「7・5・3」で考えるウィズコロナ時代の企業経営
新型コロナウイルスが世界中の経済に大きな影響を与えている。2019年12月に中国の湖北省武漢市で最初の症例が確認されて以降、瞬く間に感染が拡大。いまだ終息が見通せない状況だ。
中でも、飲食業への影響が著しい。帝国データバンクによると「新型コロナウイルス関連倒産」(2020年9月4日現在)は、全国489件中、飲食店は69件(14%)、食品卸は28件(6%)を占めている。
経済活動を停止して感染拡大を抑える動きと、経済活動を再開して再び感染が拡大する動き。企業は、このウィズコロナのサイクルを意識しながら経済活動を続けていかなければならない。いつになるか分からない終息を待つよりも、ウィズコロナの「新しい生活様式」(ニューノーマル)という経営環境に対応していかなくてはならないのである。
ウィズコロナの経営環境を考える上では、「7・5・3」の数字を意識するとよい。「7割経済・5年前倒しの未来・3つの自立したドメイン(事業領域)やチャネル(流通経路)を持つ」だ。
(1)7割経済
新型コロナ禍の影響で、自由な移動や経済活動は制限を余儀なくされている。例えば、飲食店や映画館などはソーシャルディスタンスを保つために座席の間隔を開けて営業しており、売り上げや来客数は従来の7割とも言われる。企業は「制限経済」による縮小マーケットを前提とした事業モデルや収益構造を再構築する必要がある。
(2)5年前倒しの未来
リモートワークやテレビ会議システムによる会議・商談、顧客とのデジタルコミュニケーションなど、新型コロナ禍をきっかけに社会全体のデジタル化が加速している。最低でも5年先を見据え、このデジタル化の波に乗るか否かで自社の存亡が決まると言っても過言ではない。
(3)3つの自立したドメインやチャネルを持つ
タナベ経営は、経営の原理原則として「卵を一つの籠に盛るな」と提言している。ウィズコロナの経営環境においても、企業には「集中・単一」のビジネスモデルではなく、「分散・複数」のビジネスモデルが求められる。同時に、新たなコーポレートモデル(グループ経営や事業リーダーの育成)を検討していく必要がある。
食品メーカーの「5低」
新型コロナ禍が企業に与える影響については前述の通りであるが、食品関連産業の中では、特に居酒屋や飲食店、給食などの業務用チャネルを主体とする企業が売り上げを大きく落としている。また、食品メーカーは中国にグループ企業や協力工場、製造委託先を所有しているところが多いため、原材料・資材の手配やサプライチェーンに深刻な影響が出ている。
また、新型コロナ禍以前から、人口減少や少子高齢化、世帯数の減少といった社会構造の変化に加え、デフレ経済に起因する低価格志向、消費者ニーズの多様化などによって、食品メーカーを取り巻く経営環境は厳しさを増していた。農林水産省が発表した「食品産業戦略 食品産業の2020年代ビジョン」(2018年4月)では、食品メーカーが抱える課題を次のように挙げている。
①「低い」付加価値
②「低い」労働生産性
③「低い」給与
④「低い」設備投資による設備の老朽化、安全性対策への懸念
⑤「低い」海外事業比率(輸出と海外投資)
新型コロナ禍前から食品メーカーが抱える五つの課題を克服し、社会や顧客から選ばれ続けるためには、次に説明する「三つのイノベーション」により100年、200年と続く「未来経営モデル」を構築する必要がある。
未来経営モデル実現のための三つのイノベーション
一つ目のイノベーションは、「ビジネスモデルイノベーション」である。既存事業の延長から革新的なビジネスモデルは生まれない。自社だけではなく、「『誰』と新しい価値やマーケットを創出し、それを『どう』磨き上げてブランド化していくか」という視点で、ビジネスモデルを再構築する必要がある。
二つ目のイノベーションは、「ヒューマンリソースイノベーション」だ。企業は人でできている。持続可能な経営を実現するためには、新しい価値を生み出し“続ける”必要がある。「働きがい」や「人材活躍」など、人と向き合う企業に人は集まる。「魅力ある企業をどうつくるか」という視点を持ち続けていただきたい。
三つ目のイノベーションは、「デジタルイノベーション」である。新しい価値を生み出すために、新しい技術をどう活用するか。リアルとデジタルの融合は進んでいる。人の仕事を代替するだけではなく、人とデジタルテクノロジーの協働で「新しい価値を共創する」視点が必要になる。
最後に、三つのイノベーションで経営革新を行い、成長し続けている事例を紹介する。
芝寿し(石川県)は1947年に創業し、金沢伝統の味「笹寿司」を代表商品とする寿司・弁当の製造・販売会社である。北陸3県を中心に66店舗を展開している老舗企業だ。
今でこそ1日約2万食を製造し、北陸エリアで確固たる地位を確立している同社だが、祖業は炊飯器の実演販売業。この実演販売で大量に炊けるご飯の活用と、金沢に古くからある「祭り寿司」という押し寿司を振る舞う伝統を組み合わせて、笹寿司の製造販売にビジネスモデルを転換した。今でも、冷凍米飯を活用したBtoC事業や移動販売と定額配達を組み合わせた販売方法など、事業継続のための取り組みを行っている。
また、同社は人材育成や組織風土改革にも力を入れている。「おいしいもの作り学校」と称した人材育成への取り組みや、コーチングを取り入れた全社朝礼、年間500件もの現場改善のアイデアが社員から生まれる「ひらめき制度」などである。
経営理念の一つである「豊かな人間性の集団を作る」をテーマに、“新しさ”を生み出す土壌となる人材育成や組織風土改革に投資しているのだ。2015年には金沢市内で新工場を稼働させ、自動化による生産性向上も実現した。
さまざまなイノベーションにより事業を継続し、創業73年という歴史を築いてきた芝寿しもまた、新型コロナ禍に大きな影響を受けている。しかし、厳しい時期においても変革を止めないよう、来期以降を見据えて自社の体質強化に取り組み続けている。
三つのイノベーションを生み出し、その取り組みを継続する力こそ、持続可能な「食の未来経営モデル」を実現する原動力である。