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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2026.08.26

経営者人材育成は、企業成長に向けた最大の投資 細江 一樹

次世代の経営者をいかに育てるか

紀元前の春秋戦国時代の中国を舞台に、主人公であるしんが天下の大将軍を目指す人気漫画『キングダム』(原泰久著、集英社『週刊ヤングジャンプ』にて2006年より連載開始)には、数多くの名将が登場する。その中でも、ひときわ存在感を放つのが将軍・王騎おうきである。


王騎は、数々の戦で勝利を収めた名将として知られる一方、多くの若き武将を導き、その成長を見守った「育てる将軍」でもあった。若者の可能性を見抜き、戦場という実践の場で挑戦する機会を与え、自ら考え、決断する経験を積ませながら、一人一人を将軍へと育てていったのである。


そして、自らの最期を迎えたとき、王騎は若き信へ1本の矛を託す。その矛は単なる武器ではない。志であり、責任であり、「未来を託す」という意思そのものであった。


企業経営もまた、同じではないだろうか。企業が持続的に成長し続けるためには、優れた経営者が1人存在すれば良いわけではない。その理念や価値観、経営哲学を受け継ぎ、新たな時代を切り開く経営者を育て続けることで、企業は初めて永続的な成長を実現できる。


企業を取り巻く環境は、これまでにないスピードで変化している。人口減少や労働力不足、生成AIをはじめとするテクノロジーの進展、地政学リスクの高まり、グローバル競争の激化、さらには事業承継やグループ経営の高度化など、経営者が意思決定すべきテーマは年々複雑さを増している。


こうした時代において、企業の競争力を左右する最大の経営資源は人であるといわれる。しかし、その人材の力を引き出し、企業の方向性を定め未来を切り開いていくのは、ほかならぬ経営者だ。だからこそ、企業の持続的成長において最も重要なテーマは、「次世代の経営者をいかに育てるか」である。



経営者は「計画的に育てる」時代へ

タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)は、1957年の創業以来69年にわたり、多くの経営者と共に歩んできた。「人の成長を企業の成長へつなげる」をミッションに掲げ、各種セミナーや人材育成コンサルティング、事業承継支援、サクセッションプラン(後継者育成計画)策定支援など、人づくりを通じて企業の持続的成長を支援してきた。その中で一貫して向き合ってきたテーマが、「企業は経営者で変わる」ということである。私たちは、こうした実践を重ねる中で一つの結論にたどり着いた。経営者は、偶然生まれるものではない。企業が意思を持って育てるものである。


その考え方を表しているのが、TCGが掲げる「すべての人材に経営力を」というメッセージである。これは、「全ての社員が経営者になる」という意味ではない。「自ら考え、意思決定し、組織や事業の成果に責任を持つ人材を育成することが、企業全体の競争力につながる」という考え方である。その延長線上に、未来の経営を担う経営者人材の育成がある。


一方で、多くの企業において、経営者人材育成は依然として属人的である。「優秀だから」「経験を積んでいるから」「社長が見込んでいるから」という理由で後継者が選ばれるケースも少なくない。しかし、経営環境がこれほど大きく変化する時代においては、偶然に任せた育成では十分とは言えない。今後求められるのは、「経営者は自然に育つ」という発想から、「経営者は計画的に育てる」という発想への転換である。



全ての人材に経営力を備える「経営者人材育成システム」

経営者人材に求められる能力は多岐にわたる。経営理念を体現する人間力、長期視点で未来を描く戦略思考、変化の中で意思決定する判断力、組織を率いるリーダーシップ、財務や事業を俯瞰ふかんする経営管理力など、管理職とは異なる視座が求められる。こうした力は、一度の研修や座学だけで身に付くものではない。


重要なのは育成プログラムではなく、「育成システム」を構築することである。そのシステムは、次の5つのプロセスで構成される。(【図表】)


【図表】タナベコンサルティングの「経営者人材育成システム」

【図表】タナベコンサルティングの「経営者人材育成システム」

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成


❶ 見極める(Assess)
経営者候補を客観的に見極める

アセスメント(評価・査定)や面談を通じて、将来の経営を担う候補者を発掘・可視化し、育成計画の基盤をつくる。


❷ 学ぶ(Learn)
経営に必要な知識と視点を学ぶ

経営戦略・財務・組織運営などの体系的な学習や、経営者との対話を通じて、経営に必要な知識・視点を養成する。


❸ 実践する(Experience)
経営の現場で経験を積む

経営会議・ジュニアボード(次世代幹部による疑似役員会)・新規事業・グループ会社出向など、経営に近い立場で意思決定を経験し、実践を通じて能力を磨く。


❹ 評価する(Feedback)
成長を評価し、次の課題につなげる

定期的に成長を振り返り、フィードバックを行うことで、強みを伸ばし、課題を克服するサイクルを回す。


❺ 登用する(Succession)
次世代の経営ポジションへつなぐ

サクセッションプランに基づき、適切なタイミングで経営ポジションに登用し、次の世代へと経営をつなぐ。


この5つのプロセスをサイクルとして継続的に回すことで、経営者人材は企業の中で着実に育っていく。



企業の意思が未来の経営者を育てる

振り返ると、王騎将軍も同じことを実践していた。若者の可能性を見極め、学びの機会を与え、戦場で経験を積ませ、成長を見守り未来を託した。経営者育成とは、後継者を選ぶことではない。未来を担う人材が育ち続ける仕組みをつくることである。


本特集では、「経営者人材育成システム」を実践する企業の取り組みを紹介する。経営シミュレーションゲームを活用した意思決定力の強化、サクセッションプランによる後継経営者育成、経営者候補育成プログラム、ジュニアボードによる経営視点の醸成、そして組織文化を支えるリスペクトトレーニング。これらに共通しているのは「未来の経営者を育てる」という強い意思である。


王騎将軍が信へ託したのは、一振りの矛ではなく、未来への志でもあった。同じように、企業が未来へ託すべきものも、一人の経営者ではなく、次代の経営を担う人材が次々と育ち続ける仕組みである。未来の経営者は、待つものではない。企業の意思によって、育てるものである。

PROFILE
著者画像
細江 一樹
Kazuki Hosoe

タナベコンサルティング
執行役員 戦略総合研究所 本部長
大学卒業後、商社の企画営業を経てタナベコンサルティングに入社。大阪本社と北海道支社にて地域の大手から中堅企業のコンサルティングに従事。「人事制度で人を育てる」をモットーに、制度構築を通じた人材育成や社員総活躍の場を広げるコンサルティングに定評がある。特に、学校・教育業界における経営改革やマネジメントシステム構築を強みとし、大学、専門学校、高等学校、こども園などの経営改革の実績を持つ。2024年4月より戦略総合研究所本部長。2025年4月に中堅企業経営研究所を発足し、中堅企業の持続的成長に専門特化したナレッジの研究開発や情報発信を推進している。