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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2020.02.28

相互理解から始まるインナーブランディング:貞弘 羊子

 

 

高まるインナーブランディングの需要

 

最近は中堅・中小企業、BtoC企業だけでなく、BtoB企業でもブランド再構築の支援を行う機会が増えている。その中でもよく聞くのが、インナーブランディングの必要性である。

 

経営方針や新しく決めた取り組みがなかなか社内に浸透しない、社員が自発的に発言・行動しない、全体のベクトルがそろわないなど、社内の理解・浸透に苦戦している企業は少なくない。これは、社員の成長や活躍を願っている企業にこそ多い悩みであり、まずはコミュニケーションを重ねることで互いを理解し合うことが必要だ。

 

とはいえ、全社員とそれぞれコミュニケーションをとるのは難しい。そのような場合、まずは小さな単位でも理解者を増やすことが最初のステップとなる。新しい取り組みは、組織の3割が納得すれば前に進むと言われているからだ。

 

私はブランド構築支援のチームコンサルティングに関わる機会が多い。多くの場合、そのチームメンバーは社内横断的に構成・組織されている。これは、前述のようにインナーブランディングの要素に重きを置いているからである。部門・役職・年齢がさまざまなメンバーが集まり、対話を重ね自社ブランドの本質的価値に対する答えを出していくことで、経営者視点や自社理解、そして部門を超えたメンバーとのコミュニケーションが取れるようになる。

 

ブランドを構築していく過程そのものが、インナーブランディングの最初の取り組みとなっている。

 

 

 

受容から始める

 

チームコンサルティングに取り組む過程で、趣旨・内容は理解しているが、思考が止まってしまい動けないでいるチームメンバーの光景をよく目にする。「どうせ、頑張っても結果は何も変わらない」「結局、上司が全てを決定し自分の意見は反映されない」「なんで自分がやらなくてはいけないのだ」などネガティブな感情が、プロジェクトに対する共感や、その先にある創造性と行動力を阻害しているのである。

 

コミュニケーションの本質として、人間は自分を理解してもらおうとしているうちは相手から理解されず、自分が相手を理解しようとしたときに初めて相手から理解される。

 

チームに根付くネガティブな感情を取り除くためには、それぞれのメンバーが「自分は理解されている」と感じることが大切である。逆を言うと、「どうせ自分のことは分かってくれていない」とメンバーが思っていると、みんなが納得する結果は出にくい。またブランドの社内浸透も難しくなる。

 

社内メンバーでプロジェクトを進めるのは、後々、社内ブランディングのインフルエンサー(周りに与える影響力が大きい人)になってもらうためでもある。まずはプロジェクトメンバーに対して共感を醸成することが何よりも大事だ。「自分の意見が会社を変えていく」と信じられる環境が必要なのである。

 

メンバーでアイデアを共有するときも、ネガティブな感情がプロジェクトの進行を阻害することが多々ある。例えば、「しょせん、この場では何を言っても無駄だ」という感情をメンバーがチームに対して抱いてしまっている場合だ。

 

各メンバーが問題に気付き、解決するためのアイデアを持っていたとしても、それらを心の内に秘めてしまっていることがよくある。問題やアイデアがテーブルの上に上がりさえすれば、多くの問題が解決していくにもかかわらず、場に対するネガティブな感情がそれを妨げてしまっている。

 

こういった、場に対するネガティブな感情を排除し、積極的な発言や行動を引き出すために必要な考え方が「心理的安全性」という考え方である。チームに心理的安全性を醸成し、問題を共有・解決するための積極的な発言や行動を引き出すことが重要だ。

 

 

 

 

 

心理的安全性とは

 

心理的安全性とは、簡単に言えば不安や恥ずかしさ、おびえなどを感じることなく、行動が取れる職場環境である。

 

心理的安全性の不足を引き起こす原因については、次の四つに分類することができる。

 

1.無知だと思われる不安

 

恐れがまん延した環境だと、発言や行動が起こりにくくなる。「そんなことも知らないのか」というような反応を禁止し、どんな内容の質問をしてもよいというルールを決める。また質問すること自体に価値があることを繰り返し伝える必要がある。

 

2.無能だと思われる不安

 

「こいつは大したことがない」と思われる恐怖から消極的になってしまい、枠から飛び出した発言が出にくくなってしまう。そのため、あえてリーダーに想定外の発言をしてもらうことで、「どんな意見でも受け入れられる」という空気をつくり、発言の意図をより掘り下げるよう投げ掛けることが重要だ。

 

3.ネガティブだと思われる不安

 

チームの議論を遮ってしまうことへの恐れにより、発言への積極性が損なわれてしまうことがある。議論を止めることを過度に恐れてしまうと、せっかく自分の頭の中にアイデアが浮かんでいるのにチームで共有しないということが頻発してしまう。たとえ文脈からそれた発言であっても、「今はその話ではない」といった否定的な発言は避けなければならない。

 

4.邪魔だと思われる不安

 

チームの方針に反対すると他のメンバーから「自分が何に対しても批判的な人物」だと思われてしまうのではないかという恐れがメンバーにまん延し、みんなが無思考なイエスマンになるリスクがある。人と違っても良いのだと思える環境をつくることが大切だ。否定的な意見でも、まずは受容の姿勢を保つことが重要である。

 

この4点は、多様なメンバーが集まるチームで良い結果を出していくには欠かせない考え方である。これらの不安が常態化すると、いとも簡単に心理的安全性は崩壊してしまう。行動にチャレンジできる職場環境が整っているか、いま一度考えていただきたい。

 

 

 

 

 

 

アイデアが生まれる環境づくり

 

ブランドの本質的価値を見つけ出すためには、アイデアの拡散と収束を繰り返す必要がある。ただ慣れない活動の中で、自分が今やっていることがどうなっていくのか、これで正しいのかというゴールが見えにくい。概念を探り当てる作業は、暗闇の中を手探りで歩くような、大なり小なりの不安を感じることがある。

 

そんなときにアイデアを出すポイントとして、「互いを認める」「対立ではなく議論をするために相手の背景を知る」「意見を出しやすい空気をつくる」「意見は相手にぶつけるのでなく、テーブルの上に置くように」「普段とは違う環境で議論をする」の五つが挙げられる。

 

このように、新しい工夫を取り入れ、今ある資源と将来の希望を掛け合わせ、新しい組み合わせを考えることが重要である。

 

モヤモヤ期を乗り越えた経験があると、プロジェクトメンバーは自社への理解とともに、一緒に不安を克服した仲間として互いに理解が進み、共感が生まれる。これが、インナーブランディングの最初の一歩となるだろう。

 

 

アイデアを出す五つのポイント

1.互いを認める
2.対立ではなく議論をするために相手の背景を知る
3.意見を出しやすい空気をつくる
4.意見は相手にぶつけるのでなく、テーブルの上に置くように
5.普段とは違う環境で議論する

 

 

 

 

PROFILE
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貞弘 羊子
Yoko Sadahiro
「デザイン×経営」を共創というチームコンサルティングスタイルで、ブランディングコンサルティングを展開。クライアントと共に企業変革を実現する。インナーブランディングにおいては、相互協力できるチームづくりと、社員の働きがいを見いだせる風土づくりを推進している。