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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2026.09.30

自治体主導の成長支援施策を生かす経営 大渕 元晴

成長支援シフトは全国的潮流

「100億宣言」の公表企業数が、2026年8月時点で3560件に達した。売上高100億円への挑戦を自ら宣言する企業の急増は、成長志向企業を重点的に後押しする支援が全国的な潮流となっていることの証左である。


行政支援の重心は、「誰一人取り残さない」網羅型支援から、成長の意志を持つ企業への重点支援へと移りつつある。問われているのは、この転換を「行政の話」として傍観するか、自社の成長機会として取り込むかである。


本稿では、自治体主導の成長支援施策を切り口に、中堅企業の経営者・経営幹部が持つべき視点について提言したい。



行政の仕組みを経営の武器に

本題に入る前に、2つの物差しを提示したい。1つ目は、行政施策の進化を捉える3つのステップ「①支援、②成功事例の創出、③地域循環」である。2つ目は、企業側の成長プロセスを捉える4つのフェーズ「①構想、②実装、③運用・定着化、④再構想」である。(【図表】)


【図表】行政施策を捉える3ステップと企業成長における4フェーズ

【図表】行政施策を捉える3ステップと企業成長における4フェーズ

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成


この2軸を重ねて捉えることで、行政支援は他社の事例から「自社が使いこなすべき経営資源」へと変わる。


事例として、和歌山県の取り組みを紹介したい。和歌山県は、2026年5月に「100億企業創出シンポジウムin和歌山」を開催。特筆すべきは、民間企業だけでなく、国や県、地域金融機関など多くの支援機関が一堂に会した点である。同シンポジウムを起点に、個社への伴走支援メニューを備えた「和歌山県地域中核企業創出プログラム」も始動している。


また、構想を実装へつなぐ仕組みとして、県は2022年から機運醸成から導入支援まで一貫して支援する事業である「和歌山県 DXチャレンジサポートプログラム」を実施している。認定企業の中からは、AI利活用、業務効率化・自動化、デジタル活用による人材育成の仕組み化など、構想を現場へ実装し、成果へ結び付けた企業が生まれている。


筆者は、人や組織を動かす要諦は「構造や環境を変えて人が動く状態を設計すること」にあると考えている。和歌山県の取り組みが機能しているのは、この設計思想による。シンポジウムで機運という「環境」をつくり、伴走プログラムで実行の「構造」を用意し、成功事例・モデル企業の情報発信で波及の回路を敷く。さらに、行政・金融機関・専門人材・大学という異なる強みを持つ主体を1つのエコシステムに編み込むことで、企業がどの壁に直面しても支え手が存在する。企業側に求められるのは、受け身の「支援待ち」ではなく、自社の経営課題を言語化して持ち込み、この構造を能動的に生かす姿勢である。


こうした支援プログラムの真の価値は、専門家の助言のみにとどまらない。そこには、売上高100億円や地域の中核を志す経営層が集結しており、選抜された環境に身を置くこと自体が成長のための「ピア効果(同志による相互刺激)」をもたらす。支援事業を単なる「知識習得の場」ではなく、「成長を加速させるコミュニティー」として再定義することが、支援を真に生かす経営者の視点と言える。



共通点は成長志向
企業への重点支援

同様の動きは、全国で同時多発的に起きている。例えば、愛知県・広島県の「アクセラレーションプログラム※」や、経済産業省の「地域の中堅・中核企業支援事業補助金(中堅・中核企業の経営力強化支援事業)」などは、成長志向の企業を厳選し、伴走支援をする仕組みを構築している。


また、宮城県仙台市の「地域中核企業輩出支援パッケージ」は、成長意欲を持つ市内中小企業のうち最大5社を選定し、最長3年間の伴走型支援を実施するものだ。広く裾野に働き掛けて機運を高める和歌山県の「機運醸成型」に対し、仙台市は対象を絞り込み、経営資源を集中投下する「厳選伴走型」と、アプローチは対照的であるが成長志向企業への重点支援という方向性は共通している。


行政支援を活用する際に多くの企業が陥るのは、申請書類の作成を現場の担当者に丸投げし、「事務的なタスク」として処理してしまうことである。これでは、どれほど手厚い支援を得ても成果は限定的だ。行政支援を「制度」ではなく、「経営戦略の一部」として扱い、その準備や窓口との対話には、経営者自身、あるいは経営企画のトップが介在すべきである。


行政の担当者やコーディネーターは単なる事務窓口ではなく、地域の知見や人脈と企業をつなぐ戦略的な「ハブ」である。このハブに、自社のリアルな課題と熱量を持ってぶつかることが、採択率と支援の質を最大化する方法である。


以上を踏まえ、2つ提言したい。第一に、行政支援に対する認識のアップデートである。今日の行政支援は資金補助にとどまらず、伴走支援、専門人材、金融機関や大学とのネットワークまで含む経営資源へと充実してきている。「採択されれば幸運」という受け身の発想ではなく、経営課題を起点に活用を検討する価値がある。


第二に、行政支援を「成長加速化のオプション」として位置付けることである。成長の本線は、あくまで自社の中期経営計画で描く。その上で、構想フェーズなら計画づくりを後押しする支援、実装フェーズなら実行を加速する伴走支援と、自社のフェーズに応じて組み合わせる。採択には不確実性が伴うからこそ、「支援ありきの計画」ではなく、「計画を加速する支援」という順序を守ることが肝要だ。


行政支援のパラダイムシフトは、待つ企業には無縁の出来事だが、動く企業には成長の追い風となる。まずは経営者と経営企画部門が一体となって、自社の成長ロードマップを描き出していただきたい。何がボトルネックで、どの伴走者が最適か。その視点を持って所在地の商工労働部門や産業振興財団、取引金融機関の窓口に臨めば、相手は単なる相談先ではなく、自社のビジョンを実現するための戦略的なパートナーへと変わるはずだ。


※ 大企業や自治体、専門機関などが主催し、スタートアップや起業家の事業成長を短期間で加速させるための支援制度


PROFILE
著者画像
大渕 元晴
Gensei Obuchi

タナベコンサルティング
マネジメントDX ゼネラルパートナー

金融機関にて法人営業、融資審査業務に従事後、海外にて就業。その後、市役所に入庁し、市の総合計画の進捗管理・調整およびふるさと納税の推進・ECサイト管理を経て、タナベコンサルティングに入社。現在は、ERP導入支援、業務効率化支援、IT化構想、デジタル人材育成、新規事業開発、ビジョン・中計策定支援など幅広い分野で活躍し、クライアントの事業発展に貢献している。