「働き方改革」は タイムマネジメントを鍛える絶好のチャンス:水本 伸明
日本人の「時間の使い方」
日本生産性本部が発表した2018年の日本の時間当たり労働生産性は46.8米ドル(購買力平価換算)だった。OECD(経済協力開発機構)加盟36カ国中21位、G7(主要先進7カ国)では1970年以降、最下位の状況が続いている。
一方、2019年4月に「働き方改革関連法」が施行し、企業は年5日の有給休暇取得が義務化された。また2020年4月から、いよいよ中小企業の残業規制(月45時間・年360時間)が始まる。時間当たり生産性の低い日本企業が、本格的に労働日数・時間の削減を求められることとなる。抜本的な生産性向上への取り組みが必須である。
もちろん、すでに日本企業の多くは働き方改革を進めていることだろう。しかし、実際に改革の成果が上がっているかといえば、そうではないようだ。求人・転職サイトを運営するエン・ジャパンの調べ※によると、労働時間が短縮して「生産性(業績)が上がった」と答えた人は3割に満たなかった(27%)。大半の職場は改革前から生産性がほとんど変化していない。
多くの日本のビジネスパーソンは、上司からトップダウンで自分の業務が割り振られる。また、職場でもチームワークが必要以上に重視され、同調圧力で自分一人だけ休めない雰囲気が漂う。日本人が、効率的な働き方や時間の使い方が苦手なのは、こうした企業文化も背景にある。
※アンケート「『働き方改革』について」(2019年9~10月、有効回答数1万1405名)
【図表1】生産性の公式
【図表2】重要度と緊急度のマトリクス
「タイムマネジメント」四つのスキル
限られた時間内で成果を出すことが求められる現在、タイムマネジメント(時間管理)はビジネスパーソンの必須スキルである。
タナベ経営は生産性について公式を定義しており(【図表1】)、例えば「業務改善スクール」においてもタイムマネジメントを重要なカリキュラムの一つとして扱っている。
コンサルティングの経験上、ビジネスパーソンがタイムマネジメントのスキルを上げていくポイントは四つある。順に紹介していこう。
(1)「時間=経営資源」を理解する
1分、1秒の時間に対する価値を理解し、行動することが生産性を高める第一歩である。
実際、業績が悪い企業ほど時間に価値を置いていない。応接間の時計の針が遅れているのに放置する、会議の開始時刻を過ぎているのに人がそろわない、書類の提出期限を守らない、自分の仕事の後始末を平気で他人にさせる(他人の時間を奪うことに罪悪感がない)など、とかく時間の扱いがルーズである。
自分の時間、部下の時間、同僚の時間、上司の時間は、それぞれ企業にとって重要な経営資源だ。それらの時間を粗雑に扱うことは、経営資源を無駄遣いしているのと同じである。時間という経営資源の価値を理解しなければならない。
(2)重要な仕事に時間を重点配分する
あなたが今、取り組んでいる仕事は本当に重要度が高いのか。または緊急度が高いのか。この質問を自らに問うていただきたい。
すぐに完了できる作業は何か、移動中や待機時間に取り組める業務は何か、まとまった時間を確保して集中的に取り組むべき業務は何か、自分がやらなくてもよい業務は何か。現在、自分が抱えている業務の重要度と緊急度を可視化(見える化)し、時間の使い方を計画する。それを実行に移しながら見直していく。このサイクルを繰り返すほど、精度が上がる。(【図表2】)
タイムマネジメントのスキルは筋肉と同じだ。適切な負荷をかけて繰り返し行うことで、レベルが上がっていくスキルなのである。
(3)専門性の追求に時間を投資する
自分自身がプロとしての価値を高めていきたい専門分野に、時間を投資してほしい。例えば、ある分野でプロレベルに達するには約1万時間の練習・学習が必要だといわれる(1万時間の法則)。これは英作家マルコム・グラドウェル氏が米フロリダ州立大学のK・アンダース・エリクソン教授の研究結果から導き出した経験則だ。
仮に1万時間を法定労働時間(1日8時間)で割ると1250日となり、単純計算で約3年の時間が必要となる。現在、新卒社員は3年以内で3割が離職するといわれている。「社会人」というプロとして成長できるかの分岐点が「入社3年後」という見方もできる。この3年という時間を、どの専門性に投資していくかが重要となる。
(4)追われるのではなく、コントロールする
上司の指示に振り回された揚げ句、結局は業務が振り出しに戻ってしまったという経験は誰もが持っていると思う。受け身の姿勢で進める仕事は、納期やアウトプットなど自分でコントロールがしにくい。
受け身の仕事が積み重なると、期限に間に合わない仕事が増え、それぞれの仕事の品質が低下するばかりか信用まで失う羽目に陥る。職種や立場的に業務量そのものを減らせないのであれば、この負のスパイラルを止めるためには、自分自身が主体的かつ能動的に仕事を進めていく他ない。
指示が悪い、量が多過ぎるなどと愚痴をこぼす前に、例えば上司から指示を受けたときに明確なアウトプット(成果)のイメージを共有できていたのか、また指示の全体像と進め方をその場で確認したのか、途中で相談しながら進めていたのかなど、主体的・能動的に仕事をコントロールしていたのかを振り返る必要がある。
タイムマネジメントを楽しむ
楽しい時間は短く感じられるが、退屈な時間は長く感じられる。時間は平等に与えられているが、時間をどのように感じるかは平等ではない。
筆者は、コンサルティングの現場でクライアント企業の経営者とよくディスカッションを行う。優秀な経営者ほど、どこか楽しんでいる雰囲気が垣間見える。多忙を極め、大きな経営課題が眼前にあるにもかかわらずだ。
ビジネスパーソンにとっては、「仕事をいかに楽しむか」を追求し続けることも、タイムマネジメントを進める上で重要なテクニックになる。メンタルヘルスに良い影響を与え、仕事のさばき方や判断スピードが速くなり、働き方改革へとつながっていく。