一貫性のあるブランド構築が信頼と共感を育む
「わが社にはブランド力がある」。自信を持ってそう言える企業は少ない。近年、競合他社との差を生む重要な経営技術として「ブランド力」が注目を浴びるようになり、もはや「ブランド」を意識したことがない経営者はほとんどいないだろう。消費者に直接商品を届けるBtoC企業だけでなく、企業間取引を主とするBtoB企業もその有用性に気付き、業種業界を問わず、さまざまな企業がブランディングやPR活動に取り組んでいる。
一方で、「ブランディングがうまくいっている」と実感している経営者はほとんどいない。そもそもそれがどのような状態なのか分からず、自社の取り組みにいまいち自信を持てない経営者が多いのではないだろうか。
タナベコンサルティングが2024年に実施した「2024年度ブランディングに関するアンケートREPORT」(2024年11月)によると、ブランディング戦略を策定していない企業が過半数を占め、戦略を策定していると回答した企業であっても、戦略が「順調に進行している」と答えたのは半数程度であった。つまり、4社に3社は戦略を持っていないか、戦略の推進に課題を抱えていることになる。
このような企業は、製品・サービスは一流でも、マーケティングは二流、ブランディングやPRは三流に甘んじていると言えるだろう。つまり、多くの企業が、自社に眠る競争優位性の高いブランド資産や圧倒的なブランド価値を、伝えたい相手に伝えられていないのである。多くの企業が経営において「ブランド」を重視しつつも、自信を持って「ブランド力がある」と言えないのも無理はない。
ブランド力に課題感を持つ企業に共通して言えるのは、自社のアイデンティティーを一貫した手法やメッセージで伝えられていないということだ。ブランドとは競合との差を生む「信頼」と「共感」の基盤であり、その基盤を築くには、自社の強みを掘り下げ、それを顧客にとっての具体的な価値として明確化した上で発信する必要がある。逆に言うと、ブランド力に自信が持てない企業は、このプロセスのどこかに必ず穴があるはずだ。
例えば、よく見かけるのは、「SNSやウェブサイトなどを通じてさまざまな施策を行っているが、発信内容はバラバラで統一性がない」「メディア露出を増やしてPRしているが、商品の本質的な価値が整理できていない」など、「手段」にばかり注目し、目的や本質を見失っているケースだ。戦略の欠如と言い換えることもできるだろう。
ウェブサイトを美しく整えたり、広告を打ったり、SNSでPRしたりすることは確かに有効な手段だが、企業の強みや提供する価値といったブランドの核を明確にし、それを伝えるべき相手に向けて発信しなければ響くことはない。
また、戦略が明確でも、その内容が不十分だったり、推進するためのプロセスが設計されていなかったりすることで、適切な施策に結び付いていない企業もある。企業のブランディングを後押しするサービスやツールが市場にあふれており、何から手を付ければよいのか分からなかったり、適切な手段を選択できていなかったりと、手段そのものに悩む企業も増えている。
戦略と手段、そのどちらが欠けていても企業のブランド力は向上しない。自社の製品・サービスや会社そのものの魅力を体系化し、一貫性を持って戦略的に発信することで、初めて自社の提供する本質的価値が、本当に伝えたい相手に「伝わる」のである。
タナベコンサルティングでは、このような一貫性のあるブランドを築くプロセスを「ブランドバリューチェーン」(【図表1】)として体系的に整理している。これは、企業のブランド力を高める取り組みを客観的に評価するフレームワークであり、ブランドを新たに構築するときだけでなく、すでに行っているブランディングやPR活動のボトルネックを発見し、課題を明確化することでブランドを磨き上げるツールとしても有用である。
【図表1】ブランドバリューチェーンのフレーム(4つのフェーズ、7つのステップ)
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
ブランド力を高める「ブランディング」
多くの商品・サービスがあふれ、原材料費・人件費の高騰による原価アップ、人口減少、少子高齢化、インフレ基調での値上げ、コモディティー化(商品価値の陳腐化)の加速による付加価値や企業収益性の低下など、企業が直面する課題は多い。そうした中、環境変化のスピードは速く、市場環境はますます厳しいものとなり、価格施策がうまく立ちいかない企業が増えている。ブランドが持つ価値観やストーリーに共感してもらい、価格や機能ではないブランド力で差別化を図ることにより、企業価値が向上し、競争力が高まり、企業成長につながっていくのである。
ブランド力を高める「ブランディング」の在るべき姿とは、「ブランドの一貫性」があり、アウトプット(=ブランドを「正しく魅力的に伝える」こと)ができることである。ブランドの一貫性は、ブランドビジョン(コンセプト)を明確にすることで実現できる。
「ブランド」とは、ロゴやブランド名そのものでなく、その企業や商品の提供価値やさまざまな構成要素、ブランドとのコンタクト体験が複合的に結び付いて、消費者・顧客の頭の中で作り上げられるイメージである。
商品を区別するための印(マーク)がブランドの始まりと言われているが、今では、単なる識別マークを超えて、企業や商品の価値を表現する重要なものとなっている。
「ブランディング」とは、企業や製品・サービスによって提案したいブランドアイデンティティー(CI)やブランド独自の価値を魅力的に伝えることで、消費者・顧客にその価値を認知させ、イメージを向上させる活動である。
「PR=Public Relations(パブリックリレーションズ)」とは、企業がステークホルダーと良好な関係を築くための活動および考え方を意味する。「プレスリリースの発信」や「パブリシティーの獲得」といった従来のPR活動にとどまらず、広告やセールスプロモーションを含めたコミュニケーション全てをPRと考える。
対外的なイメージを向上させる効果だけでなく、社内のイメージやエンゲージメントを向上させる効果をもたらすことができる。ブランドは無形資産であり、非財務資本であり、企業価値の源泉となる。ブランドの核となるイメージを設計し、アウターブランディング・インナーブランディングそれぞれに具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定することで、企業価値向上につなげる。
ブランドの3つの視点
企業が勝ち抜くための「ブランド」。そのブランドを高めるブランディング成功の鍵となるのが、「専門価値」「人材価値」「社会価値」というブランドの3つの視点(【図表2】)である。これらの視点から自社が強みを発揮できるブランドの素材を発見し、それを磨くことでブランディングの方向付けが明確になる。本質的価値(ブランド)の確立、真の顧客とのコミュニケーションによる長期的な信頼関係の構築(ブランディング)が、この厳しい環境下で「勝ち抜く、突き抜ける」ための条件となる。
【図表2】ブランドの3つの視点
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
自社の目指す姿・提供したい付加価値・実現したい未来像を、経営理念に基づいて整理し、自社のブランドベネフィット(資源)にする。それをPMVV(パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー)に沿って戦略化し、ブランド構築の基盤となる「ブランドビジョン」を明確化する。
ブランディング活動を行うための、ブランドビジョン・ビジネスモデル、ブランド戦略を設計し、その上で、具体的なインナー・アウターのブランディング施策の計画に入っていく。その際、デジタル技術も活用して「経営クオリティー」(【図表3】)を高め、その価値を全ステークホルダーに届ける。
【図表3】経営クオリティーの体系図
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
ブランディングは、売り上げ向上や利益率改善だけでなく、アウター・インナーとあらゆる側面において企業価値を向上させ、利益をもたらすことにつながる。
コーポレート・商品・サービスにかかわらず、ブランド構築は長期的な取り組みであり、短期的にはできない。だからこそ、いち早くブランディングに取り組み、持続的にブランド力を高めることで本質的価値を形成し、他社との差別化を図る必要がある。
表面的な要素を整えるのではなく、ブランド構築のバリューチェーンをしっかりとデザインすることが大切なのだ。
ブランドバリューチェーンの活用
ブランドビジョンとは、ブランドのコンセプト、パーソナリティー、目指すべき未来像、価値創造ストーリーを言語化したもの(ブランド実現の旗印となるもの)であり、ブランドビジョンに基づく戦略検討・事業推進・アウトプットデザイン(インナー・アウター)など、「ブランドの一貫性」があるアウトプットにより、ブランドを「正しく魅力的に伝える」ことができる。
ブランド構築のステップに入る際に、長期計画からのバックキャスティングで計画化・具現化し、連動させて取り掛かることも大切である。
このブランドバリューチェーンのフレームワーク(【図表1】)に沿って自社のブランディング活動をチェックすることで、課題が明確になる。「売り方」が悪いのか、「売る場」が悪いのか、「魅せ方」が悪いのか。自社の提供する本質的価値が、本当に伝えたい相手に伝わっているかという視点で見直してみていただきたい。
これは、BtoC企業だけでなく、BtoB企業にも応用可能であり、製品・サービスだけでなくコーポレートブランディングも対象に含めている。
どんな企業にも何かしらの「強み」や「価値」がある。しかし、それを良いと思ってくれる顧客に提供しなければ、評価は得られない。「どんな価値を誰に提供し、どのようなブランドを目指すのか」という戦略を構築し、ブランドを具体化するデザイン、製品・サービスや自社の価値を体系化する。そして、その体系に基づいてキービジュアルやネーミング、ロゴ(CI・VI)などで具体化し、ブランドの基盤をつくる。このプロセスを通し、ブランドを正しく「伝える」ブランディング活動を行い、社内外のステークホルダーへ、コミュニケーションMIXを駆使して価値を伝え、定着させる。
「ブランド力を持てば、強く、元気な企業になれる」。企業経営者や経営幹部、およびブランディング・広報PRに関わる全ての人々がそう実感し、最適な施策を実行できるよう、道筋を立て、自社の本質的価値(ブランド力)を再構築し、真のステークホルダーに向けて最適な施策を実行いただきたい。そして、それを自社のブランドビジョンの実現につなげてほしい。
タナベコンサルティング
取締役
企業のブランディング&マーケティング戦略パートナーとして、売上拡大・ブランド認知向上に直結する戦略立案からマーケティング計画策定、販促施策の実行推進、メディア・クリエイティブ・プレミアムノベルティの企画、制作ディレクションまで一貫して支援している。