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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2026.09.16

成長志向企業を支える「支援者」を育てる 速水 真梨子

公的支援の前提が揺らいでいる

人口減少やコスト高騰が進む中、中小企業庁は、賃上げや新事業展開に前向きな「成長志向の中小企業」を地域経済のけん引役として位置付け、その創出を政策の柱に据えている。売上高100億円の達成を目指す「100億宣言」はその象徴的な旗印である。


だが、成長志向企業であっても、実は自社の経営課題を正しく言語化できていないケースが多い。従業員数101〜300名規模の企業を対象にした近畿経済産業局(以降、近畿局)の調査では、多くの企業が自社の直面する課題を「適応課題(問題の定義や解決策がはっきりしない課題)」だと捉えていることが明らかになった(近畿局「令和6年度中小企業実態調査」、2025年3月)。


成長を後押しする施策が整っても、企業が成長を志向していても、その背後にある本質的な課題を見極められなければ、根本的な課題解決や業績の改善にはつながらない。このような現状に対し、公的支援の在り方もまた、変化を迫られている。「“良い支援”とは何か。“良い支援者”を増やしていくために何が必要か」。近畿局が2025年度に着手したのは、この問いに正面から向き合う一歩だった。



支援機関が抱える構造的な限界

成長志向企業への支援が難しい理由は、企業側だけにあるのではない。支援する側にも、深刻な構造的問題がある。


企業に対する公的な経営支援は、商工会・商工会議所、金融機関など、各都道府県に設置されているよろず支援拠点、中小企業基盤整備機構(以降、中小機構)、国や自治体の産業支援部門などの「支援機関」が担っているが、近畿局が管内でヒアリングを行ったところ、現場からはこんな声が相次いだ。「企業からの相談の量が増えているだけでなく、内容が多様化している」「人員不足により1人で対応していることが多い」「同じ組織に企業からの信頼が厚い支援者はいるが、その人と一緒に企業支援に携わった経験はない」。


多くの支援機関では、優秀な支援者のノウハウが「暗黙知」として属人化され、組織内で共有・継承される仕組みがない。企業の課題が複雑化・高度化しているにもかかわらず、実践を通じた学習機会も乏しく、支援者が育ちにくい構造が固定化している。支援メニューや補助金の案内はできても、企業の本質的な課題を一緒に掘り起こす「課題設定型支援」ができる担い手は、慢性的に不足しているのだ。


成長志向企業の支援を本気で広げようとするなら、企業への施策を充実させるだけでは足りない。企業を隣で支え、共に歩める支援人材を育てる仕組みが必要なのだ。



「組織を越えた」チームで企業に向き合う

この課題に対して近畿局が打ち出したのが、「組織越境型伴走支援実践研修」である。タナベコンサルティングが調査分析者・事務局として参画し、2025年9月から2026年2月の6カ月間にわたって実施された。


研修の設計は、従来の座学型とは一線を画す。金融機関・商工会議所・行政機関など、異なる支援機関に所属する担当者39名が、組織の垣根を越えて混成チームを組成。各チームには、よろず支援拠点や中小機構のベテラン支援者が「チームリーダー」として加わり、実際の中小企業8社に対して月1回・計4回の伴走支援を実践した。


重要なのは、支援メニューを「教える研修」ではないという点だ。実際の支援の現場に立ち、企業の現状把握から課題設定まで、本物の経営者を相手に対話を重ねる。チームリーダーの判断や問い掛けをリアルタイムで観察し、訪問当日に振り返りを行い、気付きを言語化する。多様な公的機関の支援者が学び合うOJT型の設計こそが、この研修の核心である。


研修参加者に対する事前アンケートでは、「本質的な経営課題の特定」が最大の課題として挙がり、「御用聞きや補助金案内が中心で、本質的な課題に踏み込めていない」と自覚する人が多数を占めた。研修はまさに、その現状に直接向き合う場として設計された。



公的支援における“良い支援”の条件

6カ月の実践を経て、支援対象企業のアンケートを分析すると、支援の効果が高まる条件として3つのポイントが浮かび上がった。


❶ 客観的な視点による確信形成
第三者の目で現状を整理されることで、経営者は自社の方向性や問題点への確信を得る。


❷ 潜在的な課題の顕在化
経営者自身が言語化できていなかった課題が、対話の中で初めて見えてくる。


❸ 具体性のある提案
次の一手が明確にイメージできてこそ、支援は経営者の意思決定と行動に結び付く。


一方で、注意点も明らかになった。客観的な分析により気付きを与えても、「何から着手するか」が曖昧なままでは、経営者は動けないということである。第三者による現状整理も、行動への翻訳がなければただの「診断」で終わってしまうのだ。


そして、序盤で支援者との信頼関係が醸成されていなければ、分析や提案がいかに的を射ていても、経営者には届かない。支援の質を左右するのは、ツールや知識だけでなく、支援者の「真摯しんしさと熱量」だということが、あらためて浮き彫りになった。


支援者側にも変化が生まれた。研修参加者のうち87%が自身の「支援能力が向上した」と回答。意識の変容のポイントとして最も多く挙がったのは、「傾聴の大切さ」「深掘りする質問力の重要性」「本質的な課題の把握・潜在的な課題の見つけ方」の3つだった。これらの気付きは、これまでの支援スタイルを根本から問い直すものだ。



暗黙知を次の世代へ渡す

この研修はさらに一歩踏み込んで、ベテラン支援者の「勘所」を可視化しようとした。


事務局は8チーム各4回の伴走支援全てに同席し、対話ログや行動記録を基に、ベテラン支援者が「いつ・どのような問いを立て・どのタイミングで介入するか」を分析した。その結果、熟練した支援者の動き方には共通点があることが明らかになった。


❶ 関係構築と価値観の理解
経営者の原体験や企業の理念・沿革を深掘りし、組織構造を丁寧に把握しながら、信頼関係の土台を築く。


❷ 課題の構造化
現状分析を基に課題仮説を立て、潜在課題を引き出す問いを経営者に投げ掛ける。


❸ 共創的対話
経営者が「腹落ち」できる問い掛けを意図的に設計し、経営者が自分の言葉で課題を受け止め、そこに向き合う覚悟を引き出す。


彼らはこのステップを、経営者の反応や心理的な揺らぎに応じて柔軟に往復しながら、対話の深度を少しずつ上げていくのだ。


チームリーダーの一人である中小機構のシニアアドバイザーはこう語る。「支援とは、企業の選択肢を増やすこと。支援経験が長いからといって、必ずしも良い支援ができるとは限らない」。支援の質は経験年数ではなく、実践と内省の繰り返しによって磨かれる。暗黙知を形式知に近づけ、次の支援者へ渡していく試みは、まだ緒に就いたばかりだ。


※ 本稿は、令和7年度中小企業実態調査(成長志向企業に対する支援能力・体制強化に向けた『組織越境型伴走支援実践研修』の有効性検討に関する調査)調査報告書「組織越境型伴走支援実践研修調査レポート - 成長志向の企業支援者(=支援者のアトツギ)育成へ向けて -」(近畿経済産業局、2026 年6月発表)に基づき執筆したものです。

PROFILE
著者画像
速水 真梨子
Mariko Hayami

タナベコンサルティング
行政/公共サービス マネジャー

地方公務員として農作物の新品種・スマート農業に関する研究開発業務、農業技術・経営指導業務に従事した後、タナベコンサルティングに入社。農業技術や農業経営支援に関し幅広い知見を有する。現在は、官公庁向けコンサルティングサービス事業の推進に携わり、主に当該分野に関する商品開発や企画立案支援、実行支援、マーケティング等を担当している。