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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2020.03.31

特別対談 “未来の教育”を考える:AMS合同会社 代表/元ミネルバ大学 日本連絡事務所 代表 山本 秀樹 氏 × タナベコンサルティング 細江 一樹

   
2014年に米サンフランシスコで設立されたミネルバ大学は、企業が求める職業スキルを自在に使える人材を育成し、世界中から2万人を超える受験生が集まる「21世紀最初のエリート大学」だ。同大学の日本連絡事務所代表を務めた山本秀樹氏に、教育最前線の動向を伺った。
   
ミネルバ大学の日本事務所を担ったAMS
  細江 AMSは2015年から2017年まで、ミネルバ大学の日本事務所を兼ねていました。ある雑誌でミネルバ大学を知り、その斬新な取り組みに関心を持ち、問い合わせたのがきっかけだそうですね。まずは山本代表のご経歴からお聞かせください。   山本 私は慶應義塾大学を卒業して東レに入社しました。化学繊維の新規用途開拓を担当し、幅広い業界と新製品の共同開発プロジェクトを経験した後に、英国ケンブリッジ大学のビジネススクールに留学してMBA(経営管理学修士)を取得。その後、外資系の経営コンサルタント会社を経て、住友スリーエム(現スリーエムジャパン)に入社し、研磨剤製品事業部マーケティング部長を務めて次世代リーダーの育成に注力してきました。   細江 退職後、2014年にAMSを設立し、代表に就任されました。AMSを設立した理由と事業概要をお聞かせください。   山本 東レやスリーエムに勤務する中で、長期プランに基づいた開発・製品戦略が立てにくくなったと感じるようになりました。短期的な業績が次第に重視され、中期経営計画よりも四半期や来月、来週の売り上げを気にする傾向が強まってきたからです。   そこで、大企業で「明後日のメシのタネ」をつくる仕事に従事した経験を生かし、20年、30年先、さらに50年先のメガトレンドをしっかりとリサーチする会社を立ち上げることにしました。その結果に基づいた事業戦略や人材育成の企画立案までを手掛けたいと考えています。   また、当社の設立当初、英国の研究開発を受託するベンチャー企業から日本オフィスを開設したいとの要望が寄せられたこともあって、海外研究開発委託事業者の日本連絡事務所開設支援を行っています。   細江 人材育成との関わりはどのように持ったのですか。   山本 住友スリーエムに勤務していた折、スポーツウエアメーカーのデサントをV字回復させた元代表取締役社長の田尻邦夫氏が立ち上げたNPO法人「新社会人養成塾Booster」で、若手社員にキャリアの積み方を教えたことが人材育成との最初の接点です。授業を通して「自分の向かうべき方向を見つけ、足りないものを勝ち取りながら進んでいけば、周囲の評価なんかに影響されずに生きていける」と伝えました。  
企業が求める人材を育成 2万人超の受験生が集まる
  細江 ミネルバ大学はどのような教育機関なのですか。   山本 米サンフランシスコに拠点を持ち、「高等教育の再創造」を掲げる教育事業会社のミネルバ・プロジェクト社が「21世紀最初のエリート大学」として、2014年9月に開校した全寮制の4年制総合大学です。   広大な敷地や講堂、研究施設、運動施設などは持たず、学生寮は都市部にある普通の集合住宅で、授業は全てがオンライン――。そんな大学ですが、世界中から2万人以上の受験者が集まり、合格率はわずか1.9%。米国のハーバード大学やスタンフォード大学、英国のケンブリッジ大学などの名門大学の合格を辞退して、ここに入学する学生もいます。   学生数は約600名(2019年9月現在)で、そのうち海外留学生は8割を占めます。日本人留学生は3年生2名、2年生1名、1年生4名で(2020年1月現在)、2020年9月の入学予定者は今のところ1名ですが、まだ受験機会があるので増えるかもしれません。   細江 開校後わずか5年で世界から注目を集めているのですね。大学創立の背景には何があったのですか。   山本 米国の大学を取り巻く深刻な状況があります。まず、大学サイドと企業(雇用主)サイドの間にある「社会に出る準備」「学部卒に期待する職業技能」に対する意識のギャップです。米国ギャラップ社が2014年に実施した意識調査によると、大学と企業の経営リーダー層へ「学生は社会で活躍できる準備ができていると思うか?」と質問したところ、「そう思う」と答えた大学経営者は96%に達しましたが、企業経営者はわずか11%でした。   それでは企業が求めるものは何でしょう。米国大学協会の資料によると、学卒雇用主の93%は「どのような学位を修めたか」よりも、「複雑な問題を明快に分析し、人と協力しながら解決できるコミュニケーション能力を持っていること」の方が大事と答えています。また、世界経済フォーラムの調査によれば、2020年に求められる職業スキルとして「複雑な問題解決力」「クリティカル思考力」「創造力」「人材育成管理」「人間関係調整力」「情緒的知性」「判断・決断力」「サービス中心指向」「交渉力」「柔軟な認識力」を挙げています。   こうしたスキルを総合的かつ効果的に習得するのは、既存大学における特定分野の専門知識を覚えることに注力するカリキュラムや、教員が多くの学生へ一方的にレクチャーする知識伝達形式の授業では不可能です。   細江 ミネルバ大学はどのような学びで、その課題に対応しているのですか。   山本 ミネルバ大学のカリキュラムの中で最も重要かつユニークなポイントは、1年次に学ぶ「実践的な知恵」です(【図表】)。これを個人の「思考技能」と集団における「コミュニケーション技能」に分類し、さらに思考技能は「クリティカル思考」と「クリエイティブ思考」、コミュニケーション技能は「効果的なコミュニケーション」「効果的なインタラクション」に分類。1年次にそのコンセプトを徹底して学び、2年次以降の専攻科目の授業でも成績評価の対象にしています。これによって学生はいかなる状況でも自分の思考・コミュニケーション能力の進化具合を確認しながら、実践的な知恵を習得していけるのです。   【図表】ミネルバ大学が考える「実践的な知恵」の概略図 出所:山本秀樹著『世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ』(ダイヤモンド社)     細江 ITを活用したカリキュラムも注目されていますね。   山本 ミネルバ大学の全ての授業は、教員を含め20名以下のセミナー形式で行われます。参加者全員が集中し、学習効果を最大限に高められる独自のオンライン・プラットフォームを導入しているので、学生と教員は“教室”という同じ空間にいる必要はありません。   授業は各生徒がプラットフォームにアクセスし、教員のファシリテーションの下、活発なディスカッションが展開されます。各自のパソコンには参加者全員の顔が表示されるため、全員が教室の最前列に並んでいる雰囲気です。   全ての授業は録画されるので、教員は学生の発言を確認して的確なフィードバックを迅速に行えますし、学生は自分の強みや弱みを把握して次回の授業に臨むことができます。   このような学びの効果は絶大で、米国の「CLAプラス」(大学1年生から4年生の間にどれだけ批判的思考力などが発達したかを測定する試験)の実績では、他大学が4年間で平均3ポイントしか上昇しないのに対し、ミネルバ大学は1年間で21ポイントも上昇しています。         AMS 合同会社 代表/元ミネルバ大学 日本連絡事務所 代表 山本 秀樹氏
1997年慶應義塾大学経済学部卒、2008年ケンブリッジ大学経営管理学修士(MBA)。大学卒業後、東レに入社し、高機能繊維の新規用途開発を担当。ブーズ・アンド・カンパニー(現PwC Strategy&)では、主に素材メーカーの事業再生、成長戦略、M&A戦略、新規事業開発支援に携わり、その後、住友スリーエム(現スリーエムジャパン)にて二つの事業部でマーケティング部長を経験。ケンブリッジ大学に留学後、同大学のカレッジ制度や少数、グループワーク重視の学習環境・スタイルに感銘を受ける。2014年に独立後、Minerva Schools at KGIの存在を知り、コンタクトしたことがきっかけで、日本連絡事務所代表を務めることになった。2017年、ミネルバ大学で得た「教育の再創造」というミッションをより多くの人に届けるため、日本連絡事務所代表を辞し、「Dream Project School」を立ち上げた。
    山本秀樹著『世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ』(ダイヤモンド社)    
資質・キャリアに応じた社内教育が必要
  細江 ミネルバ大学の革新的な教育を目の当たりにされた山本代表には、日本の大学教育はどのように映るのでしょうか。   山本 残念ながら、日本の大学はどこも同じことをやっていて特色が感じられません。例えば、国際系の学部なのに学生の8割は日本人で授業も日本語、グローバル感が全くない。「自校の特色」「自校の教育システムで成長できる人のプロファイル」「そうした人材の集中するエリア」といった基礎的なマーケティングが足りないのでしょう。   塾と偏差値に頼って学生を集め、旧態依然とした教育を提供して、教授推薦で就職先を探す……。これではグローバルで変化の激しい時代を勝ち抜く人材など輩出できません。ちなみに偏差値は成績分布上の位置を示しているだけで、頭の良さとは無関係です。   細江 注目されている教育機関はありますか。   山本 学生の立場からすると、学びはものすごく多様化しています。例えば、フランスに本校があるエンジニア養成機関42の東京校、42 Tokyo(東京都港区)。2020年4月に開校予定で、キャンパスは365日24時間開放され、学生同士が学び合う「ピアラーニング」方式を導入します。応募資格は18歳以上で経歴不問。4週間続く入学試験に合格すると在籍資格が与えられ、学費は一切かかりません。パリ本校では年収1000万円以上のプログラマーやシステムエンジニアを輩出しています。   このほか、アジア各国から優秀な留学生が集まる立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)。また開学以来、在学生の97%が海外留学生で、その半分がアフリカからの国費留学生という神戸情報大学院大学(兵庫県神戸市)にも注目しています。   細江 最後に、企業経営者は社員の教育にどのような姿勢で取り組むべきでしょうか。   山本 今の大学生は、もはや終身雇用という考え方を持っていません。プロジェクト単位で仕事の価値を測り、自分のキャリアにもたらされるメリットを気にします。   ですから、入社年次ごとに行うような従来型の研修より、各人の資質・キャリアに応じた研修を施すべきです。「この研修を通して、このようなアウトプットを期待している」と本人に伝え、その成長具合を見ながら適切なフィードバックを行う必要があると思います。   細江 タナベ経営も人材育成に意欲的な企業と連携してITを活用したFCCアカデミー(企業内大学)の開校を進めています。ミネルバ大学の先進的な取り組みはとても参考になります。本日はありがとうございました。      

タナベ経営 経営コンサルティング本部 支社長代理 戦略コンサルタント 教育・学習ビジネス研究会リーダー 細江 一樹

「人事制度で人を育てる」をモットーに、制度構築を通じた人材育成はもちろんのこと、高齢者・女性の活躍を推進する制度の導入などを通じ、社員総活躍の場を広げている。人を生かす独自のアイデアを数多く生み出し、ソフトな語り口での提案と、本質をズバリ提言するコンサルティング展開で、クライアントから高い評価を得ている。  
教育・学習ビジネス研究会
戦後最大の教育改革への対策や、教育とテクノロジーを掛け合わせた新ビジネス領域「Ed-Tech」に取り組む最新事例企業から学び、優良企業のノウハウの習得、新規事業のヒントの獲得などにつなげていきます。