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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2020.02.28

「あたらしい」を顧客視点で見つけよう



陥りがちな「企業と顧客の視点のズレ」
 

「ここのうどんは、生きている。」 これは、新たなブランドコンセプトを打ち出したことで、急速に業績が回復している丸亀製麺(トリドールホールディングス)のCMキャッチコピーである。 丸亀製麺は、店内で製麺するうどんを手頃な価格で提供し人気を得て、全国に800店超を展開するチェーンに成長した。ただ、2019年3月期に既存店客数が前期比3.8%減と前年を下回り、運営するトリドールホールディングス(HD)の連結営業利益は前期に比べ約7割も減った(2019年3月期)。 この打開策として、トリドールHDは赤字続きのUSJをV字回復させたことで知られるマーケター・森岡毅氏が最高経営責任者(CEO)を務める刀(東京都港区)と協業を開始。マーケティング分野のコンサルティングを担う森岡氏は、季節商品のプロモーション中心だったブランド戦略の見直しに取り組んだ。 具体的には、社内で「強み」と考えていた「店内での製麺」を知る客が半分に満たないことが市場調査を通じて判明したため、改革に着手。顧客に訴えかけるため、前述のキャッチコピーを中心としたCM展開やブランドサイトの構築を実施するとともに、店舗オペレーションを改善し、業績を回復させていったのだ。 この事例は、企業経営において陥りがちな「企業と顧客の視点のズレ」を顕著に表している。企業が自社の強み・特長と考え、こだわりを持って製品に反映させている“品質”であっても、顧客に正しく伝わっていなければ認知されず、競争優位性を築く差別化要素にはならない。厳しい言い方をすれば、“無駄なこだわり”であるとも言える。この“こだわり”を顧客に正しく伝えることによって、自社のブランドは築き上げられ、価格以外の付加価値となるのである。 丸亀製麺の場合、自社のこだわりは“製麺機が全店舗にあり、打ちたてのうどんを提供している”ことである。企業からすれば、店舗に大きな製麺機があり、ガラス張りの製麺場でスタッフが製造しているのだから、「顧客は当然認知している」と考えてしまいがちである。しかし、実際には顧客へ十分に伝わっていなかった。 チェーンストア理論に基づいて経営するのであれば、丸亀製麺ほどの規模があれば、地域ごとにセントラルキッチンを設け、各店舗に配送する方が運営効率は良い。しかし、それを行わないのは、企業として「出来たてのおいしさ」にこだわりがあるからである。言い換えれば、「打ちたてのうどん」こそ、自社が顧客に提供する付加価値であり、自社の存在価値とも言える。 丸亀製麺のような著名なブランドにおいても、「企業と顧客の視点のズレ」を起こしていた。読者の皆さんの企業はどうだろうか。いま一度、自社を振り返っていただきたい。


「ズレ」を生じさせないための顧客視点


「企業と顧客の視点のズレ」を起こさないために、重要なことは何か。丸亀製麺の事例から言えることは、社内にマーケティング機能・組織を持つことだ。特に“市場調査”という客観的なデータに基づく分析による自社評価を行ったことが、方針転換のきっかけであったと考えられる。つまり、顧客視点で製品・サービスを作る機能を自社に持つことである。 「〇〇のことは何でも分かっている」というベテラン社員が多い企業や、経営陣の発言権が強い企業は要注意である。顧客の声に耳を傾けることなく、プロダクトアウト型の製品・サービス提供を行っていては、日々変化する市場に対応することはできない。「会社はつぶれるようにできている」「企業は環境適応業」。環境に適応するための重要な羅針盤は“市場調査”であり、このデータを分析する“マーケティング機能”と、その分析を活用して製品・サービスに反映させる“プロダクト機能”が企業経営においては非常に重要である。 この機能は自社の強みを生かしながら市場の機会を捉え続けるためにも欠かせない。市場の声を分析し、新たな傾向を捉えることが「あたらしい」製品・サービスを生み出すきっかけになる。このことにより、顧客視点での企業経営が行えると言えよう。 2019年、トリドールHDと刀が協業をスタート。以降、卓越したマーケティングで業績を急回復させている



顧客視点を自社に反映させる仕組みづくり 顧客視点を自社の製品・サービスへどのように反映させるべきか。 タナベ経営では、マーケティング分析を用いた自社ブランド再構築の仕組みとして、「ブランディング・プロセス・マネジメント」を提言している。(【図表1】) 【図表1】ブランディング・プロセス・マネジメントのフロー 出所:タナベコンサルティング作成 この手法は、マーケティング調査を中心としたブランド環境分析による自社の現状認識を行った上で、STP分析・カスタマージャーニーマップ設計・マーケティングミックス設計(4C・4P)による自社のブランドポジションを設定。それを反映させるアクションプランに落とし込むことで、製品・サービスに市場分析を反映させることができるロジックである。 この手法においては、三つの“顧客視点”を設けることで、製品・サービスが従来の“企業主体”に陥らないように配慮している。

1.ブランド環境分析における市場分析

一つ目は、ブランド環境分析における市場分析である。人口統計に基づく顧客分布を反映させた母集団に対する消費者の意識調査を行うことで、対象に偏りのない分析を実施し、現在の顧客の状況を客観的に把握することを狙っている。

2.カスタマージャーニーマップ設計

二つ目は、カスタマージャーニーマップ設計である。カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品やサービスを知り、購入するまでの「行動」「感情」などのプロセスを図示化したもの。現状分析においては市場調査で客観的なデータを捉えることができるが、それから顧客の具体的行動に転換することは難しい。また、社内における“具体的顧客像”を統一することも難しい。そのため、顧客が自社の製品・サービスを認知し、購入・利用し、再利用するまでの一連のプロセスを時系列で書き起こすことで、自社の製品・サービスが顧客目線ではどのように見えるかの共通認識をつくることができる。(【図表2】) 【図表2】カスタマージャーニーマップの事例 出典:加藤希尊著『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ』(翔泳社)を基にタナベ経営が加工・作成

3.顧客視点でのマーケティングミックス設計

そして三つ目は、顧客視点の4C(Customer value、Cost、Convenience、Communication)によるマーケティングミックス設計である。これにおいても、4P(Product、Price、Place、Promotion)という自社目線での設計から始めることなく、4Cから始めることで“顧客目線”での製品・サービス設計を一貫して行うことができる。この仕組みを定着させることにより、自社の製品・サービスが自社の強みを生かしながら、顧客視点を生かした「あたらしい」形であり続けることができる。 嗜好が多様化し、顧客の情報チャネルもさまざまであるため、現代は従来のような“大ブーム”が起こりにくい環境だ。しかし、その環境においても、ある一定の市場は存在する。この市場を正しく捉え、それに基づく社内の仕組みづくりを行っている企業こそが、世の中に「あたらしい」付加価値を提供しているのではないだろうか。