大半の業界が成熟期を迎え、既存ビジネスだけでは持続的成長が困難な時代となっている。 特に地域企業では、限られた範囲での成長戦略が求められる。 そうした中で成長市場への参入は有望な選択肢であり、現在の成長市場の筆頭はヘルスケア市場と言える。 この機会に、業界の現状・参入への着眼点を整理し、ヘルスケア市場へ参入を検討する際の参考としていただきたい。
他業界と大きく異なる「制度対応型業界」という特徴
ヘルスケアビジネス=保険内ビジネス+保険外ビジネス
ヘルスケア市場は、保険内市場と保険外市場で構成されている。病院をはじめ医療機関、要介護者向けの各種サービスは保険内市場である。一方で、フィットネスジムや健康食品などは保険外市場である。
ヘルスケアビジネス=制度対応型ビジネス
国民が健康・安心・安全な生活を送るために、社会保障の運用が必要であり、診療報酬改定(2年に1度)といった行政によるコントロールが存在する。保険内ビジネスはこの制度改正の影響を受ける。言い換えれば、変化する制度への迅速な対応が求められる。
例えば、医師が個人宅・施設へ訪問する「在宅診療」を行えば、これまでよりも加算(収益増加)、従来通りの通院は減算(収益減少)といったルール改正である。
保険内ビジネスのように直接的な影響は受けないが、間接的に保険外ビジネスも制度変更の影響を受ける。他業界と異なり参入障壁が高いと感じる要因は、この制度対応の必要性にある。
ヘルスケア分野への新規参入においては、制度変更の影響を直接的に受ける保険内ビジネスは避けるべきである。あるいは成功方程式を有するFC(フランチャイズ)加盟による展開が望まれる。
ターニングポイントを迎えるヘルスケア業界
ご存じの通り、少子高齢化の加速が社会や経済、市場の構造的変革をもたらしている。日本は次の2つの代表的な問題を抱えており、ヘルスケア業界は大きなターニングポイントにある。
2025年問題
日本は高齢化率21%以上の「超高齢社会」だが、2025年には「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり、4~5人に1人が後期高齢者という「超・超高齢社会」に突入する。
医療や介護の需要が高まり、社会保障の急増が予想される中、次のような対策が求められている。
環境激変に適応した新たな社会システムの構築
地域包括ケアシステムを完成させ、地域のことは地域で解決する仕組みの構築
社会保障の限界・崩壊への対策
医療保険・介護保険など社会保障制度の段階的見直し
医療技術の進化による、寿命と健康寿命へのギャップ対策
「社会保障費の拡大=要介護高齢者×非健康期間」であり、医療技術の進化によって健康寿命を延伸する取り組みが必要
2040年問題
高齢者(65歳以上)人口がピーク(約4000万人)を迎える2042年、高齢者人口の3割が85歳以上と「高齢者の高齢化」が進み、貧困・孤立・認知症などの問題が深刻化する。必要な社会保障費は現状の1.6倍以上と推計される一方、支える側となる現役世代の急減により世代間不均衡が極限に達するため、次のような対策が求められる。
人中心社会の実現
先端技術の活用によるSociety5.0社会の実現(次世代医療の深化×総合ヘルスケアサービスへ範囲拡大)
シームレスな医療の実現
個人データの共有社会の実現、遠隔診療・訪問診療など、地域を1つの組織と捉えて切れ目のないサービス網を構築
未病(予防医学)による、寿命と健康寿命のギャップ対策
2025年問題の対策は医療技術の進化による健康寿命延伸であったが、2040年問題では、病気になる前の「健康から未病(予防医学)」へ注力(上流対策)
以上から、求められる対策は、①短期対策:2025年までは「超高齢社会対策の基盤構築」、②中長期対策:2040年に向け「技術進歩を踏まえた安心・安全・住みやすい世の中の構築」の2つと言えよう。
求められる課題解決
環境変化により生じる社会課題の解決は急務である。
言い換えれば、新たなビジネスの機会が創出され、拡大している。代表例を4つ挙げよう。
各地・各分野で進む地域包括ケア
民間型ケアモデル
大手企業が先頭となり、地域連携によって「地域包括ケア」へ取り組む
コミュニティー形成
住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられる「共生社会」を目指し、通いの場の提供といったコミュニティーの形成
地域の専門ハブ化
栄養ケア・ステーションといった、地域住民・地域医療・地域専門家・民間企業などが用途に応じて参画する「地域専門ハブ」を提供
医療機関のシームレス化の加速
遠隔診療
制度変更により定期的通院が困難な高齢者へ「遠隔診療」を強化(コロナ禍で加速)
訪問医療
遠隔診療と同様に、「訪問診療」「訪問処方」などの訪問型医療も強化
アプリ処方
医師×アプリ開発メーカーによる治療アプリが承認され、医師がアプリで処方する時代が到来
健康寿命延伸に向けた未病・予防分野の進化
データヘルス革命
特定医療制度やレセプト(診療報酬明細書)の電子化によりデジタル化されたビッグデータを分析し、健康増進や病気の予防へ活用、医療費削減・遠隔診療にも効果的
遺伝子活用による個別予防の進化
リキッドバイオプシー(血漿、尿、唾液など)を利用した診断、腸内フローラによる個別傾向の把握といった未病予防が進化
継続・定着へのインセンティブ
一部の健康組合や市町村では予防・健康づくりに取り組む加入者にポイントを付与し、継続的・主体的な取り組みを推進
ヘルスケア業界をけん引するセルフヘルスケア市場
実年齢と健康年齢のギャップ
実年齢と健康年齢の差を踏まえ、健康への取り組みを推進(例:「肌年齢」「髪年齢」などヘルスケア全般で「○○年齢」が注目されている)
個別プログラム・製品の提供
AIなどの技術を加味して、自分自身の健康状態にあったサプリメントを提供(例:顔の画像診断から最適な化粧品のリコメンドサービスなど)
セルフヘルスケア環境の拡大
フィットネスジム×自宅アプリ、ウエアラブルデバイスといったセルフヘルスケアの取り組みに向けた機器環境の整備が拡大
ヘルスケア市場参入の着眼点
3つのシフト×2つの事業領域
3つのシフトに対してどのような貢献(参画)が可能か
国から地域へのシフト
「地域をシームレスにつなぐ」ことが求められるものの、まだ地域格差がある、あるいは提供分野・範囲に偏りがあるのが実態である。見方を変えると、シームレスにつながっていないところが事業機会と言える。成熟社会が向かう方向は、より安心・安全、快適な生活であり、これらの実現に向けた事業機会は多い。
治療から健康、未病予防へのシフト
100年寿命時代において、健康寿命を100年に近づけていくことが求められる。特に病気になってからの治療(下流対策)ではなく、健康状態の維持、未病予防(上流対策)に注力すべきと言える。いかに日常から健康に取り組むか、言い換えれば、健康投資ビジネスに大きな機会がある。
個別カスタマイズへのシフト
より精度の高い、効率的な取り組みを行うためには、汎用的・画一的なサービスではなく、個々に対応したサービスが求められる。つまり、個別カスタマイズへのシフトである。
2つの事業領域のうち、どの領域に参入するか
健康段階別におけるヘルスケア領域
ヘルスケアの4区分のどこに参入するのかを明確にする。
Beauty:美容、Wellness:健康、Health:未病・予防、Medical:治療
シーン別におけるヘルスケア領域
ヘルスケアの3区分のどこに参入するのかを明確にする。
カラダ(体)のヘルスケア、ココロ(心)のヘルスケア、クラシ(暮らし)のヘルスケア
上記2つの着眼点はマーケットイン発想である。これに対して、自社の強みと経営資源を考慮したプロダクトアウト発想を掛け合わせると、参入すべき事業領域が見えてくるのではないか。マーケットイン、プロダクトアウトに後先の順位はなく、重要なことは「勝てる場の発見=事業機会×強み・経営資源」である。
ヘルスケア市場は残された数少ない成長市場であり、地域企業との親和性が高い市場である。ぜひ地域貢献に直結するヘルスケア事業への参入・拡大によって、持続的成長を目指していただきたい。
ヘルスケアビジネス成長戦略研究会
ヘルスケア業界は成熟化社会における国内最大の成長マーケットです。しかし、「ヘルスケアに参入すれば成長できる」というのは過去の話。地域密着型の成長モデルを共に検討しませんか。