周年はブランドを築く上で最適なタイミング
企業がブランドを築く過程において、周年という節目は社内外、広くは社会に向けて大きな意味を持つ。ブランドは日々の事業活動や顧客との関係性の積み重ねで徐々に醸成されるが、社員が日常業務の中で自社の存在意義を意識する機会は限られる。 周年という節目は、その不足を補い、社内外に向けてブランド価値を再提示する絶好の契機となる。 10年、20年、50年、さらには100年といった区切りの周年は、歴史の重みを伝えるとともに、次のステージへの移行を宣言する意味合いを持つ。周年を単なる祝賀イベントで終わらせず、社内、社会や市場に対して「未来への意思表示」を行うことが重要である。特に、社会環境の変化が激しい現代において、周年を通じてブランドを再定義し、企業の存在意義を言語化して示すことは、社内外に向けたメッセージとなる。 周年ブランディングを進めるためのポイントは、「再言語化」と「自分事化」の2つである。 再言語化とは、企業の理念や価値観を時代のコンテクストに即して表現し直すことだ。理念は変わらずとも、顧客や社員、ステークホルダーに響く言葉は時代とともに変化する。かつては、「成長」「拡大」「発展」といった言葉が共感を呼んだが、現在では「持続可能性」「多様性」「共創」といった表現の方が、より高い社会的価値を感じさせる。企業にとって周年という節目は、自社の存在意義を最新の社会的課題や顧客の関心と結び付け、再定義する好機である。 一方、自分事化とは、再定義された理念やメッセージを社員一人一人が自らの行動と結び付けることである。周年式典で経営陣のメッセージを聞くだけでは理念の浸透までには至らず、行動変容を促すことはさらに難しい。周年という節目に、社員が自らの体験を語る機会を設けたり、共創的な取り組みに参加できる仕組みを用意したりすることで、理念は抽象的な標語から日常の行動指針へと変わる。 周年は、再言語化と自分事化を同時に実現し、ブランドを組織と個人双方に根付かせる絶好の舞台となる。
周年の成果を高めるクリエイティブ力の重要性
周年の成果を最大化するには、理念や物語を「形」にするクリエイティブの力が不可欠である。ブランドの価値は抽象的であり、理念や歴史を言葉だけで伝えるのは限界がある。そこで、周年ロゴ、タグライン、記念映像、特設ウェブサイトなどのクリエイティブを通じて直感的にその価値を伝える必要がある。
これらは、ブランドの理念を可視化し、ステークホルダーの共感を創出し、未来へ向けた刷新を印象付ける役割を担う。
周年に制作されたクリエイティブは、その場限りのものではなく、次の10年、20年と企業を象徴し続ける資産となる。周年におけるクリエイティブを「未来に向けた投資」と捉えることが、ブランド力を高める要諦である。
次に、クリエイティブ力を生かした周年ブランディングの実践に有効な手法と、ジェイスリーの支援事例を紹介したい。
1つ目は、「理念の再構築」である。周年を契機に創業時の理念を見直し、現代にフィットする表現にアップデートする企業は年々増加している。時代に適したメッセージとして再提示することで共感度を高めることができる。
電気設備全般の設計・施工・管理を手掛ける総合設備業の松田電気工業は、創業70周年に向けて経営理念を再構築した。既存の経営理念は項目が複数に分かれており、社員に浸透しづらいという課題を抱えていた。そこで、創業者が込めた思いをくみ取りながら、シンプルで伝わりやすい理念体系へと再編した。
2つ目は、「VI(ビジュアル・アイデンティティー)のアップデート」である。ロゴやカラーを刷新することで、企業の理念や進化を視覚的に表現でき、社内外へ与えるインパクトも大きくなる。
グローバル化に向けた市場調査、M&A、撤退・移転などの海外事業戦略の策定・実行を支援するグローウィン・パートナーズ(タナベコンサルティンググループ)は、創業20周年を機にVIをアップデートした。現在の社内の雰囲気や社員の人柄が創業時のイメージから乖離していたため、コーポレートロゴや各種ツールを刷新し、ブランドイメージを再構築した。
3つ目は、「周年特設サイトの開設」である。デジタル上に企業の歴史やストーリーをまとめ、社員インタビュー、未来への宣言を発信することで広く社会と共有できる。2024年に設立95周年を迎えた医療用医薬品・一般用医薬品の製造販売を手掛けるわかもと製薬では、周年特設サイトの制作を支援。ブランドムービーや各社とのコラボレーション企画、プレゼントキャンペーンなどを網羅し、プロモーションとして発信した。
周年の本質的な意義は、過去をたたえることにとどまらず、未来を「同じ目線」で見つめることである。周年を起点としたブランディングは、過去の歴史を整理し、理念を再言語化し、それらを従業員一人一人が「自分事」として捉え、クリエイティブを通じて社会に示す一連の営みである。これは、単なる記念行事ではなく、未来への約束を形にするプロセスだ。
同じ目線で未来を見つめるために、周年は「通過点」ではなく「新しい出発点」として位置付けられるべきだ。
ぜひ、周年という機会を活用し、自社の持続的成長と社会との共創を実現していただきたい。
松田電気工業の事例。創業70周年に向けて経営理念を再構築(上)
グローウィン・パートナーズの事例。創業20周年を機にビジュアル・アイデンティティーをアップデート(下)
ジェイスリー(タナベコンサルティンググループ)
代表取締役社長
インフォメーションデザインを主軸にキャリアをスタートし、インターネット創成期において大手企業サイトの構築やプロモーション企画のプロデュースを数多く手掛ける。現在はBtoB企業やスタートアップ、自治体の課題解決のため、ブランディングとDXの知見を生かしてコンサルティングを行っている。