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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2020.11.30

アフターコロナにおける地方スーパーマーケットが取るべき3つの対策:舩津 哲

 

 

 

 

小売業界の勝者と敗者

 

新型コロナウイルスの影響により、小売業界は約2カ月にわたり店舗の休業や営業時間の短縮、入店客数制限といった感染防止対策など、厳しい営業状況を余儀なくされた。特に大手GMS(総合スーパーマーケット)企業は緊急事態宣言の発出後、一部の売り場を閉鎖。例年であれば年に3番目の書き入れ時であるゴールデンウィーク期間中も、一部売り場の休業を行っていた。

 

このような状況下で、小売業界における業態間での格差は大きな広がりを見せた。『食品産業新聞』(2020年7月20日付)によると、2020年3〜5月の四半期決算は、食品スーパーとドラッグストアの多くが2桁増収、2桁以上の大幅増益。一方で、コンビニエンスストアやショッピングセンター、百貨店の多くが2桁の減収減益となり、食品スーパーやドラッグストアとは真逆の業績となった。

 

食品スーパーとドラッグストアが大きく増収した要因として、巣ごもり需要の増加による食品需要の伸長や、感染防止対策として消耗雑貨などの生活必需品の需要が伸びたことが挙げられる。政府や行政が外出を控えるよう国民に要請(緊急事態宣言)を出したのと同時に、買い物頻度を下げるための要請も出したため、生活必需品が1カ所でそろう食品スーパーやドラッグストアの優位性が高まったからである。

 

一方、ショッピングセンターと百貨店の減収減益の要因は、緊急事態宣言の期間中、食品や生活雑貨の売り場を除いて営業できなかったことが大きい。コンビニエンスストアは、住宅地にある店舗は好調だが、オフィス街や繁華街の店舗が業績を押し下げた。

 

これまで業態の中で勝ち組だったショッピングセンターやコンビニエンスストアが減収(敗者)となり、利便性に顧客を奪われ続けていた食品スーパーが増収(勝者)となった。

 

 

地方スーパーの現状

 

全国スーパーマーケット協会、日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会が合同で行っている「スーパーマーケット販売統計調査」(2020年2月21日公表の1月実績資料)によると、2020年1月、全国スーパーマーケットの既存店売上高は前年同月比1.4%減と厳しい状況であった。

 

しかし日本スーパーマーケット協会の「マンスリーレポート」(2020年6月22日公表の5月実績資料)によると、2020年2月後半以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い生活必需品を買い求める消費者が増加。全国のスーパーマーケット全体では、おおむね対前年同期比を上回った。

 

コロナ禍の状況下においては、外出自粛による外食の需要も取り込み、加工食品が好調に推移。特にホットケーキミックスや小麦粉、お好み焼き粉は3月から5月ごろまで販売が好調で品薄状態となり、一部企業では供給が滞り、前年の売り上げ実績を下回った。

 

メーカーの原材料不足、工場の休業、物流網の停止により商品の入荷が停止したケースも発生している。また、スーパーの従業員が感染を恐れて出社を拒否するなど、営業機能が十分働いたとは言えない状況でもあった。6月に入り、原材料や物流の問題は解消したものの、新型コロナウイルスの影響が長期化した場合、衛生管理や業務負担の増加、景気悪化による売り上げの低下など、さまざまな課題が懸念されている。

 

 

地に足の着いた対策から始める

 

私が実際に訪問した東海地方の食品スーパー(売上規模50億~200億円)においても、部門ごとの1~6月の売り上げ実績は全国平均とほぼ同じ推移だった。しかし、前年比を上回る好調な業績に対して楽観視している経営者は一人もいなかった。「コロナ禍が長期化した時の景気悪化による売り上げ減少は必ずある」と構えていたことも印象的であった。

 

これを踏まえ、アフターコロナにおいて地方スーパーが取るべき対策を3つ、提言したい。

 

(1)サービスレベルの向上

 

コロナ禍の状況下において、食品スーパーが売り上げを伸ばしている要因の1つに、これまでショッピングセンターやコンビニエンスストアで買い物していた顧客が、一時的ではあるが、近隣スーパーに場を移したことが挙げられる。その顧客を再度ショッピングセンターやコンビニエンスストアに戻さないための対策が必要だ。顧客への接客、要望に応える商品サービスの拡充、従業員一人一人ができる限りのサービスを実行することで1人でも多くの顧客を囲い込むことが必要だ。

 

(2)店舗ゾーニングの再考

 

ゾーニングとは、カテゴライズされた商品群を配置することである。コロナ禍によって消費者の購買行動は大きく変化した。巣ごもり消費による生鮮品の需要伸長、まとめ買いによる加工食品の売り上げ増加、また、これまで調理不要の簡便性から伸長していた総菜が飛沫感染のリスクで消費が落ち込んだことなど、コロナ禍前後で商品ごとの売り上げも大きく増減している。売り上げが減少した売り場を縮小し、増加した売り場を拡大するといった店舗ゾーニングの変更が必要となってくる。

 

(3)自社のバイイング機能の強化

 

社内のバイヤー人員を増やすという意味ではなく、地域の食品メーカーや農家、市場との関係性を強化するということである。コロナ禍の影響で大手メーカーの製造機能や物流網の機能の停止で欠品が発生した会社も多い。そのため、地域の生産者やメーカーとの関係性をあらためて強化することが重要だ。平時より代替商品を確保し、いざという時に対応できる体制を構築しておくことは、地産地消の推進に加えて緊急時の対策にもなり、一石二鳥といえる。

 

新型コロナウイルスの影響によって非接触型の購買活動であるECサイトやネットスーパーが伸長している、AIの活用によって完全無人型店舗ができるなど、小売業の未来はさまざまに語られている。しかし、地方スーパーの現状はどうかというと、2000年代より郊外型ショッピングセンターやコンビニエンスストアの台頭により顧客を奪われ、2014年、2019年の消費税増加による消費マインドの低下など、多くの負の影響にさらされており、ECサイトやネットスーパーなどの事業に投資できるほどの余裕はない。

 

より地に足の着いた、明日から実行できる3つの対策を考えていただきたい。

 

 

 

 

PROFILE
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舩津 哲
Satoshi Funatsu
大手小売企業出身。店舗運営や土地開発、海外でのSV経験から、小売における店舗改善、従業員のマネジメント教育を得意とする。タナベ経営に移籍後は、若手から幹部まで幅広い階層における教育、事業再生や中期経営計画策定などさまざまなテーマのコンサルティング業務に従事。