【図表1】雇用の過不足推移
母集団形成がしにくい時代
新型コロナウイルス感染拡大の影響により大規模な合同企業説明会が減少し、企業と求職者の交流の場が少なくなっている。このような環境下、「求職者との接点づくりとして重要な母集団の形成ができなくなった」という相談をクライアントからいただくことが増えている。コロナショックにより、採用機能のもろさがあらわになったと言わざるを得ないだろう。
企業の採用機能は、他のバックオフィス機能と比較してもアナログ優位の業務と考えられてきたため、デジタル化が遅れているのが実態である。一方で、エン・ジャパンの「22卒学生600名に聞く『オンライン就活』意識調査-『iroots』ユーザーアンケート集計結果-」(2020年6月)によると、求職者の7割はオンラインによる就職活動にメリットを感じている。主な要因として、オンラインで会社説明会が開催されることで交通費を削減でき、地方と都会の垣根がなくなったことが挙げられる。
また、今後の展望として、「コロナショックを契機に採用環境は緩和していくだろう」と楽観的な考えを抱く経営者は少なくない。だが、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」の雇用人員判断DI(指数)を見ると、コロナショックの影響により全産業ベースでは人手不足の傾向が続いている。(【図表1】)
人員余剰が社会全体を覆ったリーマン・ショック後とは大きく異なる。経済全体を見渡すと、労働需給のひっ迫感は今も強いことがうかがえる。つまり、採用活動は依然として厳しい環境であり、ニューノーマルに対応した採用が求められている。
自社の採用価値を伝える技術
ニューノーマルな採用を進めるに当たり、注意すべき点が大きく2つある。
(1)採用サイトの見直し
いまだに採用サイトを持っていない、または募集要項を掲載しているだけの中堅・中小企業は少なくない。求職者に直接会うことが難しく、非対面での採用活動が必要な今、ウェブで自社の情報を正しく公開できていない企業は、求職者から選ばれる可能性が限りなくゼロに近づく。採用サイトの見直しを進めるに当たり、まずは情報を時系列・空間系列・人材系列で整理すると良い。(【図表2】)
文章や写真だけでなく、動画を活用した採用サイトへのリニューアルも考えていただきたい。事例を1つ紹介する。電気工事業A社は、新しくてきれいな社屋を採用活動のアピールポイントにしている。毎年、職場見学会を開催し、求職者に社屋を見せることで志望度を高めていた。しかし、コロナ禍で社屋を見せることができない状況となり、社員がビデオカメラを持ち社屋を歩く「バーチャル職場見学会」の動画を作成した。地域や同業の中でも新しい取り組みとして目立ち、結果として求職者の応募数はコロナ禍前よりも増えたという。
会社説明会を動画で作成し、ウェブでいつでも視聴可能にしておくことで、リアル開催に参加できなかった求職者の取りこぼしを防ぐことができる。加えて、休日でも自社サイトの閲覧数が伸び続けるため、生産性向上にもつながる。
まずは、採用サイトを訪問するユーザーの平均滞在時間3~5分を目標にする。そのためには、掲載するコンテンツを企画し、増やし続ける継続力が重要である。地域や業界でナンバーワンのコンテンツ量を目指していただきたい。
(2)オンライン対応
応募から入社までの採用業務フローを全てオンラインで完結できる仕組みを構築することが求められる。先に挙げたエン・ジャパンの調査では、求職者がオンラインでの参加に抵抗を感じる就職活動イベントは、「最終面接」「インターンシップイベント」であることが分かった。つまり、この2つの採用フローをオンラインで最適化することで、他社との大きな差別化を図ることができる。
【図表2】採用サイトに掲載すべき情報
ニューノーマル時代の採用
採用に関するコンサルティングを重ねてきた経験から言うと、他社との差別化の成否を分けるのは、インターンシップ企画のつくり込みであると感じる。就職活動を行う学生の要望として、「ウィズコロナでも前向きになれるような就活テクニックを教える企画」や、「学生同士で就職活動の情報交換ができる交流会」といったオンライン企画に参加したいという声が多い。
現在、インターンシップはリアルでの開催が大半を占めている。内容は、会社説明会の延長や現場案内など、自社のPR重視の企画がほとんどだ。差別化できている企業は、参加することで参加者自身の「学び」や「成長」に寄与している。リアルでの開催すら企画づくりが重要なインターンシップだからこそ、オンラインに対応し、かつ満足してもらえる企画を、採用担当者だけでなく他部署のメンバーも巻き込んでつくるべきである。
企業の採用活動は、「人手不足」という局面を迎えて大きく変化している。コロナショックによるデジタル化の加速で、採用活動のやり方そのものを変えなければならなくなった。50年、100年と永続発展していく企業づくりの第1ボタンである採用を見直すきっかけにしていただきたい。