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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2026.01.17

コーポレート機能におけるAI活用の実践的アプローチ 千野根 琉成

コーポレート機能におけるAI活用の実践的アプローチ

コーポレート機能におけるあるべきAI活用の姿

生成AIとデータ分析基盤の成熟によって、企業が意思決定を行う速度と精度は飛躍的に高まってきた。しかし、「AIを導入した」という手段の目的化が発生し、部門ごとに必要とされる活用度の濃淡を見誤るケースが散見される。AIは全社共通のインフラであるが、実装の深さと広さは職能別に最適化されてこそ真価を発揮する。


本稿では、経営企画・総務・経理・法務・人事という5つのコーポレート機能を中心に、それぞれの業務特性に応じた「あるべきAI活用度」と実践的な着手ポイントを描き出す。最終的には各部門がAIを活用して生産性を高めることが全社最適となり、ひいては従業員満足度向上という付加価値を最大化することが目標となる。



各部門におけるAI活用の具体像

❶ 経営企画部門:戦略立案の質とスピードを高める
市場変動の激しい今日、経営企画部門においては「先を読む」精度を高めるためにAIを活用していく必要がある。例えば、週次で更新される外部データをAIに学習させ、中期経営計画の売り上げ・利益シナリオを動的に再計算する仕組みを持つ企業は、役員会での意思決定速度を向上できる。


また、自社の財務モデルをデジタル化し、生成AIが文章と図表でシミュレーション結果を説明する環境を整えれば、経営層はプロンプトを打ち替えるだけで新たな仮説を即座に検証できる。さらに、従業員のアイデアに対して大規模言語モデルが自動でKPIや競合比較を付与する仕組みを導入すれば、企画審査に要する工数を大幅に削減できる。


こうした戦略立案の質とスピードの引き上げが、経営企画部門としてのAI活用の肝になってくる。経営企画部門には、より付加価値の高い業務へのAI活用が求められると言える。


❷ 総務部門:生産性向上と従業員快適度の最大化
総務部門でのAI活用は、生産性の向上を最終的な目的に据えると良い。例えば、社内規程や手順書、FAQなど社内に散在するドキュメントを対象に生成AIを活用することで、問い合わせ対応時間が劇的に短縮される。オフィスに配置したIoTセンサーと時系列解析AIを連携させ、温度・照明を自動最適化することで、従業員快適度スコアが向上した事例もある。また、従業員の属性やライフイベントを学習したチャットボットが最適な福利厚生メニューを提案すれば制度利用率が高まる、といった期待が持てる。


❸ 経理部門:業務効率化とリスクコントロールの両立
経理部門では生産性の向上、特に精度を高めていくようなAI活用が求められる。例えば、紙やPDFで受領した請求書や領収書のデータ化、仕分け業務の自動化などの業務効率化をしつつ、重複支払いや不正兆候のリアルタイム検知などのリスクコントロールまで行っていくことがあるべき姿になる。


経理部門では、AI活用によって効率的に、よりミスがなくなるような状態に持っていくことが大切である。


❹ 法務部門:リスク最小化と迅速な意思決定の実現
法務部門でのAI活用は、リスクの最小化と意思決定の迅速化を最終目標に据えると効果的である。例えば、契約書レビューに生成AIを組み込んだワークフローを構築し、条項ごとにリスクを採点・修正文案を提示する仕組みを導入すれば、1件当たりのレビュー時間が大幅に短縮される。


さらに、各国の官報や規制サイトをAIが自動で巡回し、改正ポイントを要約・危険度をスコア化することで、法改正対応の漏れによる罰金や訴訟リスクを回避できる。電子証拠開示(eDiscovery)では、数百万通のメールを高速フィルタリングし、重要文書だけを抽出することで訴訟準備期間を短縮した事例もある。


これらの施策により、法務部は従来の機能を超える戦略的リスクマネジメント部門へと進化できる。


❺ 人事部門:タレントマネジメントとエンゲージメント向上
人事部門でのAI活用に関しては、タレントマネジメントと従業員エンゲージメントの最大化を最終的なゴールに設定すると良い。


応募者の履歴書と社内ハイパフォーマーの行動ログを比較し、カルチャーフィットを数値化する採用基盤を導入すれば、面接工数が削減され、採用の質が向上する。社内アンケートや1on1の議事録をAIで解析し、離職リスクを事前に予測するダッシュボードを提供すれば、人的コストの損失を未然に防げる。


また、生成AIが個々のキャリアゴールを把握し、LMSから最適な学習プランを自動提案するような仕組みを整備すれば、自己啓発研修の受講率が高まり、従業員満足度が向上する。こうしたAI活用により、人事は採用・配置・育成・定着をデータドリブンで最適化し、人的資本経営を実現する推進役となる。


AI活用は各部門の生産性向上を起点としつつ、結果的に組織全体の推進を最終目的に据えるべきである。AI導入は「横並びの一律展開」から「部門特性に応じた深耕」へかじを切る段階に来ている。


本稿でこれまで述べたように、経営企画部門はより付加価値の高い業務のためのAI活用、総務部門は生産性向上のためのAI活用、経理部門は生産性向上と業務精度の上がるようなAI活用、法務部門におけるAI活用はリスクの最小化、人事部門はタレントマネジメントと従業員エンゲージメントの最大化と、部門ごとのあるべき姿を自社に落とし込み、スモールスタートで取り組んでいくことがAI活用への第一歩である。部門ごとの積み重ねが、全社推進への足掛かりになるのだ。


※ 訴訟に関連する電子データやコンテンツを自ら収集し開示する制度


【図表】コーポレート機能の業務特性に応じたAI活用のポイント

【図表】コーポレート機能の業務特性に応じたAI活用のポイント

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

PROFILE
著者画像
千野根 琉成
Ryusei Chinone

タナベコンサルティング
マネジメントDX コンサルタント
在庫管理や株価予測、売上予測などAIを用いた需要予測の知見を生かし、「手段の目的化」にならないコンサルティングを実施している。クライアントを第一に考え、戦略策定の上流工程から戦略実行の下流工程まで企業の成長段階に合わせたコンサルティングで伴走することを信条とする。