アンダーコロナの中国から経済回復のヒントを探る:相澤 邦貴
中国の武漢市から感染が拡大したとみられる新型コロナウイルス(COVID-19)の猛威は、世界のサプライチェーンに多大なる影響を与え、その期間が1年以上にも及んでいる。サプライチェーンだけではなく、働き方や生活様式についても対応を余儀なくされたのは周知の事実である。
そうした中、2020年下半期の中国国内の工場や生活はどうなっているのか。私は7年半ほど中国に駐在し、コロナ禍以前は月に2回程度、中国各地を飛び回りながら生産管理や立ち会いを行っていたが、現在は10カ月以上渡航できていない。メディアでニュースを知ることはできるものの、実際の状況と情報が異なるのはよくある話だ。そこで、上海にある業務提携先の日本人や、2週間の隔離期間を経て入国した取引先の中国人経営者から現地の様子を聞き、日本企業がコロナ禍を乗り越えるためのヒントを考察していく。
コロナ禍が中国経済に与えた影響
縫製工場はアパレル関係の発注が2019年に比べ大幅に減少しており、工場によっては3~4割も減っている。特に2020年6~8月にかけての生産量が少なく、10月になっても回復していない。
世界各地で感染が急拡大し、マスク不足となった2~5月にかけ、急きょ生産を始めた企業が多かったが、その後マスクの価格が暴落したため生産をやめた企業がほとんどである。導入したマスク製造ラインを放置している工場も多い。
2020年10月以降の工場の仕事量は二極化しており、受注が8割まで回復した工場と、依然として回復のめどが立たない工場に分かれている。管理体制の甘い工場は新商品提案のレベルが低く、サンプルを作るレベルも低いからだ。Zoomなどのビデオ会議では細かい指示やニュアンスを伝えることができず、受注につながっていない。
成形工場では歯ブラシ・くし・スリッパ・カミソリなど、ホテルのアメニティーグッズの生産量が大幅に落ち込んだ。それ以外の生活用品(台所・洗濯・浴場用品など)は、10月以降8割程度に戻りつつある。
地域別に見ると、南部より北部の企業が苦しい経営を強いられている。南部は技術力、品質への意識の高さがあり、金型や加工機の工場が多く、日本・香港・台湾の投資の影響が強いためである。米中対立やサプライチェーンの見直しが叫ばれる中、欧米諸国企業の撤退の話をあまり聞かないのは、中国のマーケットに対して魅力を感じているからだろう。
品質管理面で気になるのは、全業種で日本人の管理者や顧客の品質管理担当者が現地に入れないことである。常駐の日本人管理者は帰国している場合が多く、実際に上海や深圳の日本人エリアでは日本人の数が明らかに少ないという。現場の管理体制は甘くなり、整理整頓や清掃など5Sのレベルが落ちている。また、作業指示書の掲示がなかったり、出荷検査の形骸化もある。
感染予防に対する工場員の意識と工場のリスク管理体制は、残念ながら甘い。5月ごろから体温チェックを行う工場はほとんどなくなり、作業場の理由で必須の場合を除き、マスクを着用しての勤務もまれである。
工場員は全体的に不足しており、工場も好調・不調の二極化が進んでいるため、より条件の良い工場に人が集中している。賃金が安く低コスト品を生産する工場や、通勤に1時間以上かかるといった立地条件が悪い工場は、中国国内からも国外からも発注が少なく、工場員が集まらないという二重苦に陥っている。
だが、全体としては国外からの発注は回復傾向にある。中国国内も景気対策と内部循環という政策を打ち出し、10月以降の表面上の景気は良い。しかし、欧州でのコロナ第3波に対する懸念や、中国政府が経済対策として実施している自動車購入補助金の期限切れなど、今後の落ち込みの要因は存在する。
販売面はどうか。EC(電子商取引)では、中国で情報技術サービスを展開するアリババグループが11月のダブルイレブン※で、流通総額約7兆7200億円(前年比26%増、1元=15.9円換算)を達成した。中国向け越境ECにおける国・地域別の流通総額では、2016年から5年連続で日本が1位を獲得している。
消費財や生産財の分野において、日本ブランドに対する信頼は根強いものがある。現地ブランドに対して割高でもよく売れていることを鑑みると、容易ではないがブランディングをしっかり行えば日系企業にも伸びる余地があると言える。
消費面では、観光地は大にぎわいでコロナ禍前と変わらない人出である。日本では大きな打撃を受けている高級百貨店は、5月ごろから売り上げが回復しつつある。果物・茶・化粧品・服飾品などを、WeChat(メッセージアプリ)で販売する副業を始める人が増えた。
電車内のマスク着用率は5割(2020年11月現在)ほど。中国では地下鉄に乗るときも荷物のX線検査があり、マスクの着用をチェックされるはずだが、乗客数が多いためか徹底できていないという。11月に来日した中国人経営者は、日本人のマスク着用率やソーシャルディスタンスを定めたレジの行列、喫煙所に驚いていた。
外国人から見ると、日本の入国時の新型コロナウイルスの感染チェックが甘いともいわれている。中国では、渡航すると空港から真っすぐ指定ホテルに送られ、2週間の強制隔離が必要である。日本では、公共交通機関の使用をできるだけ避けるという要請レベルにとどまっている。
※中国で11月11日は「独身の日」とされ、年間で最大のインターネット通販セールが開催される
商品の品質を安定させる
ここまで最近の中国の状況を確認した。日本ではまだ経済の回復を感じることは少ないものの、中国では一足早く、生産・販売・生活がコロナ禍以前に戻りつつあることがお分かりいただけたかと思う。
新型コロナウイルス感染拡大防止のための厳しい入国規制がある中、中国の現場へ入っての生産管理はハードルが高い。国内や東南アジアなど、代替サプライチェーンの構築が重要なことは論をまたないが、そう簡単に構築できるものではない。
まずは品質を安定させることが重要となる。「図表などを用いた現場工場員が分かりやすい仕様書・指示書の作成」「WeChatなどのコミュニケーションツールの活用」「信頼できる品質管理代行会社との連携」などから始め、小さな成功体験を積み重ねていただきたい。