一般市場へのステップアップ事例
本稿では、TOKYO PRO Market(以降、TPM)に上場した企業が、その後に選択した資本政策・上場方針などについて、開示資料で確認可能な範囲の情報を基に、典型的な類型に整理した上で事例を紹介する。また、上場廃止に至った理由などは各社が開示している資料に依拠している。
⚫︎ アスマーク
アスマークは、2022年1月にTPMへ上場した後、約2年程度で東証スタンダード市場へ上場している。主たる事業はマーケティングリサーチ事業であり、調査協力者(パネル)数が多い点が競争上の優位性として指摘されている。
業績面では、TPM上場時(2022年11月期)の売上高が38億9200万円であったのに対し、2025年11月期は44億1600万円と約13%増加している。上場後も一定の成長軌道を維持している事例である。
⚫︎ ジェイ・イー・ティ
ジェイ・イー・ティは、半導体製造工程で使用される洗浄装置の設計・開発を行う企業である。洗浄装置には、半導体ウエハーを1枚ずつ洗浄する枚葉式と、25~50枚程度をまとめて洗浄するバッチ式が存在し、同社はバッチ式に強みを持っている。東証スタンダード市場へ上場した2023年12月期の売上高は249億8400万円であったが、直近(2024年12月期)では減収となっており、足元では業績面でやや苦戦している状況だ。
上場企業グループへ参画した事例(グループイン型)
⚫︎ Livenup Group(リブンナップグループ)
リブンナップグループは、戸建・賃貸マンションの開発・分譲などを手掛ける不動産関連企業である。同社は2019年7月にTPMへ上場し、2025年5月にグッドコムアセットの資本を受け入れている。
グッドコムアセットは東証プライム上場企業であり、投資用マンションの企画・開発などを行っている。リブンナップグループの2024年9月期売上高は43億7900万円、営業利益は1億3700万円であり、中堅規模の事業者に位置付けられる。グッドコムアセットグループに参画することで、成長戦略を加速させる意図があったものと考えられる。
資本異動後の株主構成において、グッドコムアセットが80%を保有する一方、代表取締役社長である二川良介氏が2.7%を保有し、経営を継続している点が特徴である。
⚫︎ No.1都市開発
No.1都市開発は、不動産の売買・賃貸に加え、レンタル倉庫事業を営む不動産関連企業である。レンタル倉庫数は全国で20位である一方、広島においては1位規模とされる。
同社は2023年2月にTPMへ上場したが、2025年1月に北浜キャピタルパートナーズの傘下に入り上場廃止となっている。北浜キャピタルパートナーズは、同社から資金調達などに関連した相談を受けていた旨が示されている。
取引スキームとしては、特別目的会社(SPC)を用い、SPCが同社代表取締役社長の溝部孝志氏などから全株式を取得した上で、北浜キャピタルパートナーズが当該SPC株式の51%を取得する構成となっている。M&A実務で広く利用されるSPCスキームを活用した事例である。
上場を終了した事例(機動性確保型)
⚫︎ グローベルス
グローベルスは、首都圏・関西圏を中心に、不動産売買事業、新築分譲マンションなどの開発・企画・販売を行う企業である。同社は2024年6月にTPMへ上場したが、上場後1年程度の短期間で上場を廃止した。
同社は、TPM上場により認知度・信頼性が向上し、優秀人材の確保に寄与したとして一定の成果があった旨を評価している。一方で、不動産業界の環境変化および同社が目指すさらなる成長に対応するためには、迅速かつ柔軟な意思決定が必要であると判断し、上場廃止を決定したとされる。なお、非上場化後も、TPM上場を通じて整備したコーポレートガバナンスおよび内部管理体制などは維持・継続する旨が示されている。
TPMはオーナーシップを維持したまま上場することが可能であることに加え、企業判断により上場廃止の意思決定を機動的に行いやすい市場特性を有するものと評価できる。
⚫︎ エージェンテック
エージェンテックは、スマートフォンおよびタブレット向けアプリケーション開発を行う企業である。同社は2024年4月にTPMへ上場し、2025年5月に上場を廃止した。
同社は、TPM上場により知名度が向上し、顧客からの信頼獲得などの成果を得た旨を示している。他方、同社が注力する生成AI関連ビジネスは技術・競争環境の変化が極めて早く、競争優位の確保には一層迅速な経営判断および機動的な施策実行が求められることから、早期の上場廃止を決定したものと整理される。
事業承継を目的とした事例(承継円滑化型)
⚫︎ トワライズ
トワライズは、ショッピングクレジット事業などを行う企業である。2022年8月に山陰合同銀行を退任した古山英明氏が顧問として入社し、その後、代表取締役に就任した上で、2024年10月にTPM上場を達成している。金融機関出身者を招聘し、経営を担わせた上で上場に至った事例であり、事業承継・経営体制移行の一類型として位置付けられる。
⚫︎ 勝美ジャパン
勝美ジャパンは、病院および高齢者施設向け給食市場を中心に、冷凍野菜・冷凍食品の開発および輸入を行う企業である。創業者である山崎裕康氏から次男の光紀氏へ事業承継を進める過程において、内部管理体制強化のためにTPM上場(2024年7月)を活用した事例である。
以上の通り、TPM上場企業のその後の進路は、大きく次の4類型に整理される。
❶ 東証スタンダード市場などの一般市場へステップアップした事例
❷ 上場企業との資本提携・M&Aによりグループインした事例
❸ 経営上の戦略的判断により上場を終了した事例
❹ 事業承継の円滑化を目的としてTPM上場を活用した事例
TPMは、一般市場へのステップアップに向けた準備段階として機能するだけでなく、資本政策、意思決定の機動性確保、事業承継などの目的に応じて活用できる市場であることが、これらの事例から読み取れる。
各社の事例が示す通り、TPM上場は決してゴールではなく、企業の成長戦略や事業承継を加速させるための有効な手段である。自社の目的に合わせて柔軟に制度を活用することこそが、持続的な企業価値向上への鍵となる。
タナベコンサルティング
上場支援 上場審査部長代理
大手証券会社にてリテール営業を経て、IPOコンサルティング業務に従事。その後、準大手証券会社にてIPOコンサルティング業務を継続し、引受審査部門の管理職としても活躍。IPOコンサルティングと引受審査の経験は20年以上に及び、新規上場や市場変更を達成した企業は20社を超える。