企業には「社会性」と「経済性」の両面を追求するCSV(Creating Shared Value、共通価値創造)※の視点が求められる。(【図表3】)
【図表3】CSRとCSVの違い
私は学生時代に、タンザニアのストリート・チルドレンの自立を支援する(職業訓練や教育のサポートを行う)ボランティア団体を立ち上げ運営していたが、その持続可能性に限界を感じた。
企業の場合、収入の一部を従業員へ給与として分配したり、事業資金に充てたりして事業を持続させることができる。しかし、ボランティア団体の場合、営利目的の活動ではないため金銭の配分ができず、メンバーのモチベーションの維持が難しい。そもそも得られる収益が不安定なケースも多く、活動の持続可能性にも疑問が残る。
上記は言うまでもなく、「社会性」を追求する活動だ。一方、もし企業が「経済性」(利益)のみを追求した場合、多くの従業員はトップの方針についていけず、疲弊・離職してしまうだろう。それだけでなく、サステナビリティーに配慮しない事業活動は、社会環境へ悪影響を及ぼす可能性もある。
よって、企業には「社会性」と「経済性」の両面を追求するビジネスモデルが必要不可欠と言える。
2020年9月から開催されるタナベ経営「SDGsビジネスモデル研究会」のゲスト講師企業は、全てCSVの視点からビジネスモデルを組み立てている。例えば、数々のソーシャルビジネスを展開するボーダレス・ジャパンは、社会課題のプラットフォームとして、社会性の指標(ソーシャルインパクト)と経済性の指標(売り上げ・利益)の両面を追求するビジネスモデルを実現し、創業以来、13年間で12カ国34事業を行っている。
SDGsに取り組み始める中堅・中小企業から、「環境に配慮した原材料に変えることは、部門の決められた予算では難しい」「サステナブル戦略に対して取引先の理解が追い付いていない」といった声を耳にする。
これから自社が生き残るためには、将来の社会を予測し、そこから逆算して、広義の意味で自社を取り巻く社会課題を認識することが、まず必要ではないだろうか。また、その社会課題の解決は、新しい事業機会として捉えることができる。
よって、部門単位や単発的な視点に偏ることなく、全社一丸となり、未来を見据えたサステナブル戦略を構築するべきである。その際、自社がSDGsに貢献することで、ステークホルダーに提供できる価値を整理しておくとよい。
しかし、「SDGsが流行っているから、ひとまず打ち出してみた」と言わんばかりに、本質を見失い、ブランディングのみに走るような、手段先行に陥らないよう気を付けたい。
※営利企業が社会ニーズ(社会課題の解決)に対応することで、経済的価値と社会的価値をともに創造しようとするアプローチ。米国の経営学者、マイケル・ポーター教授らによって提唱された
(1)2030年を一つのメルクマール(指標)とした、長期ビジョンを設計する
まずSDGsのゴールである2030年を目標達成の期限とする長期ビジョンを設計する。創業の背景に立ち返り、どのような困り事を解決したいのか、また自社が描く未来に関連する社会課題を明確にする。それをステークホルダーに対する影響度や自社における重要度から、取り組む優先順位を明確にする。
(2)経済指標(売り上げ・利益)だけでなく、非経済指標である社会性の指標(事業を通じて社会課題を解決することがどのようなインパクトをもたらすのか)を明確にする
事業に落とし込むに当たり、売り上げ・利益の目標値だけでなく、どのような社会課題に対し事業を通じてどのくらいのインパクトをもたらすのかという指標も追っていく。社会課題はなるべく具体的に設定し、実現したい社会を広義に捉えることで自社の目指すべき姿が明確になり、目的を見失わず、事業を継続することができる。
(3)10年単位と1年単位で指標を追い掛け、修正を重ね、パートナーシップで成果を上げる
長期ビジョンを設け、取り扱う社会課題を明確にした上で、環境の変化に合わせて1年単位で計画の修正を重ねていく。コロナショックによる社会環境の変化で明らかになったように、課題を取り巻く環境は常に変化していく。社会課題が明確であれば、ステークホルダーを巻き込み、パートナーシップを構築しながら解決を図ることで、成果が出るスピードは上がる。
また、SDGsのゴール17「パートナーシップで目標を達成しよう」は、全てのゴールに密接に関係する。自身・自社・日本には関係ない、では済まされない。誰と組むことで成果を最大化するのかがポイントである。
SDGsに取り組むきっかけは、何であっても良い。しかし、間違えてはいけないのは、SDGsが「誰一人取り残さない」というゴールに向けて、全世界共通で取り組んでいる指標ということである。まず経営陣がこのゴールに基づき、達成したいミッションを掲げる。それによって、多様なステークホルダーを巻き込み成果を上げていくことが肝要である。一社一社の取り組みによって、多くの社会課題を解決できる。
世界の「困り事」を可視化したSDGsは、いわば世界のニーズだ。コロナショックにより世界中の価値観や枠組みが大きく変化した今後、あらゆるビジネスがSDGsを中心に変わっていく可能性がある。「SDGs=慈善活動」という先入観を捨てて、ビジネスチャンスと捉え、事業の種を芽吹かせて大きく育てよう。
企業の持続可能な成長には、SDGsの観点から社会性と経済性の両面を追求するビジネスモデル構築が必要不可欠です。本研究会を通じて、SDGs2030年開発目標を踏まえ、自社ビジネスモデルにSDGsを組み込んでいきましょう。