企業を取り巻く経営環境はますます厳しさを増している。
ドメスティックなマーケットが伸び悩む中、原材料や人件費などの高騰によるコスト高が企業収益を苦しめている。そのような逆風の中でも、企業は持続的に成長していかなければならない。
他方、上場市場では近年、TOKYO PRO Marketが拡大している。プロマーケットとは東京証券取引所が運営する、プロ投資家(機関・特定投資家)限定の株式市場だ。本稿では、成長するプロマーケットにスポットを当て、その特徴やメリットを生かした企業の戦略シナリオを考えてみたい。
一般市場との比較によるプロマーケットの特徴
プロマーケットは一般市場と呼ばれる東証グロース市場やスタンダード市場、プライム市場などと区分され、相対比較の中でその特徴を見いだすことができる。以下3点に整理した。(【図表1】)
【図表1】プロマーケットと一般市場の比較
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
❶ 頑張れば上場できる市場である
最も端的な特徴は形式基準がないことである。上場基準には実質基準と形式基準がある。実質基準では、経営管理体制が適正に整備されているかが問われる。「適正に」とは平たく言えば、「会社法をはじめとする各種法令に準拠しているか」ということである。
形式基準とは、時価総額や株主数、利益額などの数値基準を言う。プロマーケットは実質基準を満たすことで上場が可能になる。形式基準は外部環境に強い影響を受けることが多いが、実質基準は自助努力により積み上げることが可能なので、プロマーケットは自社が「頑張れば上場できる」市場といえる。
また、株主数の制限もないことから、上場時に株式を売り出したり新株を発行したりする必要がない。株主構成をほとんど変えず、オーナー企業がオーナーシップを維持したまま上場することも可能なのである。
❷ 上場準備期間が短い
2つ目の特徴は、上場前の監査法人による監査期間が1年間で良いことである。一般市場では2年間必要であるため、プロマーケットの場合、上場準備期間が半分で良いことになる。上場準備期間は一般市場の場合でだいたい4~5年はかかるが、プロマーケットの場合は最短2年間でスケジュールを組むことも可能である。
最終的には一般市場にターゲットを置く企業であっても、当面のメルクマール(中間目標)としてプロマーケットを目指すという選択肢も決して遠回りではない。上場準備期間は社内にストレスがかかりがちであるが、2~3年で上場のステータスを得ることで達成感を享受できる。また、プロマーケット上場時に後述するメリットを享受できれば、成長に弾みがつき、時価総額などの高い形式基準にも達しやすくなる。
❸ 指定Adviserによる継続的なサポートがある
特徴の3つ目は、指定Adviser制度(東証の場合はJ-Adviser)を採用していることである。J-Adviserとは東京証券取引所から上場審査業務等の委託を受けた認証機関である。上場前から契約し、上場準備期間は上場基準に照らした指導を行い、上場申請時には審査や証券取引所に対する意向表明を実施する。
また、上場後は適時開示指導を通じて継続的に企業のサポートを行う。特に審査において、証券取引所からの審査は指定Adviserが対応するため、企業が直接受けることはない。
もっとも、プロマーケット上場は「上場すれば自動的に成長できる万能薬」ではない。市場の流動性は一般市場ほど高くなく、資金調達機能や株価形成の面では限界もある。そのため、上場の目的を「資金調達」だけに置くのではなく、採用・信用力・M&A推進力・ガバナンス高度化といった非財務価値を含めて設計することが重要である。
加えて、J-Adviser任せで統制を外部委託するのではなく、経営として内部管理体制を自走させる覚悟が必要となる。上場後の開示・内部統制・監査対応は恒常業務であり、社内負荷は確実に増える。ゆえに、上場前から「上場後に何を変え、何を取りに行くか」をKPI(重要業績評価指標)に落とし込み、一般市場へのステップアップやグループインも含めた中長期の出口戦略まで描いた上で、プロマーケットを成長の加速装置として活用すべきである。
上場効果を最大化するには、上場後の「見せ方」も重要である。事業ポートフォリオと成長投資の優先順位を整理し、エクイティストーリー(何で伸ばすか、何をやめるか)を一貫して発信する必要だ。加えて、上場を機に管理会計・人材配置・M&Aの意思決定プロセスを標準化し、スピードと再現性を高めることが望ましい。
プロマーケット上場の戦略的メリット
こういった特徴を踏まえ、企業としてプロマーケット上場を戦略的にどう位置付けていけば良いだろうか。プロマーケット上場における戦略的なメリットを以下3点に整理した。
❶ 採用・M&Aなどのリソース獲得戦略に圧倒的なパワーを発揮する
今、多くの企業が採用難にあえいでいる。特に地域のトラディショナルな業種でそれが顕著であるように思う。「募集をかけてもエントリーすら入らなくなった」という声もよく耳にする。今の時代、採用においては他の企業と差別化された特徴をアピールすることが有効である。
また、マーケットの伸びが期待できない中、M&A戦略で成長を図る企業も増加している。もう1社や1事業では垂直的な伸びが期待しづらくなっており、複数の企業がグループ化することで輪を広げていくことが成長の原動力になっていると言えるだろう。企業の成長戦略にとってM&Aは欠かせないオプションとなっているのだ。
採用やM&Aは企業外部からのリソース獲得戦略と言えるが、その戦略において、上場というステータスは明確な価値を発揮する場合が多い。他社との差別化につながり、実際に多くの上場企業がその成果を享受している。
❷ 新規顧客開拓や新領域進出など新たなチャレンジに加速度がつく
創業からの業歴が長く成熟化している企業の特徴として、既存の取引先との長期的なリレーションシップに依存しているケースが多くみられる。しかしながら、既存取引先に対する信用力は強固であっても、それが新たな取引先に通用するわけではない。
企業の成長において新規顧客開拓や新規事業など新たなリレーションシップの構築は欠かせないが、それがうまく進展せず足踏みしている企業が多いのも実情であろう。
上場というステータスの獲得は、新たな顧客やマーケットにこそ効果を発揮するものである。顧客に対する信用獲得には、本来相当の時間を必要とするが、上場することで一定の時間を省略することが可能になる。新たな顧客との新たな取り組みにおけるスピード感は大きく違ってくる。
❸ スピード感を持って上場ステータスを得ることで戦略展開の選択肢が増える
上場はゴールではなく、成長に弾みをつけるスタートと位置付けることが重要である。一般市場の場合、上場までの道のりが長く、その間のストレスも大きい。仮に中期5カ年計画で上場戦略を織り込む場合、4~5年目の目標として設定されるだろう。
それに対してプロマーケットは最短2~3年で上場できるため、中期計画の中間に位置付け、その後の成長を想定することも可能である。さらには一般市場へのステップアップ、他の上場企業へのグループインなど、発展的な未来を描く選択肢も増加する。
プロマーケットを活用した戦略シナリオ
以上により、プロマーケット上場を選択することで比較的短期に上場メリットを得るという仮説が浮かび上がってくる。経営環境が激しく変化する今日においては、スピード感を持って成長することが肝要である。また1つの事業のみに固執せず、他社との連合によるグループ化も成長のキーワードになる。中小企業は中堅企業に、中堅企業はさらなる高みへ成長を加速させる戦略を以下5つのフェーズで整理する。(【図表2】)
【図表2】成長戦略の仮説シナリオ
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
❶ M&A戦略による規模拡大
マーケットが成熟化している環境下では、1社や1事業単位で成長戦略を打ち立てることが困難になる。この場合は複数の事業をポートフォリオ化し、グループで成長していく発想に立つ必要がある。ただし、新たな事業をオーガニック投資で始めることも難しい。
中小企業の場合、社内リソースも限られるため、貴重な人材を新規事業に投入しても成果を得る可能性は低いし、仮に成功するとしても3~5年くらいの時間が必要となろう。
その間にさらに環境が変化し、その事業が陳腐化してしまうリスクもある。そこで、事業をスピーディーに成長させるにはM&Aが有効である。
もっとも、事業成長にストーリー感のないM&Aは失敗するリスクが高い。長期ビジョンに立脚して納得感のあるストーリーでM&Aを実現させていかなければならないことは言うまでもない。
❷ ホールディング化によるポートフォリオ再編
M&A戦略で量的拡大が進展したら、次の段階では複数の企業をグループとしてまとめ上げ、マネジメントやガバナンスの最適化を図る必要がある。量から質への価値転換を図るのである。ここではグループを統括する持ち株会社を軸にしたホールディング経営スタイルにモデルチェンジすることを想定する。持ち株会社傘下の事業会社は並列の関係性を築き、適度なエンパワーメントを効かせて「遠心力」で成長させていく。
❸ 上場によるブランド価値の向上
ホールディング化によりグループ全体で成長するフォーメーションができ、かつマネジメント体制やガバナンス構造が整ったら、次は上場を目指す段階である。ただ、中小企業の場合、ターゲットとする市場が東京証券取引所であれば一気に一般市場を狙うのではなく、プロマーケットが適切だ。時価総額や流動性などの形式(定量)基準がなく、比較的短期間での上場が可能だからである。ここでは「スピード感」が重要だ。
プロマーケットであっても上場することのブランド価値は大きい。経営管理体制が一定のレベルで担保されることで信用力が向上し、取引先の拡大や人材の採用においても大きな効果が期待できるようになる。
❹ M&A戦略による成長の加速化
上場の効果は、M&A投資を成長戦略の軸としている場合でも同様である。上場以前に比べると、売り手企業の情報の量も質も一段と高まることが多い。中小企業が中堅企業に進化する過程においても、上場後に売上高100億円を達成するまでのスピードは、上場前のそれに比べて明らかに速い。M&Aにおけるディールの規模も経験値を重ねていくたびに大きくなっていくのは必然なのである。
M&Aを繰り返しながら成長していくことをロールアップ戦略というが、こういう戦略を採っている企業(グループ)は同様の成長軌道を描く傾向がある。M&Aの経験値が高まって閾値を超えると、一気に成長スピードが加速していくのである。
❺ 成長する中堅企業へステージアップ
中堅企業に進化したとしても、もちろんそれはゴールではない。メルクマールに到達したというべきだ。「経営はゴールのないマラソン」という言い方もできる。今後も進化し続けなければならないのは言うまでもない。プロマーケットで中堅規模に成長した企業は、次はグロース市場やスタンダード市場を目指せるポジションにも立っているのである。
変化の激しい時代は、立ち止まっていることがリスクになる。環境変化に負けないスピード感で、企業をグループ経営へとモデルチェンジしていくことが必要であろう。
タナベコンサルティング 上席執行役員
グループ経営担当 事業所長 上場支援コンサルティング担当
「経営者をリードする」ことをモットーに、企業の財務収益構造や組織体制、資本構成を大局的かつ戦略的に改革するコンサルティングを得意としている。また上場・中堅企業における事業承継、ホールディング経営推進のスペシャリストとして、建設業、物流業、不動産業、製造業、小売・サービス業など幅広い業種での実績があり、全国で活躍中。著書に「オーナー経営者のためのホールディング経営」(タナベコンサルティング)、「ホールディング経営はなぜ事業承継の最強メソッドなのか」(ダイヤモンド社)がある。