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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2026.02.18

新興国における現地法人の実態把握と戦略再構築 川名 勇摩

名ばかりの「現地化」

日本市場において、少子高齢化による内需縮小が明白な今、企業成長の基盤を海外へ広げる必要性は日々高まっている。従来は大手企業の戦略であったグローバル事業は、中堅・中小企業が中長期的に成長する上でも必須の戦略となった。2024年10月時点で海外進出日系企業の拠点数は約8万8000(外務省「海外進出日系企業拠点数調査、2024年調査結果」)に達し、多くの日本企業が世界中に拠点を構えている。


一方、海外拠点の運営を担う人材不足は共通課題であり、適切に配置できていないケースも多い。その結果、実態を把握できず、ガバナンスや内部統制の脆弱ぜいじゃく化によるリスクをはらむことになる。また、日本人管理者を置いても、言語や商習慣の違いから、現場の本質的課題や潜在リスクを把握しきれないことも散見される。


経営陣・駐在員と現地社員との間の見えない溝や、トラブルの芽をいかに摘み取るかが海外拠点マネジメントに求められる。本稿では、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国における日系製造業の事例を基に、海外事業基盤強化におけるガバナンス・リスクマネジメントの重要性を解説する。


2000~2010年代の「チャイナ+1」によるASEAN進出ラッシュの波に乗り、現地法人を設立した日系企業の多くは成熟期を迎えている。しかし、既存事業に依存したモデルは成長の限界に直面している。特に、四輪・二輪業界などの下請け構造の中で、取引先の進出に伴い展開してきたTier2(2次下請け)メーカーや2次サプライヤーの多くが、現地での独自開拓を迫られる状況にある。高い固有技術を武器に、ローカル市場や新たな日系顧客を獲得していくことが、昨今のASEAN拠点運営における喫緊の課題となっている。


現地で多くの経営者と対話すると、新規開拓や事業開発が進む企業の多くが、出向5年以上の駐在員や、時には「10年以上戦士」たちに支えられており、極端に人に依存した経営に陥っているという共通点が見える。代替人材の不足や育成難は課題だが、そうした戦士の存在自体は前向きに捉えるべきであり、本社側には彼・彼女らが活躍できる柔軟な対応が不可欠だ。


一方、同様の人材が不在、または規定で帰任してしまった企業の多くは、苦しい経営を迫られている。コロナ禍を経て「駐在員不要論」や「ローカライズ経営」を聞く機会も増えたが、それを推進できているのは一部の優良企業に限られるのではないだろうか。名ばかりの「現地化」にとらわれ失敗する現実を、何度も目の当たりにしてきた。ここでは、そうした失敗事例を基に傾向と対策を解説する。


建設設備資材を製造する連結売上高50億円のA社は、日系企業の進出ラッシュに乗じ、主要事業と親和性の高い現地企業をM&Aしてベトナムへ進出した。既存顧客への依存度は高かったものの、当初は日系企業の投資も好調で業績は順調に推移していた。コロナ禍を経て中国からの生産移管による回復が期待されたが、2023年以降も水準を大きく下回り、3期連続赤字の見込みとなっていた。


現地法人の要は、買収前から経営を任されていた高齢の日本人経営者であったが、コロナ禍を機に帰国しリタイアしていた。海外ノウハウや適任者が不在の同社は、買収後も旧経営陣に権限を委譲しており、本社側は実態を把握できていなかった。後任のベトナム人社長は技術畑であり、急きょ本社から送られた人材も海外経験がなく、経営は悪化の一途をたどり、債務超過に陥った。


増収増益期に見過ごされていた現場の課題や本社との意識ギャップは、減収減益に転じると一気に顕在化した。実態把握に焦る本社は、一方的なマイクロマネジメントを現地に押し付けるようになった。これは現地経営陣と本社の溝を深め、撤退・清算も視野に入る危機的状況を招いた。


A社の本質的な問題は、本社が現地法人の実態把握をおろそかにしていた点だ。成長期には見落とされがちな現場レベルの潜在課題を放置したことが、成熟期・衰退期に発生したトラブルへの対応速度を鈍化させ、このような事態を招いた。


近年は、中堅・中小企業においてもクロスボーダーM&Aを用いた海外展開が増えつつある。だが、事前の企業調査、デューデリジェンス、事業性評価が不十分な場合、買収後に思わぬトラブルが発生する可能性がある。特に、ローカル企業のM&Aを検討する際には、簿外債務や隠れた負債、財務上の不正などのリスクを内包しているケースも少なくない。リスクを洗い出し、実態を正確に把握し、冷静に評価することが求められる。


海外事業推進人材や駐在員候補の不足は多くの日系企業が抱える課題だが、決裁承認フローや本社を介した管理スキームを整備しないまま、権限の大半を現地経営陣へ実質的に移譲してしまうと、現地法人の実態把握が困難になり、経営がコントロールできない状態に陥るリスクが高まる。リアルタイムに業績を把握できるERP(業務プロセスを統合・効率化するためのシステム)や基幹システムの導入、信頼できる現地日系会計事務所への業務委託など、遠隔だからこそ本社がしっかりとガバナンスを効かせる仕組みづくりが重要だ。


筆者の経験上、日系会計税務や法務コンサルタントへの業務委託コストを削り、ローカルコンサルタントへバックオフィス業務を委託した日系企業で成功している事例を耳にしたことはない。タナベコンサルティンググループは、海外子会社の実態把握に不安のある日本企業に向けた現地法人ガバナンス診断サービスを用意しているため、一度ご検討いただきたい。


ASEAN諸国の国旗

グローバル戦略と経営管理スキームの再構築

日本人駐在員の派遣が難しく、適切な人材を採用できない場合、現地子会社の経営陣とのコミュニケーションは希薄になりがちだ。本社理念の浸透不足や言語の壁に加え、現地会計基準や税務ルールへのキャッチアップが遅れると、子会社の財務報告の信頼性を疑わざるを得ない悪循環にも陥る。これを防ぐためにも、進出初期段階や課題が顕在化する前の段階で、信頼できる専門家への委託(セカンドオピニオンを含む)や、本社を介した管理スキーム整備に注力することが重要だ。


さらに、海外子会社で問題が発生してから体制を再構築するには、進出初期に整備する場合とは比べものにならないほどの労力とコストがかかる。結果として、事業継続が困難になるケースも少なくない。海外進出のハードルが下がり、身近になった今だからこそ、進出をゴールとせず、現地での持続的成長を実現するためのグローバル戦略と経営管理スキームの再構築が求められる。


そのためには、現地市場の実態把握や人材・パートナーとの信頼関係の構築といった、「地に足の着いた準備」も不可欠だ。すでに海外事業を推進している企業も例外ではない。短期的な成果だけを追うのではなく、中長期視点で自社らしいグローバル経営の在り方を描くことこそが、持続的企業成長への第一歩となる。


PROFILE
著者画像
川名 勇摩
Yuma Kawana

タナベコンサルティング グローバルビジネス
ASEAN グローバルアドバイザー
日系警備会社のインドネシア現地法人にて、幅広いクライアントのセキュリティーデザインから実装、運用支援などの法人営業ならびにプロジェクトマネジメントに従事。東南アジア諸国におけるセキュリティーマネジメントに関する広い知見がある。タナベコンサルティング入社後は、コンサルティングサービスの海外展開に向け、商品開発・アライアンス開拓・提案連携など、社内プロジェクトの推進に係る全体総括を担当。