持続可能な物流をつくる
世の中に“どこでもドア”はない。マスクもインスタント食品も日用品も全て、物流が稼働しているおかげで店頭に並び、自宅に届く。新型コロナウイルスが猛威を振るった今春、物流業界の方々が感染リスクのある中で業務を継続し、物流を支えてくれていたのだと思うと感謝しかない。 その半面、現場の省人化・自動化を進める必要性、投資のための原資の確保など、業種・業界を問わず「持続可能な物流体制」を構築することが、事業の継続や社員と家族の安心につながるとあらためて認識した期間だった。 物流業界における課題は大きく3点ある。 (1)労働力不足 2024年4月からドライバーの時間外労働の上限が年間960時間となり、時間外労働は現状の83%に抑えられる※1。また、2028年ごろにはドライバーの数は約76.3%へ減少すると言われている。つまり、10年もたたないうちに83%×76.3%=63%の人員での対応が迫られるのだ。 さらに、厚生労働省の発表によると「自動車運転の職業」の有効求人倍率は2.11倍(2020年5月分)となっており、1名の候補者に2社が求人を出している状態である。二者択一で選ばれる魅力の発信が必要となる。 (2)低い生産性 車両を101台以上保有している貨物運送事業者の平均営業利益率は0.8%※2と低収益である。 全業種と貨物運送業を比較しても、貨物運送業の人時労働生産性は低く、そもそも付加価値額を抜本的に上げていく必要がある。 一方で、「人手が足りない」「車両が足りない」と言いながら、トラックの積載効率は40%を割り込んでいる※3のが現状である。 (3)単独改善の限界 国土交通省の調査によると、1運行当たりの荷待ち時間は平均1時間45分※4である。物流機能は「受け身型」のビジネスモデル・ポジションであることが多く、単独での改善には限界がきていると言える。 2020年4月24日には国土交通省より「トラック運送業の標準的な運賃」が約20年ぶりに告示された。その中で初めてドライバーの待ち時間を換算する基準が設けられ、待遇改善に期待が高まっている。 ※1…現在、4時間/日の残業×22日+休日出勤8時間/月=88+8=96時間/月の時間外労働とした場合、960時間÷12カ月=80時間/月が上限となると、96時間→80時間=83%となる ※2…全日本トラック協会「経営分析報告書―平成30年度決算版―」 ※3…国土交通省「自動車輸送統計年報」(平成30年度分) ※4…国土交通省・厚生労働省「トラック輸送状況の実態調査(平成27年)」
3大課題解決とBCP(事業継続計画)の観点からも今後はますます共創が進むと考えられる。共創には「水平の共創(ヨコのつながり)」と「垂直の共創(タテのつながり)」がある。 (1)水平の共創 複数の荷主や物流事業者が連携し、輸配送や保管を共同化することは積載率の向上や倉庫・車両の稼働率向上につながる。BCPの観点からも他の荷主との連携・共同化の必要性が高まっており、異業種間も含めて広まると考えられる。 【図表1】水平の共創
(2)垂直の共創 発荷主と着荷主、荷主と物流事業者などのサプライチェーンにおけるつながりである。荷待ちや付帯作業などはヨコのつながりでは解決しない。「検品の簡素化」「曜日指定や時間指定の納品」など、これまでの商習慣を見直す必要がある。 【図表2】垂直の共創
水平と垂直の共創を進めていく“共創テーマ”は、①共同輸配送、②標準化、③波動の平準化、④条件の見直し、⑤物流の位置付けを高める、の五つである。 共創テーマを推進するために、企業が進めていくべき五つの施策を提言する。 (1)ミッション・ビジョンの策定と浸透 外部環境が大きく変化する時期には、あらためて自社のミッション(使命)とビジョン(目指す姿)を明確にし、浸透させることが重要となる。変化を見据えた改革を実行するために、価値判断基準となるミッションとビジョンを描き、経営者、幹部、一般社員、これから仲間になる人たち全員で共有することが必要である。 (2)戦略人財の育成 組織のレベルと事業のレベルは比例する。生産性を高めるためには、内向きのマネジメントでは限界がある。事業の設計・条件見直しや共同配送の提案を推進するなど、得意先に働き掛けられる人材の育成が必須である。 (3)専門人材の採用と育成 数合わせの採用から切り替える必要がある。これからの10年で物流業界の労務管理、評価制度は特に難しくなる。また、自動化・システム化を進めていくことが必須である。システム系・人事系・デザインや広報系の組織を強化していくことが、共創を推進する組織づくりのスピードを速める。 (4)依存率の低減 販売先・仕入れ先(協力会社)の依存率を下げることが必要である。目的はリスク分散であるが、新たなノウハウの習得、自社のレベルアップにもつながる。 (5)基幹業務のフローの整理 業務平準化と多能工化、自動化・機械化のためには業務フローの整理が必要。BCPの観点においても復旧対応のためには業務フローが必須である。
これからの10年、物流業界は激変すると考えられる。EC市場がますます拡大し、受発注が完全にデータ化されると自動化・省人化が進めやすくなる。倉庫内作業のプレーヤーが物流事業者ではなくロボット販売企業になる可能性もあるだろう。 未知の世界には正解がない。ゼロベース&スピードを優先して「新しい事実を創る」。最大の敵は「評論発言」「予定調和」「前例主義」である。評論・調和・前例に惑わされることなく、自社のミッション(使命)とビジョン(目指す姿)に基づいて判断し、進めていけば必ず正解にたどり着く。 物流が世の中を支えている。物流が止まれば経済も生活も止まってしまう。それだけに、皆で物流業界の魅力を高め、持続可能な物流をつくり上げていくべきだ。 【図表3】戦略的に狙う領域を決める
ビジョン・経営計画の見直しの必要性 業種・業態・業界で業績影響度の差こそあれ、コロナショックが顧客・消費者の価値観を大きく変えるきっかけになったのは間違いない。今までの当たり前が当たり前でなくなった。顧客・消費者の価値観が大きく変わったということは、ビジネスのやり方も変える必要があるということだ。われわれは自社のビジネスモデル(顧客×商品×提供方法)、マーケティング戦略、営業戦略、人事処遇制度、採用戦略などの変更・見直しを迫られているのである。 今回のショックを受けてビジョンや経営計画を見直す際に大事なことが2点ある。 1点目は「シフト」である。2008年リーマン・ショック、2011年東日本大震災、2016年熊本地震、2018年西日本豪雨、そして、2020年コロナショックと、近年は頻繁に想定外の経済危機・自然災害に直面している。今後もこのような有事を想定した強い経営(特に収益性・安定性)を行わなければならないという覚悟(意志)が必要である。 変化した価値観に合わせて、ビジネスモデル、ドメイン、顧客(業界・業種)基盤、商品・サービス基盤などをシフト(リスク分散)しなければならない。タナベ経営創業者の田辺昇一は常々、「卵は一つの籠に盛るな」と言っていた。つまり、リスク分散のことだ。自社の将来のありたい姿を再度、構想・再構築する必要がある。 2点目は「効率を追い過ぎない」ことである。効率的に取り組み、成果につなげるのはビジネスの大原則だが、こういった不況期のビジョン・経営計画の見直しにおいては、効率を重視し過ぎると実行、取り組みが遅くなる。 転換期には道なき道を創る必要がどうしても出てくる。大切なのは、迷いながらもまずは実行すること。回り道し、後戻りしながらも、そういった取り組みがその後の成果につながるのである。 だから、迷っていても始まらない。まずは実践・実行あるのみだ。そして、高速でPDCAを回し、試行錯誤しながら進むのが結果的には一番速いのである。結果を出している会社とそうではない会社の差は、考え方と実行スピードの差である。この認識に基づき、トップ自らが「人と組織」を動かす必要がある。 タナベ経営は常にクライアント企業と一緒になって、市場・経営環境、ビジネスモデル設計、ライバル分析、自社の強み・弱み、商品基盤などを分析し、企業の3~5年先のあるべき姿・経営計画・重点施策などをディスカッションし、将来を一緒にデザインしてきた。こういった時期だからこそ、自社の存在価値(われわれは何のために存在し、何をもって貢献するのか)を再度見つめ直していただきたい。そして、ビジョン・経営計画の見直しを行い、下期(2020年10月以降)に向けてのチャレンジ目標を設定し、それに向かって実行計画の立案をお願いしたい。 持続可能な物流を可能にする「共創」 K社は地方都市にある日用品ファブレスメーカーである。主に中国から仕入れた商材を販売店に出荷しているが、近年、供給体制に異常を来たしている。 K社は輸配送機能を有さず、外部委託している。特に販売店への直送が特徴で、評価も高かった。しかし、当該エリアは特にドライバーが不足しており、運送事業者が十分に確保できなくなりつつあった。年末にはやはり便が確保できなくなり、販売店に約束した供給が大幅に滞った。 これは一時的なことではない。K社は外部委託している運送事業者から「次の物流の波動極大期に対応できるか分からない」と言われており、抜本的な解決が求められている。 2018年に日本生産性本部が発表した「質を調整した日米サービス産業の労働生産性水準比較」によると、日本の運輸業の労働生産性は米国の43.0%、日米のサービス品質の違いを調整した場合でも52.6%にすぎないという。つまり現在無償で行っている付帯サービスを有償化しても、米国の半分程度の労働生産性しかないのである。 そもそも米国と日本の差異は何か?最大の要因は、ドライバーの待機時間である。 日本の場合、輸配送時間以上に輸配送先で待機する時間が長くなることが珍しくない(総時間が倍になれば、価値は半減する)。対して米国の場合、ドライバーの責任範囲は輸配送に限られる。往路で運んだ貨物や荷物はトレーラーごとに切り離され、復路では別のトレーラーにトラクタ(運転席、けん引側)を切り替えて即座に移動することが可能だ。 日本型物流の良い点は、荷主の要望に細かく対応したサービス体制である。しかし、その「部分最適」が、「全体最適」を大きく阻害することもある。 K社の場合、運送事業者はK社と周辺企業の出荷時間の要望に細かく対応しており、時間の重なりが多く発生した。結果、積載効率の悪い庸車が必要以上に発生し、キャパオーバーしたのである。運送事業者はK社にも時間変更の要望を出していたが、K社は販売会社の心証悪化を恐れ、本気で取り組めずにいた。 「リアルなマテリアルの消費」は、今後も経済活動の重大な基盤であることは変わらない。であるならば、物流を止めてはならない。しかしながら、ECの増加やドライバーの需給ギャップを考えると、これまでの日本型物流を維持することは現実的でない。 今後の改善ポイントは「物流の存続」を機軸に、サプライチェーン上の各プレーヤーが「ちょっとずつ譲り合う」ことだろう。例として、 ・差別化するための物流条件を、単純に物流事業者に押し付けない ・共同で物流改善を行う際に、社内情報を過度に隠さない ・部分最適(自社都合)でなく、全体最適(物流の維持存続)で考える などが挙げられる。「共創」とは協力して新たな価値を創造することである。K社は物流条件でなく、販売店への商品企画力の訴求を戦略に組み入れた。まずは自社が何を譲れるか、言い換えれば「物流条件の何を割り切り、代わりにどんな強みを磨くのか」を考えることから始めていただきたい。 【図表】ビジョン・経営計画を見直し、個人レベルの計画・行動へ落とし込む
タナベ経営 経営コンサルティング本部 本部長代理 物流経営研究会 リーダー 土井 大輔 Daisuke Doi
大手システム機器商社を経てタナベ経営に入社。製造業、卸売業、小売業、サービス業、建設業など幅広い業種に対し、事業戦略立案や新規事業開発などの戦略テーマから営業力強化、マニュアル整備などの戦闘テーマまで対応する。各業界において「物流・ロジスティクス」が企業競争力を高めると確信し、「物流経営研究会」のリーダーとして活躍中。タナベ経営 経営コンサルティング本部 副支社長 物流経営研究会 サブリーダー 番匠 茂 Shigeru Banjyo
長年にわたる営業部門での経験を生かし、各企業の経営コンサルティング、幹部人材の育成などで活躍中。特にトップ・幹部と一体になった実践的な取り組みにより、クライアントへの熱い思いをベースに進化を実現。数多くの成長企業を支えている。