【図表1】後継者育成・評価の取り組み実施内容
多様化するグループ経営のスタイル
「グループ経営」が日本企業に浸透して久しい。中堅・中小企業の経営において、ホールディングス化や海外企業も含めたM&A、親族外承継に伴う分社化など、グループ経営のスタイルが多様化する一方、ガバナンス強化や働き方改革、BCP(事業継続計画)の策定、DX(デジタルトランスフォーメーション)といった潮流は、経営スタイルの変革を強く要求している。しかし、経済産業省が策定した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2019年6月)によると、後継者の育成・評価のために実施している取り組みのうち、「事業部門を超えた戦略的人事ローテーション」「タフ・アサインメント※」以外の施策を実施している企業は半数に満たない。(【図表1】)
これまでに直面したことがない課題が山積する中、グループ経営下での経営課題の解決は、グループ各社の社長の経営力に委ねられている。グループミッション・ビジョンにおける自社の立ち位置を踏まえ、事業会社の成長戦略、組織・人材をマネジメントし、臨機応変な意思決定を行う決断力を持った「社長力」の高い経営メンバーの有無が、10年後のグループ経営の成否を決めると言っても過言ではない。
リーダーシップを刺激する機会が必要
私はこれまでにさまざまなクライアントをお手伝いしてきたが、その経験から良い会社には良いマネジャーが多いと言える。トップの方針に基づき与えられた役割と責任を全うし、所属する部門あるいは事業部門の目標をクリアして、自社の成長に貢献できる人材である。
しかし、グループ各社の社長に求められるのは、マネジメント能力よりリーダーシップだ。部門の秩序を維持し、現状のプランを運営していくマネジメント能力以上に、未来(ビジョン)を明確にし、創造的な破壊によって新たなプランを練り上げ、従業員を導くリーダーシップがより求められる。不確実な情報の中で決断し、責任を取る力も必要だ。だが、このリーダーシップを発揮できる人材が少なく、育てるための取り組みも弱いのが現状である。マネジャーの成長機会のためにも、リーダーシップを刺激する機会を設けることが次期社長を育成する鍵となる。
ここで1つ事例を紹介したい。
2019年から2020年にかけ、グループ年商300億円の建設関連会社A社のグループ各社の社長を対象に「グループ経営育成プログラム」を実施した。
A社は成長著しく、グループ各社の社長の平均年齢も30歳代と若い。また、社長としての「在り方」も固まっていなかった。ホールディング会社のトップからの要望は、「新たな事業を創り出せる社長の育成」だった。敷かれたレールの上で事業を拡大するだけではなく、次なる展開を組み立てて決断できる社長を育成する取り組みである。
当初は「社長」としての在り方や求められる要件を理解した上で、自社の成長戦略を組み立てる流れで進めることを考えた。だが、コロナ禍の影響を受け、メンバーが集まれなくなったため、急きょ「コロナ禍での反転攻勢に向けた100日プランの策定」に切り替え、何度もオンライン会議を重ねた。資金の工面、会えなくなった顧客への新たなアプローチ手法、3密を避けた工程プランづくり、新入社員育成プランづくりなど、自ら考え、意思決定していく過程を通じてメンバーは大きく成長した。
プログラムの終了後、ホールディング会社のトップからは「善し悪しの判断基準を作ることができた」との言葉をいただいた。不確実・不安定の経済環境下において、生き残るための度重なる意思決定でリーダーシップが刺激され、グループ各社の社長が成長したのである。
※困難な課題に取り組ませることで急激な成長を促す人材開発手法
【図表2】100日プラン策定のフレームワーク
100日で新しい仕組みを構築する
グループ会社の社長へ就任するに当たり、求められるポイントは次の3つだ。(【図表2】)
(1)現場の声をつかむ(自社を知る・自分を知る)
(2)FCC(ファーストコールカンパニー)をデザインする(事業・チーム設計)
(3)コーポレートモデルと自己設計図を作成する
まずは理想の会社像を全社に発信して、社員にどれだけ浸透しているかを理解し、理想の会社になるための真の課題を共有することが求められる。次に、徹底した会社分析を行い、業績を上げるための事業・収益構造の「型」を設計し、推進するためのリーダーシップがあるチームをつくる。最後にコミュニケーションモデル・リスクマネジメントの仕組みを整える。この3点を就任後100日で完成させることが、その後のグループ会社経営の成否を分ける。
市場環境変化のスピードが加速している中、これに対応すべくグループ経営を採用する企業が増えることが予測される。10年後のグループ経営成功に向け、グループ経営者育成へ早期に取り組んでいただきたい。