日本企業の海外展開状況と時代背景
現在、海外拠点を有する日本企業は全体の約35.1%であり、大企業・中堅企業に限るとその比率は79.6%に上る。業種別では製造業35.7%、非製造業34.4%となり、中でも自動車関連73.9%、一般機械61%、化学57.7%、運輸52.6%と比率が高い※1。つまり、大企業・中堅企業の過半数が海外に拠点を有しており、進出していない方がまれである。進出時の時代背景や企業数の増加は以下の通りである。
❶1980年代:プラザ合意後の円高加速
プラザ合意後の急激な円高によりFDI(海外直接投資)が急増。1984年に4962社だった海外進出企業数が、1989年には6362社へ増加。ただし、まだこの時期は製造業の海外生産比率は10%にも満たなかった※2。現地生産化が始動した時代である。
❷1990年代:グローバルサプライチェーン構築期
1993年のEU単一市場スタート、1993年AFTA(ASEAN自由貿易)開始と経済特区/輸出加工区(EPZ)の拡充、1994年NAFTA(北米自由貿易協定)発効、1995年WTO(世界貿易機関)発足など、この時代に多くの通商協定が成立。後半はアジア通貨危機によって選別されるものの、海外進出企業は増加し、製造業を例に見ると、1989年度5.7%だった海外生産比率は2000年度14.5%となり、1990年代に急拡大した※3。
❸2000年代:中国WTO加盟と世界金融危機
巨大な市場と人口を有する中国のWTO加盟(2001年)により、同国の「世界の工場化」が加速。日系企業の投資も中国に集中し、製造業全体で海外生産比率、海外売上高比率とも緩やかに上昇した結果、2000年代の海外生産比率は14.5~17%へ上昇。また、同年代の海外売上比率は30%台に達している※4。なお、サブプライムローンに起因する世界金融危機で一次停滞した。
❹2010年代:海外展開の高水準定着化と地域分散、円レートの変動
日系企業の海外展開比率は、この時期から現在まであまり変化せず高水準で定着。他方、2000年代の中国集中化に伴うさまざまなリスク(賃金上昇、知財流出、規制強化、安全保障問題など)を踏まえ、チャイナ+1(またはチャイナ+N)戦略へシフト。その受け皿としてASEANへのFDIが増加。また、この時期、為替レートはUSD/JPY 80円(2010~2012年)となる歴史的円高を記録し、その後120円前後の円安(2013~2015年)を経て、おおむね100~115円台中心(2016年~)に落ち着いた。
【図表1】日系企業の年代別海外展開推移
出所:海外売上高比率は国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告 —2024 年度—」、海外生産比率は経済産業省「海外事業活動基本調査」、国際協力銀行「海外事業展開調査」、内閣府「経済財政白書」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
2020年代について、要約するのは時期尚早であるが、トピックスを中心に外観したい。
※1 ジェトロ調査部「報告書版 2024年度ジェトロ海外ビジネス調査 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(2025年3月)
※2 内閣府経済社会総合研究所「バブル/デフレ期の日本経済と経済政策」(2011年3月)
※3 経済産業省「海外事業活動基本調査」各年度版
※4 国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告 2024年度」(2024年12月)
グローバル vs インターナショナル
コロナショックから持ち直した世界経済はおおむね堅調に推移している。IMF(国際通貨基金)が2025年10月に発表した世界経済の成長率は2025年3.2%、2026年3.1%と、2024年の3.3%からは鈍化しているものの、底堅い成長が予測されている。ただし、日米欧を中心とする先進国・地域の成長率は1%台である半面、インドやASEANなどグローバルサウスと呼ばれる新興国・市場は4%台となっており、世界経済をけん引する存在になっている。
世界経済に大きな影響を与えるトピックスとしては、トランプ関税と中国経済の停滞、そして戦争であろう。それぞれ適宜アップデートされながら多くのメディアで報道されているため詳述はしないが、共通しているのはグローバリゼーションの阻害だ。
グローバルという言葉が使われ始めたのは1990年代からであり、現在は一般的に用いられている。グローバルという言葉が普及する以前は、インターナショナルという言葉が一般的であった。それでは、グローバルという言葉がインターナショナルに取って代わっただけだろうか? いや、厳密には違う言葉である。
インターナショナル(International)は、主権国家(National)が絶対的な存在としてある中、「相互に~」「~の間で」という“Inter”でつなぐという意味である。他方、グローバル(Global)は、地球や世界全体を意味する“Globe”の形容詞であるため、世界の統合や調和を示唆している。
グローバル化は、飛行機をはじめ船舶、鉄道など交通手段の飛躍的な発達、ISOなど国際標準規格の普及、前段で記載した各種の通商政策などによって進展し、インターネットのインフラ化によって一気に加速した。ところが、トランプ関税をきっかけに相互関税の応酬となり、米国依存のリスクが顕在することによって、世界一の大国である米国抜きでの地域連携が活発となる。
そして、米中二大国の対立、欧州におけるロシア・ウクライナ戦争の長期化、中東におけるイスラエルのパレスチナ攻撃などによって浮き彫りになった国家の安全保障問題と、それに伴う経済制裁の実施。これらによって、各国は外国と連携した経済政策より、自国でできる限り多くのものを賄う自給自足の必要性を痛感した。当然ながら企業も同様であり、地産地消型へのシフトを進めている。
その中で、日系企業にとってチャイナ+1(またはチャイナ+N)の移管先となっているのが比較的政情が安定し、人口と市場の成長性が見込まれるASEAN5(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)である。2024年度の日系企業の海外進出・移管先は、ASEAN5が463社、中国が94社、インドが52社となっている。(【図表2】)
【図表2】主な移管元と移管先
備考:1.1社が複数の国・地域から移管しているケースがあるため、件数と社数の合計は一致しない 2.回答企業数:657社、複数回答 出所 : ジェトロ「2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
つまり、世界の潮流は、グローバルからインターナショナルへシフトしているのだ。決してインターナショナルになることを否定的に捉える必要はなく、その相違を理解していることが企業経営にとって大切である。
次に、グローバルとインターナショナル、それぞれのメリットとデメリットを端的にキーワードとして記載する。
グローバルのメリット
規模の経済、スピード、一貫品質、データ統合、効率性
グローバルのデメリット
現地規制・嗜好への適合不足リスク、政治・規制ショックへの脆弱性
インターナショナルのメリット
現地適合、規制順守の柔軟性、需要取りこぼしの軽減
インターナショナルのデメリット
重複コスト、ブランド分散、意思決定の遅さ・複雑性
グローバル戦略のリデザインの必要性
約半世紀の時代の流れの中で、国際情勢や世界経済は常に大きく変化を続けている。その点で見れば、現在の変化もその一つとして捉えられるであろう。ポイントとなるのが、自社のグローバル戦略がこの時代の変化に適合していっているかどうかである。
各社が海外進出した時代背景によって、海外拠点のミッションや役割は異なるであろう。それらは絶え間なく変化している国際情勢や世界経済、あるいは日本も含む各社の産業構造やビジネスモデルに適合し、最適な価値発揮ができているであろうか。
例えば、1990年代に構築したグローバルポートフォリオやサプライチェーンは、2026年現在の自社のビジネスモデルに最適な形だろうか。その最適解へのアプローチが、自社のグローバル戦略のリデザインだ。
ここ最近、タナベコンサルティングのグローバルビジネスチームが手掛ける案件は、撤退・再編が増えている。理由はさまざまであるが、前述した通り、世界情勢の変化に適合できていないと要約できる。実際、在外日系企業の赤字比率は2割程度である※5。もちろん中国の不況が影響しているが、それだけでなく構造的な課題が浮き彫りになっている。以下、主なものを列記するので、自社の現状と照らし合わせていただきたい。
❶ 収益性の劣化・ばらつき拡大
❷ 本社主導で現地裁量が小さい
❸ サプライチェーンの再設計が不十分
❹ デジタル基盤とデータ運用の遅れ
❺ グローバル人材・報酬の競争力不足
❻ M&A成立後のPMI(経営統合)の遅れおよび失敗
❼ 財務・税務の最適化不足
❽ 成長領域での現地開発・ブランド構築の弱さ
※5 ジェトロ「2025年版ジェトロ世界貿易投資報告」(2025年7月)
海外拠点の撤退・再編の「四重制約」
リデザインには新たな地域への進出だけでなく、撤退・再編が含まれ、その比重が大きくなる。海外進出に関しては、これまでの解説記事(本誌2025年1月号、2024年1月号)を参照いただくとし、ここでは撤退・再編にフォーカスしたい。
企業経営全般に言えることであるが、進出するよりも撤退する方が難しい。これが海外拠点となるとなおさらである。海外拠点の撤退・再編の困難さは「法務・労務」「経済・財務」「事業・ビジネスモデル」「政治・カントリーリスク」の四重制約に起因すると一般的に言われている。
法務・労務においては、厳格な解雇規制や高額な退職補償金や交渉、不動産の賃貸借契約、サプライヤーとの供給契約、顧客との販売契約など、時には違約金を伴う事案も発生する。
経済・労務においては、事業停止に伴う撤退コスト(解約金、違約金、人件費、資産処分費など)が多額になることがあり、海外子会社の再編や清算は、日本および現地国の双方で複雑な税務問題(移転価格税制、間接譲渡課税など)を引き起こす可能性もある。
事業・ビジネスモデルにおいては、現地拠点の閉鎖がグローバルサプライチェーン全体に混乱や停止を招く可能性があり、それによって顧客への供給責任が果たせなくなると企業としての信用力が棄損してしまう。企業イメージの悪化は将来の事業展開に悪影響を及ぼすリスクをはらんでいる。また、 撤退プロセスで現地パートナーや従業員との間で技術やノウハウの流出リスクが発生することもある。
そして、政治・カントリーリスクは、現地政府の許認可の取得、そのための煩雑な手続きや遅延、急な法改正や政治的介入による撤退条件の不利益変更などが該当する。
これら4つの要因が相互に関連し、撤退プロセスを困難かつ複雑なものにしている。また、それ以外にも埋没コストへの執着や改善に対する楽観主義など心理的な問題もあり、意思決定や遂行を先延ばしにするケースが散見される。その結果、さらに状況が悪化するというパターンが多い。
グローバル戦略
リデザインの一環としての撤退・再編
企業の使命として、持続的成長とステークホルダーへの責務遂行がある。そのため、撤退・再編をネガティブなものと捉えるのではなく、グローバル戦略リデザインの一環として 俯瞰し、新たなグローバルビジョンを描くことが大切である。
それは、将来の外部環境分析と現在の自社のポジション分析を行った上で描く、10年先の未来ビジョンである。R&Dから生産、販売、アフターサービスまで、さらには財務、HRなどのアドミニストレーションも含めたバリューチェーンをグローバル最適でどのような配置にし、どのようなポートフォリオを組むのかのリデザインだ。
このグランドデザインの実装は未来展望があってこそ推進できるものであり、中長期的な取り組みとなる。
グローバル戦略のリデザインに関して、グローバル戦略論の父といわれる英の経営学者ジョン・ダニングの「OLIパラダイム」が参考になる。
Ownership(所有優位):自社が持つ独自資産や能力の優位性。例えば、ブランド、特許・ノウハウ、製造プロセス、組織能力など
Location(立地優位):対象国の魅力。市場規模・成長、コスト(賃金・電力)、サプライヤー/クラスター、関税・FTA(自由貿易協定)、規制・政治リスク、物流・距離、為替など
Internalization(内部化優位):自社に統合するメリット。例えば、知財・データ漏えいリスクの回避、品質・納期の統制、取引コスト削減など
これらはFDI(子会社・M&A)のための判断基準を示唆してくれる。当然のことながらOLIの全てが有効であればFDIが合理的である。他方、Oは高いがIが低いならライセンス/フランチャイズ契約などのパートナーシップモデル、Lの魅力は限定的でも本国のOが高ければ輸出ビジネス、という戦略オプションが考えられる。
さらにダニングは、FDIの目的として、天然資源探求モデル、市場探求モデル、効率探求モデル、戦略的資産探求モデルの4つの類型を提示。この4つのカテゴリーのどれを目的として自社は海外展開するのか。それをOLIパラダイムに当てはめた際、その展開手法はFDIが適切なのかという戦略的思考を提示してくれる。
つまり、撤退・再編を含めた自社のグローバル戦略のリデザインを策定するガイドラインとして活用できる。
重要なのは、何よりもまずトップマネジメントの戦略的意思決定、つまり決断である。その中でグローバル戦略のリデザイン(グランドデザイン)を描き、撤退・再編をネガティブな戦略として捉えるのではなく、グローバル全体における最適なポートフォリオ改革として位置付け、未来の成長のために推進することが大切である。
タナベコンサルティング 常務取締役
VCにおいて投資先スタートアップ企業の戦略立案、マーケティング、フィジビリティスタディ(事業性評価)など多様な業務に従事。豪州での現地工場の設立と運営、米国大学のTLO(技術・特許移転)を通じた大学発スタートアップ企業の日本市場開拓支援、米国企業の日本市場向けビジネスモデルの革新、日系企業の中国現地法人経営改革など、国境を越えた様々な実務とコンサルティングの経験を有する。長期ビジョン、中期経営計画の策定や事業戦略立案、ビジネスモデルイノベーション、新規事業開発支援、M&Aにおけるビジネスデューデリジェンスなど多岐にわたるコンサルティングに従事。