地域企業の成長を加速する「戦略的グループ化」 谷口 淳
公表資料に見る「戦略的グループ化」の位置付け
地域企業を取り巻く経営環境は、ここ数年で一段と厳しさを増している。採用したくても人が集まりにくい。設備投資や研究開発に踏み込みたくても、資金や人材の制約が大きい。後継者不在の問題も重なり、単独で成長戦略を描くこと自体の難易度が上がっている。
こうした中で、複数企業が連携しながら経営資源を補い合い、成長や事業継続の可能性を高める「戦略的グループ化」は、地域企業にとって重要な選択肢の一つとして捉え直されつつある。
本稿では、公表されている報告書・ガイドブックに基づいて戦略的グループ化の考え方を整理した上で、その内容を踏まえて筆者が重要だと考える実務上の論点を述べたい。
東北経済産業局の「令和7年度『地域企業の成長加速手段としての戦略的グループ化促進要因分析調査』報告書」では、東北地域を含む多くの地域経済が、人口減少・高齢化、市場規模の縮小、若年層の域外流出、労働供給制約の深刻化といった構造変化の中にあることが示されている。その結果として、企業が事業を継続し、成長投資を行うために必要な人材・資金・設備・取引先などの経営資源を、個社単独で確保することが難しくなっているとされる。
こうした環境変化の下では、従来の延長線上にある自前主義だけだと競争力の維持・強化が難しくなる可能性が高い。
また、地域企業が直面する具体的な課題として、事業承継、人材確保、資金調達と投資能力の制約、事業ポートフォリオ再構築の必要性などが挙げられる。例えば、人材確保の面では、採用難が継続する中で、人材不足が外部連携や再編を促す構造的要因になっていること、また事業承継の面では、後継者不在企業の退出が地域の雇用や技術、取引関係の散逸につながり得ることが指摘されている。さらに、企業規模が小さいほど資金繰りや設備投資の実行が難しくなりやすく、成長の意志や機会があっても投資原資の制約が成長を妨げる構造も整理されている。
こうした課題認識を踏まえ、報告書では、戦略的グループ化をM&Aに限定せず、資本提携、持ち株会社化、業務提携、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)などを含む複数の選択肢として整理し、地域企業が自社の経営課題や目的に応じて段階的・複線的に組み合わせを選べる状態を目指すべきだとしている。
これに対応して、東北経済産業局「地域企業の成長加速に向けた戦略的グループ化ガイドブック」では、戦略的グループ化の代表的な手段として、①業務提携、②資本提携(出資モデル)、③資本提携(M&A)、④新法人設立(JV)、⑤持ち株会社化、⑥BPOの6類型が示されている。そして、それぞれについて、概念、目的・狙い、メリット、デメリット、不可逆性、実行スピードといった観点から整理されている。
例えば業務提携は、資本関係を伴わずに柔軟かつ比較的低コストで始めやすい一方、拘束力は限定的である。資本提携は中長期的な協力関係を築きやすいが、ガバナンスや利益相反への配慮が必要となる。M&Aは意思決定の一体化や規模の経済、技術力補完などに有効だが、統合コストや企業文化の違いへの対応が課題になる。新法人設立や持ち株会社化、BPOも、それぞれ異なる目的と適用場面を持つ。つまり、公表資料が示しているのは、「どの手法が最も優れているか」を一律に論じることではなく、「自社がどの機能を必要としているか」に応じて、適切な手段を見極める必要があるということである。
実務で見落としやすい論点
東北経済産業局の資料を踏まえた上で、筆者の見解を次に示したい。
戦略的グループ化を考える際に、実務上で最も重要なのは、「何の手法を選ぶか」より先に、「自社は今、何の機能を補いたいのか」を明確にすることだ。人材を確保したいのか。大型案件に対応できる供給力を持ちたいのか。専門性を補完したいのか。管理部門を効率化したいのか。資金調達力を高めたいのか。あるいは事業承継の受け皿を確保したいのか。ここが曖昧なままでは、どの手法を選んでも、連携の意味付けが弱くなりやすい。
実際に、業務提携、資本提携、M&A、新法人設立、持ち株会社化、BPOは、見た目こそ異なるが、本質的には「不足する機能をどう獲得するか」という問いへの答えである。制度や枠組みから入ると、どうしても「どれが最も強いのか」「どれが主流なのか」という比較になりやすい。しかし経営の現場において、先にあるべきなのは、自社の現在地と課題の確認である。課題の定義が曖昧なまま手法だけを選んでも、期待した成果にはつながりにくい。
また、グループ化の成否は、契約やスキームを決めた時点ではまだ半分も決まっていないと筆者は考える。むしろ重要なのは、その後の運営をどこまで具体的に設計できているかである。誰が意思決定するのか。どこまで情報を開示するのか。現場の役割分担はどうするのか。利益配分や投資判断のルールはどうするのか。どの機能を共通化し、何を各社に残すのか。こうした論点が曖昧なままでは、連携は始まっても続きにくい。
さらに、見落とされやすいが極めて大切なのが、自社の価値観や文化を言語化しておくことである。どんな会社にも、長く大切にしてきた判断基準や仕事の進め方がある。ところが、それを社内で当たり前のものとして共有しているだけでは、外部の相手とは噛み合わない。何を守りたいのか。何は変えても良いのか。どこに譲れない線があるのか。こうした点を事前に言葉にできて初めて、相手との擦り合わせが可能になる。統合後の摩擦の多くは、手法の選定そのものより、この準備不足から生まれるのではないかと筆者はみている。
経営者と支援機関に求められる視点
今後の地域企業にとって、戦略的グループ化は一部の大企業だけの話でも、特殊な再編手法でもない。単独成長だけでは越えにくい壁が増える中で、必要な機能を外部と組み合わせながら獲得していくための、現実的な経営手段として位置付けられるべきだと考える。だからこそ経営者には、自社の規模や慣習にとらわれ過ぎず、「足りないものをどう補うか」「誰と組めば成長可能性が広がるか」を構想する視点が求められる。
その際、実際に組織を動かしていく上では、強い当事者意識を持つキーパーソンの存在も欠かせない。固有の技術を守りたい、地域の産業を残したい、雇用を守りたい、新しい市場に出たい——。そうした意志を、自分の言葉で語り、社内外を巻き込める人がいる企業ほど、連携の意味が共有されやすい。条件や制度を並べるだけでは、人も組織も動きにくい。「何のための連携なのか」という“物語”があってこそ、相手企業や金融機関、支援機関も本気で関わりやすくなる。
同時に、支援する側の役割も大きい。行政、金融機関、商工団体、専門家などには、企業が相談しやすい環境を整え、企業同士あるいは企業と大学、企業と金融機関が出合う機会をつくり、構想段階から実行、その後の定着までを切れ目なく支えることが期待される。地域の中で1社の挑戦が可視化されれば、それは周囲の企業の目に「自社でも検討できるかもしれない」という現実的な選択肢として映る。
戦略的グループ化は、個社の成長手段であると同時に、地域の雇用や取引、技術の基盤を守る上でも意味を持つ。地域経済の持続性を踏まえると、その可能性を実務的な視点から捉え直すことが、これからますます重要になるのではないだろうか。
タナベコンサルティング
行政/公共サービス チーフ
地方自治体で統合型リゾート(IR)誘致、中小企業のDX推進、中央省庁で規制改革を通じた新規事業開発支援に従事し、当社に入社。デジタル領域の専門性と官民連携事業の経験を生かし、戦略的グループ化のガイドブック作成や、中堅企業創出加速化調査における成長メソッドの分析に従事。民間企業・行政職員向けの実践的研修も担う。クライアントに寄り添い、真の課題を探ることを信条とする。