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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2021.05.06

後発企業が勝機を見いだす6つのポイント:大嶺 正行

 

 

 

 

「戦略」と「戦術」の違い

 

「戦略」とは何かを説明するとき、「戦略は『What』であり、目的・考え方である」と話している。加えて、「戦術とは『How to』であり、手段・やり方である」とも説明している。

 

例えば、「3年後に地域で業界ナンバーワンになる」というのは戦略(目的)であり、「MA(営業の自動化)ツールの導入」は戦術(手段)である。MAツールの導入が目的になってしまうと営業効率の改善にはつながりにくくなり、本来の目的を達成できないだろう。

 

企業経営者にとっての戦略とは全社の課題対応であり、各部門の課題対応は戦術である。一方、部門長にとっての戦略とは部門全体の課題対応であり、各チームの課題対応が戦術である。経営者の戦術が、部門長の戦略と合致しているか。その一貫性が重要だ。

 

全社員に大局的な視野(全社的な課題)を理解させることは、経営者の最大の仕事である。建物の1階にいる人と10階にいる人では視界が違う。このギャップをいかに埋めるかは、経営手腕そのものだろう。その努力を怠れば、「ギャップ経営」と言われても仕方がない。

 

 

ライバルに勝つ戦略の定石

 

戦略を「持てる資源(ヒト・モノ・カネ)の配分」と定義付ける有識者は多い。タナベ経営では、持てる資源の「重点・集中・投下」が経営の原理原則であると、以前より提唱している。他社との競争で優位に立つには、自社の強みを一点集中投下することが肝心である。

 

戦略を組んだ上でマーケットに挑めば、最小限の労力で大きな成果を上げられる。重要なのは、「ライバルに勝つこと」だけを考えるのではなく、「どうすればライバルに負けないか」を、冷静沈着に、事実に基づいて押さえることだ。古代中国の兵法書『孫子』の訓えには、「敵を攻めんと欲せば、必ず謀を先にせよ」とある。戦略とは、不透明な時代においてもビジネス競争に勝つための定石なのである。

 

事例を1つ紹介しよう。作業服やアウトドア関連用品の製造・販売を手掛けるワークマン(群馬県伊勢崎市)は、2020年3月期に9期連続で最高益を更新し、全国の注目を集め続けている元気印企業である。販売不振に苦しむアパレル専門企業をしり目に、2021年3月期の業績予想では、通期のチェーン全店売上高が前年比13.9%増と驚異的な伸びとなる見込みだ。

 

モノが売れないと言われる時代に同社が人気を独占しているポイントを挙げると、①デザイン性にこだわった「カッコいい」と思わせるセンス、②あらゆるロケーションを想定した機能性(コロナ禍における自転車通勤用カッパなど)、③高機能でありながら低価格な商品の実現、④SPA(製造小売業)方式の4点である。この結果、生産・加工コストの低減を可能にし、良質でファッション性の高い商品を安定提供する「低価格でハイクオリティーな商品」を実現しているのだ。

 

昔の「安かろう、悪かろう」では顧客は付いてこない。企業努力によって「安くても高品質なもの」を「ライバルと比較しても圧倒的に安価で提供し続ける」ことによって信頼が生まれ、ワークマンの業績は飛躍的に伸び続けているのである。

 

こうした元気印企業に共通しているのは、「安価・高品質・高サービス」という商売の原点を徹底しているところだ。これは専門小売店だけでなく、あらゆる業種においても共通する。今後、当たり前のことを徹底してやり切る企業と、そうでない企業の業績格差は広がる一方だろう。

 

顧客とは「顧みる客」と書き、本来リピーターを指す言葉である。小売業の場合、既存顧客の40%は目減りすると言われており、もともと減収しやすい商売だ。つまり、40%の新規顧客を開拓しなければ売り上げがダウンする。

 

常に顧客心理を読んで戦略を構築する必要に迫られているのだが、多くの小売業は日々の仕事に追われ、その事実に気付いていない。顧客の購買動向を分析すれば、顧客心理を的確に知り得るはずなのに、忙しさを理由に基本を怠っている。

 

ITが発達・普及した現代において情報武装しない企業は、目隠しをしたまま道を走っているのと同じであり、いつ転んでもおかしくない。顧客心理を読めるノウハウを持った企業に太刀打ちできないと考えるのが自然である。

 

常に顧客を見る目を養い、目線を合わせることから始め、顧客の期待以上の成果を提供する。それが「業を企てる」と書く「企業」のあるべき姿である。いずれにせよ、勝つ企業にはそれなりの理由が備わっているものだ。

 

 

 

後発企業の差別化戦略のポイント

 

東京都板橋区に本社を構える中堅梱包機械メーカー・ダイワハイテックスは、書店に置かれるコミックをフィルム梱包する機械とフィルムの消耗品を開発・販売し、マーケットシェア率95%以上を誇る。

 

書店の店舗数激減と書籍市場の縮小という逆風の中、同社は2021年1月期決算で過去最高の売上高をたたき出した。自社が長年培った強みを明確に認識し、後発ながら成長マーケットである通販業界に展開した結果である。

 

参入のポイントは、省スペース化の実現を基本方針とする装置の開発と直販体制、メンテナンスサービスの徹底だ。奇をてらった策ではない。しかし、通販会社側の視点に立てば、売って終わりになりがちな機械メーカーが多い中、作業の中断を極力許さない懇切丁寧なメンテナンス体制は、ファンをつくる大きなポイントとなっている。

 

同社のように、後発であっても新規市場で勝機を見いだすためのポイントを整理・分析すると次のようになる。

 

(1)自社が属する市場が今後どうなるのか

 

(2)自社のマーケットポジションの確認(どの程度のシェア率か)

 

(3)ライバルと比較しながら自社の強みと弱みを確認

 

(4)コアにすべき自社の特長は何か(他社と差別化できる技術力・販売力・管理力など)

 

(5)コア以外でアウトソーシングすべき機能は何か

 

(6)上記(1)~(5)を踏まえた「今後打つべき実行具体策」の構築

 

トップの最大の仕事は、方針の明示と経営判断である。企業の明暗を分ける経営環境反転期に売り上げや利益を上げることができるか否かは、経営者の考え方と幹部陣の実行力で決まる。奮闘する経営者を、タナベ経営は全力で支えたい。

 

 

 

 

PROFILE
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大嶺 正行
Masayuki Omine
「無から有」をテーマに数多くの新しいビジネスモデルを構築。特に、新分野・新商品の開発、中期経営計画の推進、経営戦略・事業戦略の立案、後継体制に向けた組織づくり、次世代幹部の育成などに定評がある。日々クライアントの戦略を推進し、多くのファンを生み出している。著書に『社内のギャップを打ち破れ』(ダイヤモンド社)。