2020年の新型コロナウイルス感染拡大を契機に、企業規模の大小にかかわらずDX(デジタルトランスフォーメーション=最先端のデジタル技術を活用した経営革新)への取り組みが加速している。
ただし、それ以前からデジタルツールの活用は企業の大きな課題であった。経済産業省が2018年9月にまとめた「DXレポート」によると、企業が既存のITシステムを刷新せずに放置すれば、2025年以降は日本全体で最大12兆円もの経済損失が毎年続くとされ(「2025年の崖」問題)、先進分野であるはずのITシステムの老化に危機感が高まっていた。そしてコロナ禍によってデジタルシフトが一気に進んだのである。
もっとも、この背景には、「動く」ことに抵抗感を覚える人が増えた、デジタル化への心理的ハードルが低下した、リスクヘッジに対する重要度が高まったなど、人々の価値観が大きく変化したことも影響した。
価値観が変わったことによって、「社会」(ルール)、「業界」(付加価値)、「企業」(働き方)、「個人」(ワーク・ライフ・バランス)などコミュニティーにさまざまな変化をもたらした。こうしたニューノーマル(新しい常識)が生まれる時代では、人々が「高度化」(考え方)、「自動化」(業務)、「離散化」(労働環境)、「合理化」(行動)していく。
そのためデジタルツールを効果的に活用し、生産性を高めていくことが企業の最重要課題となった。とりわけAIの急速な進展により、「自動化」「離散化」および「合理化」については早急な対応が求められている。
では、企業はこれからDXに対して、どのような対応をすればよいのだろうか。デジタルツールを導入するといっても多岐にわたるため、まずは導入する目的を明確にしなければ、正しく活用して成果を得ることはできない。具体的には、次に示す4つの活用ステップを踏むことが重要である。
❶「自社の価値」をリ・デザイン
自社を取り巻く経済環境、自社が所属するマーケット、そして自社の事業動向などから、想定されるリスクと機会を抽出し、顧客視点と社員視点から見た自社の価値を再定義することが初めの一歩となる。顧客視点では「誰に」「何を」提供するかだけでなく、「どのように」提供するかをバリューチェーン(価値連鎖)に沿って定義する。また、社員視点でオフィスの役割や組織活動の意味を再定義する。
❷新たな価値に基づいた「ニューノーマル」を設計
現状の業務フローを見える化した上で、再定義した新たな価値に基づいて業務フローを再設計する。「人が動くことに価値があるか」を判断基準とし、自動化を進める業務やアウトソーシング(外部委託)する業務を選定する。現状維持バイアス(変化を受け入れず現状に固執する心理傾向)を排して、CanBe(キャン・ビー/なり得る姿=できること)とToBe(トゥー・ビー/あるべき姿=目指すべきこと)の双方を設計することがポイントだ。この段階で初めて、自社に必要なデジタルツールの導入を検討することになる。
❸個人別の役割とマネジメント方法の設計
直接会って対話をするコミュニケーションが減るという前提で、それぞれの社員に果たしてほしい役割と、それらの進捗状況を把握・評価するシステムを設計する。当然、短期的な成果主義や目先の業務遂行のみならず、若手社員・部下の育成など中長期的な事業継続に対する貢献も、役割として定めることが重要である。
❹ベンチマーク指標と検証方法の設計(および実施)
業務フローのデザインとともに、ベンチマーク(基準との比較評価)すべき生産性指標とその検証方法を設定する。生産性向上の目的とともに生産性指標をあらかじめ定めて逐次、客観的データに基づいたモニタリングと継続的改善を図る仕組みを構築することが重要である。