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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2026.05.29

中堅・中規模企業のガバナンス強化とプロマーケット上場 鈴村 幸宏

ガバナンス強化の必要性

中堅・中規模企業でガバナンス強化が必要となる主な理由は、「事業が一定規模を超えると、属人的な経営ではリスクと機会損失が急増するため」である。企業は成長段階でワンマン経営から組織経営に移行する必要がある。ガバナンスは組織経営の中枢を担うと言っても過言ではない。


企業の社会的責任の要請からもガバナンス強化が必要であり、企業規模が大きくなるにつれて社会的責任も重大となる。法規制・社会要請としては、個人情報保護、中小受託取引適正化法、労務コンプライアンス、ハラスメント、品質不正、贈収賄など、違反時のダメージが極めて大きい。また、取引先の要請としても、情報セキュリティー、反社会的勢力排除、労務環境などの体制チェックにより、不備があれば取引停止のリスクもある。さらに、人材流動化のため、属人化による引き継ぎ不備、内部統制・権限設計の不備が事故につながりやすい。


こうしたガバナンスの弱い企業では、主に次の4つの問題(リスク)が発生している。


❶ 社長や特定の役員への権限の集中で、意思決定の遅れやけん制不在、経営を承継する後継者が不在
❷ 人員不足による兼務前提の管理体制で、チェック機能が回らない、記録が残らない
❸ 規程はあるが運用されていない、または、形骸化や例外処理の常態化で、取引・購買・経費・与信における不正・癒着・横領・損失発生
❹ 情報管理の不徹底による情報漏えいや持ち出しなど


企業が成長し、展開する事業や拠点、子会社の数が増加すればするほど、こうした企業統制不全によるマイナス影響は拡大し、結果としてさらなる成長をはばむ壁となってしまうのである。企業が成長する上で、ガバナンス強化により、次のような効果がある。


1つ目は、権限・稟議・会議体の整理で、意思決定の質とスピードが向上し、社長ボトルネックの解消と後継経営者育成が期待できる。2つ目は、属人性を減らし、他拠点・他事業への業容拡大に耐え得る再現性のある経営ができる。3つ目は、取引先、金融機関、株主、採用人材への説明力が上がり、信頼を獲得しやすくなる。4つ目は、不正や事故を未然に防止する確率が高まる。そこで上場・非上場に限らず、まず強化すべきガバナンス領域は次の5つである。


❶ 権限・職務分掌設計(決裁権限、けん制、例外処理のルール)
❷ 会議体とモニタリング機能整備(経営会議、リスク・コンプライアンスの内部監査)
❸ 重要リスクの管理(情報セキュリティー、品質、与信、労務、BCP)
❹ 子会社・拠点ガバナンス(グループ方針、レポートライン、内部取引)
❺ 不正リスク対策(購買・経費・在庫・売上計上などの重点統制)


ここまで、組織経営によるガバナンス強化の必要性を説明してきたが、非上場企業向けには有効なガバナンス・コードなど明確な基準がなく、曖昧な取り組みで終わり実装されないケースも少なくない。そこで、ガバナンス強化のために株式上場するという選択肢が有効になってくる。



ガバナンス強化のためのTPM上場

TOKYO PRO Market(以降、TPM)におけるガバナンスは、東証の一般市場(プライム・スタンダード・グロース)のように「コーポレートガバナンス・コードへの適合を前提とした一律運用」を求めるものではない。


最大の特徴は、上場審査および上場後モニタリングの中核を「J-Adviser(認証アドバイザー)」が担い、単なる「規程・体制の整備」にとどまらず、「運用実態(組織として機能しているか)」を重視する点にある。TPM独自の制度的な特徴としては、主に次の6点が挙げられる。


❶ 形式基準(数値基準)がない(株主数・流通株式・利益などの一律要件なし)
❷ 審査主体がJ-Adviser(東証の一般市場は、主幹事証券会社と証券取引所)
❸ 上場までが比較的短い(上場申請~承認の標準が10営業日)
❹ 監査期間が直近1年(一般市場は直近2年)
❺ 内部統制報告書(J-SOX)は任意
❻ 四半期開示(決算短信)も任意(ただし、中間・年度末開示は必須)


したがって、TPMのガバナンスはコード準拠の“型”よりも、内部管理(予算統制・関連当事者取引・コンプライアンスなど)、開示体制(適時開示・インサイダー管理)の実戦力が中心となる。


ただし、J-Adviserが確認する上場適格性要件として、ガバナンス関連を明確に挙げており、特に重要なのは、コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制が、規模・成熟度に応じて整備され適切に機能していること(社内規程の整備・運用、人員確保、法令順守体制の運用など)、開示体制(開示規則・義務の理解、インサイダー取引防止、情報伝達の体制)、関連当事者取引・経営者関与取引のけん制(「公正かつ忠実な事業遂行」の一部としてチェック)である。


TPM上場企業はJ-Adviserを選任し続ける必要があり、J-Adviserは、上場前に適格性要件の調査確認、上場申請のマネジメント、助言指導を行い、上場後は、適時開示の助言・指導、上場維持要件の適合状況の調査を実施する。


さらに、開示書類である「特定証券情報」の「投資者への注意事項」においてもJ-Adviserは重要な役割を担う。TPMのガバナンスにおいてその存在意義は極めて大きく、自走が難しい段階から伴走支援が得られる点は、企業にとって大きなメリットと言える。実務上、TPM上場において求められる主なガバナンス設計は次の5つである。


❶ 取締役会の論点設計(重要投資・借入・M&A・子会社管理・関連当事者取引を必ず議題化できる運用)
❷ 関連当事者取引のルール設計(事前申告、審査、承認、事後モニタリングの流れを構築)
❸ 開示・インサイダー管理(情報管理規程の整備、重要事実判定フロー、開示委員会、社内教育)
❹ 年次・半期・月次の予算統制(予算差異の分析・是正を行うための経営会議の運用)
❺ コンプライアンス・内部通報制度・反社排除(形骸化せず、運用実態を客観的に説明できること)


将来的にTPMから東証の一般市場へのステップアップを視野に入れるのであれば、取締役会の監督機能や、J-SOXを前提とした内部統制、コーポレートガバナンス・コードへの対応など、一般市場で評価される取り組みを“後付け”にならない形で先行して構築することが最短ルートである。なぜなら、一般市場への上場においては、実質的に次の5つの対応が必須となるからだ。


❶ J-SOX対応(設計・運用・評価・改善の年間サイクル)
❷ 開示の定常運用(決算短信および適時開示のスピードと品質担保、レビュー体制の構築)
❸ 社外取締役を中心とした監督機能の強化
❹ 資本コストや資本効率、株主との対話を重視する経営の実践
❺ グループガバナンスの徹底(子会社統制・関連当事者取引・反社会的勢力排除・コンプライアンスなど)


中堅企業の持続的成長には、属人的経営を脱却するガバナンス強化が不可欠である。将来の一般市場への飛躍も見据え、専門家の伴走支援を得て強固な組織基盤を構築できるTPM上場の活用は有効な経営戦略と言える。

PROFILE
著者画像
鈴村 幸宏
Yukihiro Suzumura

タナベコンサルティング
コーポレートファイナンス エグゼクティブパートナー

メガバンクにて融資・外為・デリバティブなどの法人担当を経て、タナベコンサルティング入社。「企業を愛し企業繁栄に奉仕する」を信条とし、経営戦略・収益戦略を中心に幅広いコンサルティングを展開。企業を赤字体質から黒字体質にV字回復させる収益構造改革、成長企業に対するホールディングス化とグループ経営推進支援、ファイナンス視点による企業価値向上、投資判断、M&A支援の実績を多数持つ。また、オーナー企業に寄り添った事業承継支援、経営者(後継者)育成も数多く手掛け、高い評価と信頼を得ている。