この1年間、コロナ禍との戦いの中で浮き彫りになったのは「命を守る事業分野の価値の高さ」と「事業が多角化されている企業の強さ」だ。経営の原理原則にあるように「卵を一つのかごに盛らない」ビジネスモデルの重要性を今改めて感じる。命を守る分野とは、医療はもちろん、健康、介護、食品、物流、教育、情報、エネルギー、デジタル、セキュリティーなど多岐にわたる。ゆえに、ウィズコロナ・アフターコロナにおける新市場を創造する新規事業開発の方向性は「命を守る分野への事業の多角化」だと言える。これはコロナ対策だけではなく、異常気象、台風、地震など何十年に一度クラスの災害が頻発している近年において重要なキーワードだ。この方向性に従って、新たな市場を創造するために重要な5つのポイントと3つのアプローチを紹介する。
まずは「事業に明確なミッションはあるか」「そのミッションに『貢献』という要素は含まれているか」が最も重要である。ミッションなくして新規事業開発に成功している企業は私の知る限り存在しない。
ミッションを実現するためのビジョンは、自社らしいソリューションで世の中に「新しい価値」をプラスするものでなければならない。「ビッグビジョン・スモールスタート・クイックインパクト」、つまり、大きなビジョンを掲げ、小さく取り組み始め、早く成果を出す。そのスタートがミッションの策定である。今一度、ミッションとビジョンについて、「貢献」を軸にしっかりと掲げていただきたい。
2点目は、実在する顧客をターゲットにした具体的な課題認識とソリューションを創り上げることである。実際、自分の困り事を解決できるソリューションがなく、自分で創業したスタートアップが多いことからも、具体的な顧客を想定した上での課題設定が必要であることが分かる。幸せにする顧客を決めて向き合うことから始めるのである。顧客が明確であれば顧客から速く、多くのフィードバックを受けることも容易になり、小さな開発サイクルを速く回すことができる。新規事業開発のスタート段階では、プロダクトづくりの前に、課題発見へ注力することが大事だ。そのためにも顧客を明確に定めることは重要な要素になる。
3点目は、アライアンスで最新のテクノロジーを活用することである。テクノロジーの進歩は速いため、内製化で対応しようとしても追い付けず、外部とのアライアンスが課題解決の近道であることも多い。大切なのは、ミッションを同じくするパートナーと協働することだ。技術を共有する前に価値観を共有することが重要である。進化する先端技術は、これまで解決できなかった課題を解決する代わりに、また新たな課題を生むとも言える。半歩先回りした課題発見に覚悟を持って取り組めば、ホワイトスペースを見つけられる可能性が高まる。
4点目は、インナーブランディングとアウターブランディングに取り組み、事業を拡大することである。優れたソリューションであっても、顧客に分かりにくいものは受け入れられない。価値を直感で伝える「新たな価値の可視化」が必要だ。
まったく見たこともないような、新しいものは出現しない。これまでの何を新しくしたものなのかを分かりやすく伝えるのである。Appleの「iPhone」でさえ、当初は「電話を再発明する」「電話に革新的な新しいユーザー・インターフェースを提供する」と発表していた。
ここで考えるべきブランディングとは、最初から大多数を取り込むためのものではなく、少数の「熱狂顧客」をつくるための取り組みである。それにはストーリーあるブランディング戦略の展開が欠かせない。誰に熱狂してもらいたいか、そのためにはどんなストーリーで新しい体験価値をイメージしやすく伝えるか。しっかりと考え、表現していただきたい。
5点目は、成果を生むチームビルディングとして、「同じ熱量である」「役割を異にする必要最小限のチームである」という2つのポイントを押さえておくことである。チームの中に嫌々参加している人が1人でもいれば、成果への大きな障害になる。無理やり人数を集めるのではなく、熱量の高い少数で実施することをお勧めする。
また、役割分担は明確な方が良い。例えば、どんどん動いて情報を取ることに長けた人、俯瞰して冷静に分析できる人、デジタルスキルが高い人、情報発信力が高い人など、個性や能力に応じた分担をする。
初めからそろわなくてもよい。必要に応じて柔軟にメンバーへ追加していくためにも、どういった役割が必要かをはっきりさせておくことが重要である。加えて言うならば、企業横断型の共創できるチームがイノベーションを生むため、社内外を見渡して、真に機能するチームをしがらみなく組成することが重要である。
自社を含めたライバル各社の強み・弱みを洗い出す
できるだけ詳しく、定量化できるものは定量化する。「自社の強みをライバルの弱みにぶつける」のが戦略の大原則なので、自社の強みとライバルの弱みを中心に洗い出す。
4象限のポジショニングマップにプロットする
この縦軸と横軸の設定が最も重要である。うまくホワイトスペースが見つけられない場合は、何度でも両軸を切り直す。何パターンも検討すれば、必ずホワイトスペースは見つかる。
ホワイトスペースで考えられるソリューションを検討する
顧客は誰かを具体的にイメージする。自社でできることだけにとどまらず、アライアンスを組むことで可能となるソリューションも検討する。
具体的にイメージできるターゲット顧客を設定する
取引先のAさん、社員のBさん、家族のCさん、友人のDさん、自分自身など、幸せにする顧客を具体的な固有名詞で設定する。
ターゲット顧客の困り事を洗い出す
多くの困り事を具体的に洗い出す。困り事の洗い出しと同時に、現在はその困り事に対してどのような代替策をとっているのかも洗い出す。
困り事に対するソリューションを検討する
1つずつの困り事に対してソリューションを検討する。ソリューションを考える際のポイントは、これまでにない新しい体験価値が提供できるかである。ホワイトスペースでのソリューションと同様に、アライアンスを含めて広く検討する。
SDGsの17ゴール169ターゲットから、取り組むべきテーマを選ぶ
SDGsが掲げる解決されていない社会課題には、経済的な合理性を見つけることができなかった分野が挙げられている。社会課題解決に焦点を当てることは、経済合理性がないと見過ごされていた市場に目を向けることであり、成長する新市場の発見に寄与する。
ゴール・ターゲットに強みを掛け合わせソリューションの方向性を決める
今できることを基準にするのではなく、ゴール・ターゲットを実現するという大きな視点から、アライアンスも含めて逆算でソリューションを検討する。経済合理性がないと判断され取り残されている市場には、長期的視点と他企業を巻き込んだイノベーションが必要である。
KPI(重要業績評価指標)を設定し、具体的なソリューションに落とし込む
定量化することで進捗が見える化される。その情報をステークホルダーに開示することで、新市場の創造と企業価値向上につなげる。
これらのアプローチを参考に、まずは動いてみて視野を広げ、その上で修正をかけることをお勧めする。「命を守る分野への事業の多角化」をベースに新市場の創造を考えることで、これからの世の中に新たな価値を創出することができる。新市場を創造するということは、世の中の困り事が1つ減り、社会が1つ良くなることである。ピンチはチャンス。何かに貢献するミッションを掲げた新規事業に勇気と覚悟を持って挑戦する、今こそまさにその時である。
ウィズコロナ・アフターコロナを見据え、新たな市場を創造する新規事業への取り組みが企業にとって不可欠です。ゲームチェンジが加速する時代に、新規事業でイノベーションを起こし、持続可能な企業へと変革していきましょう。