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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2020.07.22

価値観をアップデートし「あるべき姿」を再設定する:ドメイン&ファンクションコンサルティング部

 

 

経済危機や技術革新が価値観を変える

 

2020年5月、厚生労働省は感染リスク低減に向けた「新しい生活様式」を公表した。基本的な感染症対策や日常生活を営む上での生活様式の他、テレワークやオンライン会議といった新しい働き方の実践を呼び掛けている。新型コロナウイルスの感染拡大は、人やモノの動きを止め、経済に深刻な悪影響を与えただけではなく、パラダイムシフト(社会の価値観の大転換)をドライブしているのだ。

 

コロナショック後の世界は、元の通りには戻れない。これは歴史が証明している。例えば、1970年代の2度のオイルショックは、大量生産・大量消費という製品中心志向から、消費者が求める商品は何か(消費者中心志向)という新しい価値観へ移行させた。2008年のリーマン・ショックは、米国を中心に回っていた経済を、米国・中国という2国を中心とするニューノーマル(新しい常識、新しい常態)へと移行させた。

 

その他にも、日々さまざまな技術が生まれ、私たちの生活様式や価値観を変えている。インターネットやSNSなどの技術革新により、「モノからコト(価値)へ」「所有から利用へ」と価値観が変わり、また「自己実現欲求」「共感」という価値観も存在感を強めた。

 

こうした変化へ的確に対応する企業が急激な成長を遂げている。Facebookは「共感」という価値で大きく事業を伸ばし、AppleはCDやDVDという「モノ」だけでなく、音楽や動画を見るという「コト」の消費で大きく成長した。近年で言えば、自動車を買わずに利用するカーシェアリングや、民家を宿泊先として提供する民泊、自己実現を目指すためのプライベートジムなども、新しい価値観を捉えて成長戦略に組み込んだ例と言える。

 

 

 

 

 

 

【図表】企業経営のフレームワーク「1T4M」

 

1T4Mで新たな需要を創出

 

不可逆的な価値観の変化(新しい価値観の芽生えと拡大)が激しい今、コロナショック後の経済環境に対してどのように対応していくかが経営のポイントになる。そのポイントを【図表】に示す「1T4M」という切り口で整理しよう。

 

1T4Mとは、キーテクノロジー(固有技術)とマーケット(顧客価値)が合致すれば事業として成立し、管理(マネジメント)、財務・収益(マネー)・人材(マン)という経営機能で事業を支えるという考え方である。

 

事業戦略とは、企業の保有するキーテクノロジーをマーケットにぶつけることだ。コロナショック後のマーケットでは、公衆衛生に関する意識やデジタルツールの存在感が増すといった変化があるだろう。

 

他にも、BCP(事業継続計画)の観点から「従来の取引先や生産拠点だけでよいのか」という課題が生まれ、サプライチェーン再構築の取り組みは増える。営業現場においても、営業担当者がクライアント先に移動して紙の資料で説明する営業スタイルから、オンラインツール(Zoom、Skype、Meetなど)を活用した非接触型の営業スタイルが活発化していくだろう。

 

自社のキーテクノロジーを活用し、「新しい価値観に沿った新しい事業」を生み出す視点も重要となる。価値観の変化は、これまでになかった需要(課題)やビジネスを生み出す。成熟市場といわれ続けている日本に、これまでにない「新たな需要」を創出することが変革のチャンスと言える。

 

経営戦略は、管理、財務・収益、人材の組み合わせでできている。財務・収益で言えば「キャッシュ・イズ・キング」、つまり手元資金や財務の安定性が重要になる。収益構造に関しては、景気変動に強い損益分岐点操業度が重要指標になり、コストの変動費化がポイントになっていく。

 

人材に関しても、タナベ経営が提言している「クラウドと動画を活用した企業内大学校づくり(アカデミーコンサルティング)」による教育研修のデジタル化や、リモートワーク環境の構築(PCの整備、勤怠管理を中心とする各種業務システムのクラウド化、ペーパーレス化、テレビ会議システムの導入など)、採用のデジタル化(ウェブ上での説明会、面談など)が加速している。企業が従業員の健康を経営課題と捉える「健康経営」に、より注力する必要がある。

 

管理では、BCPの策定から始まり、策定した計画を正しく導入・運用・改善するためのBCM(事業継続マネジメント)の重要性が増す。企業のデジタル化についても、一部の業務にITシステムを導入するなどの部分的な取り組みではなく、企業を丸ごとデジタル化するDX(デジタルトランスフォーメーション)が求められる。

 

また、「企業の存在価値は何か」「社会に提供している価値は何か」といったミッションマネジメントをより強力に行っていく必要がある。経済に不安がある時こそ、社員や顧客、協力業者を中心とするステークホルダーから強く認識されるミッションやメッセージが必要だ。変革の際、自社が変えてもよい部分を見極める判断軸になる。

 

 

 

 

 

 

「あるべき姿の再設定」と「共有の場づくり」

 

アフターコロナの価値観の変化は、企業の経営にあらゆる影響を与えていく。各部門の部分的な取り組みではなく、全社一丸となってどのように経営変革を行っていくかを議論する必要があるだろう。

 

経営陣や次世代幹部(もしくは中堅社員や若手社員にも部分的に参加してもらう)で「あるべき姿を再設定」し、共有するとよい。事業・経営戦略について、新しい価値観に沿った変革テーマをメンバーで話し合うことが重要である。新しい価値観に対する自社の進むべき方向性が明確になり、新しい事業アイデアも創出されやすい。

 

また、ミッションマネジメントの観点から見ても、メンバー同士で共有することで推進力が増す。変革を推進するには、このような「共有の場づくり」が重要だ。

 

厳しい環境下ではあるが、ぜひ「会社を良い方向に変える」「企業価値を高める」チャンスと捉え、あるべき姿の再設定と共有の場づくりにチャレンジしていただきたい。