくり」を信念とし、企業の成長発展、活性化に向け日々活躍中。各活動の仕組みづくりから定着に至るまでの着実なサポートでクライアントから高い評価を得ている。
