新規上場社数の動向とプロマーケットの機能拡張
近年における新規上場社数の推移を見ると、一般市場においては構造的な変化が生じている。過去10年間、一般市場の新規上場社数はおおむね年間90社前後の水準を維持してきたが、2024年にはこの水準を下回り、2025年には66社にとどまった。これは一時的な減少ではなく、市場環境および制度変更の影響を受けた構造的な変化と捉えるべきである。
その背景として、2022年に実施された東京証券取引所(東証)の市場再編が挙げられる。再編後、大手証券会社を中心に、一定規模以上の時価総額が見込まれる企業に主幹事業務が集中する傾向が強まった。また、市場区分見直しに関するフォローアップ会議においては、グロース市場の時価総額低迷が継続的に議論され、その結果として上場維持基準の引き上げが段階的に実施された。これにより、収益規模の小さい企業や成長初期段階の企業にとって、一般市場への上場ハードルは実質的に上昇したと考えられる。
こうした環境変化は、上場志向企業の選択行動にも影響を及ぼし、結果として一般市場の新規上場社数減少の一因となっている。
一方、この動きを補完する形で、プロマーケットにおける新規上場は明確な増加傾向を示している。東証資料によれば、これまでに約220社(うち現存163社)がTOKYO PRO Market(TPM)に上場しており、2025年単年のTPM上場社数も47社と高水準を記録した。
この背景には、J-Adviserの新規参入が進んだことがある。2025年12月時点で21社(うち2025年の参入が2社)となり、従来は上場を志向していなかった企業層に対しても、プロマーケットの意義やメリットが広く浸透したと考えられる。
さらに、東証の資料によれば、プロマーケット上場企業は、上場前に期待していた「知名度向上」「信用力向上」「資金調達力の強化」といった効果について、おおむね期待通り、あるいはそれ以上の成果を実感している。また、「人材採用力の向上」「内部管理体制の整備」「従業員のモチベーション向上」など、組織面での効果も顕著に認識されている。
直接的な資金調達機能については一般市場に比べ限定的であるものの、企業価値向上という観点では遜色のないメリットが享受されている点は注目に値する。
加えて、上場準備の本質的意義は、単なる資金調達ではなく、適正な情報開示体制の構築にある。内部統制やガバナンス体制の整備を通じて、不正や誤謬を排除した透明性の高い経営が実現されることにより、企業の信用力は着実に向上する。
この信用力の蓄積こそが、金融機関との取引、採用活動、取引先開拓といった多面的な企業活動において波及効果をもたらしている。
プロマーケットの活用実態とその多様性
プロマーケットの機能を理解する上では、現存する上場企業だけでなく、一般市場へのステップアップや上場廃止に至った企業の動向も併せて見ることが重要である。
2026年1月時点の累計実績では、上場廃止に至った企業は54社存在し、その内訳は一般市場へのステップアップ17社、M&Aによるグループ参画9社、戦略的判断などによる上場廃止28社、である。これらの分類から、プロマーケットが単なる「上場の終着点」ではなく、多様な経営戦略の中継点として機能していることが読み取れる。
❶ 一般市場へのステップアップ
一般市場への上場を果たした17社の平均滞留期間は2.6年、売上高は約99億円、経常利益は約4億6000万円である。一定の成長を経た企業が、次のステージへ移行するための「準備市場」としての役割が明確に現れている。
もっとも、近年は東証における形式基準の厳格化により、プロマーケットとの間に収益規模やガバナンス体制の面でギャップが生じている。そのため、一部企業は名古屋証券取引所や福岡証券取引所など地方市場を経由したステップアップ戦略を採用しており、すでに10社が地方市場への上場を果たしている。
この動きは、上場戦略の多様化を示すと同時に、プロマーケットが柔軟な成長経路の起点となっていることを示唆している。
❷ M&Aによる成長および再編
M&Aによって上場廃止となった9社の平均滞留期間は3.8年、売上高は約31億円、経常利益は約2億2500万円であり、ステップアップ企業と比較すると規模は小さい傾向にある。
M&Aの主目的は「事業シナジーの創出」「業績改善(再建・救済)」の2点に大別される。
特に注目すべき点は、プロマーケット企業は一般投資家による株式保有が限定的であるため、M&A実行時の少数株主対応が比較的簡便であることである。この特徴は、買収・再編の意思決定を迅速化し、結果として企業価値向上の機会を広げている。
また、買収される側だけでなく、買収する側として積極的にM&Aを活用する企業も増加しており、成長戦略としての活用が定着しつつある。
❸ 戦略的判断などによる上場廃止
戦略的判断による上場廃止の内訳は、「業績不振(債務超過など)」「非公開化による経営再建」「不正会計など」である。
ネガティブな側面として捉えられがちであるが、見方を変えれば、プロマーケットは「撤退コストを抑えた市場」であるともいえる。すなわち、企業は一定期間上場を経験し、その効果を検証した上で、状況に応じて柔軟に戦略転換を図ることが可能である。この点は、スタートアップや中小企業にとって極めて重要な機能であり、実験的な成長戦略を支える制度的基盤と評価できる。
❹ 事業承継への応用
さらに注目すべきは、プロマーケットが事業承継の手段としても活用されている点である。親族内外を問わず、円滑な承継を実現するための手段として、上場準備プロセスが活用されている。
上場準備を通じて内部管理体制やガバナンスが整備されることで、企業の透明性と信頼性が向上し、承継後の経営基盤が安定する。また、株式の評価や分散が進むことで、承継に伴う利害調整も容易になる。
このように、プロマーケットは単なる資本市場ではなく、「経営基盤整備のプラットフォーム」としての機能も併せ持っている。
以上の分析から明らかな通り、一般市場における新規上場の減少は制度的要因と市場環境の変化によるものであり、その代替・補完機能としてプロマーケットの重要性が高まっている。
プロマーケットは、「成長初期企業の上場機会の提供」「一般市場へのステップアップ支援」「M&Aを通じた成長・再編の促進」「柔軟な撤退オプションの提供」「事業承継の円滑化」といった多面的な役割を担っており、日本の資本市場における「中間層市場」としての位置付けを確立しつつある。
今後、スタートアップ支援や地域経済活性化の観点からも、その役割は一層重要性を増すものと考えられる。制度のさらなる整備と市場参加者の拡大により、プロマーケットがより実効性の高い成長基盤として機能することが期待される。
〈参考資料〉
東京証券取引所上場部「2026年の方針・取組みについて」(2026年1月14日)、東京証券取引所上場推進部「プロマーケットの今後の方向性について」(2026年2月18日)、東京証券取引所「最近のIPOの動向と東証の上場支援活動について」(2019年3月)、東証HP、該当企業開示資料をもとにタナベコンサルティングにて集計
タナベコンサルティング
上場支援 上場審査部長 ゼネラルパートナー
複数の大手証券会社にて一貫して引受審査案件の責任者として多くのIPO、エクイティ、デット案件に関与した後に、M&A仲介業界にて上場指導、審査業務を管掌する上場審査部長として100社以上の東京プロマーケット(以下TPM)上場案件に関与し、約40社の上場企業を輩出。上場支援においては大企業から中小企業まで、またTPM新規上場のリーグトップを獲得するなど豊富な実績を有する。