経営戦略を軸に人材ポートフォリオを再定義する。ポストコロナ時代の人事制度とは:川島 克也
企業の戦略目標達成に必要な人材を
明確にして、組織の資源配分を再定義する
画一的な人件費コントロールからの転換には、人材ポートフォリオの再定義が必要だ。人材ポートフォリオとは、「企業の戦略目標達成に必要な人材を明確にして、組織の資源配分を検討する」ためのフレームワークである(【図表4】)。この手法自体は、従来からあったが、従来は定型業務と非定型業務を分けて、定型業務のアウトソーシング化を検討するツールとして活用されることが多かったと思われる。
【図表4】人材ポートフォリオのイメージ(例)
ポートフォリオの軸を「戦略推進」と「専門性」で設定。実際のポートフォリオの軸は各社で設定する
したがって、人材ポートフォリオの本来の目的である、「戦略目標を達成させる」という視点は弱かったのが実情と言える。これは、まだまだ日本企業においては、終身雇用・年功序列の考えが色濃く残っており、社内で格差を付けることに対し、積極的になれない風土も影響しているからだろう。
ポートフォリオ別にそれぞれに最適な処遇、人材育成の仕組みを整備していくというのが基本的な考え方となる。社員の立場から見ると、ポートフォリオによって、自身の役割・ミッション・目標が明確になることで、やる気の方向付けによる生産性向上が期待できる。また、企業収益の視点から見ても、このポートフォリオによって社員の処遇とのバランスを取ることで、労働分配率の最適化と効率的な人材育成にもつなげることが可能となる。
戦略を軸にした「人材ポートフォリオ」を実現するには、これを人事制度に展開することが必要となる。人事制度については、今後よりいっそう、「ジョブ型」への転換が加速度的に進んでいくと見込まれる。
人材マネジメントの原則は、「能力=仕事・役割=処遇」のバランスを取ることである。
従来の日本の人事は「メンバーシップ型」で、「社員に仕事をつけて、処遇(給与)を決める」というのがスタンダードだ。この制度は、右肩上がりに成長していることが大前提であり、社員の仕事・役割に対して、給与が高くなる傾向が高い。
一方、昨今ではジョブ型人事制度への転換が話題になっているが、欧米と違い、日本では解雇に対する法律のハードルが高いため、ある程度のジョブローテーションができる裁量を残しておく必要性がある。
また、外部環境への変化対応や組織内のコラボレーション対応といった競争力の視点からも、詳細な「職務記述書」(ジョブディスクリプション)を作成してジョブ型人事制度を導入すると、組織の硬直化を招くリスクが高い。
私は日本式のジョブ型人事制度を導入する必要があると考えており、役割型人事制度に近い制度が適切と考える。【図表5】に日本式のジョブ型人事制度構築のポイントを記載する。自社の制度改定に際して、チェックリストとして活用していただきたい。
【図表5】日本式ジョブ型人事制度導入のポイント
企業において最も大切な人的資源を、どのように育て、活性化させていくべきか。タナベ経営独自のチームコンサルティングブランドを主軸に、企業の特色や風土、文化に合わせ、組織における人材育成、人材活躍に関わる課題をトータルで解決します。