ブランディングにおけるデザインの重要性
ブランディングは、ビジョンやコンセプトを策定して終わりではない。経営課題である以上、その活動は事業として確立され、実行プロセスが明確になっていることが重要である。そして、ブランディングを事業活動へ実装する役割を担うのが、ブランディングにおけるデザインだ。 「デザイン」という言葉には、「意匠」「造形」、もしくは「図案・模様などを考案する」という意味のほかに、「目的を持って具体的に立案・設計すること」という意味がある。ブランディングにおけるデザインとは、まさにこの意味合いが強い。 抽象的なブランド価値を事業活動へ落とし込み、その価値創造を具現化するビジネスモデルへと刷新する。そのモデルを実現するために、顧客へ一貫したブランド体験を提供し、市場での確固たる存在感を築くためのプロセスを設計する。 この工程を通じて、ブランディングの方向性を決めることが、ブランディングにおけるデザインのゴールである。このプロセスは、「ブランドデザイン」と「ブランディングプロセスの設計」の2段階に分かれ、さらにブランドデザインは、「ブランドビジネスモデルのデザイン」と「ブランドアイデンティティーのデザイン」という2ステップに分けられる。
ブランドデザイン
ブランドデザインを進めるに当たり、まずはブランドビジネスモデルのデザインから行う。このステップで実施するのは、ブランドビジョンに基づくビジネスモデルへの刷新と、それによる新たな事業化である。
事業には達成すべき数値目標が必要である。だが、ブランドには「イメージ」という測定しにくい概念が関わるため、数値化が難しい。そこで、ブランディングを定量的に評価するための指標として、大きく次の3つがある。
❶ 認知度
認知度は、ブランドの取り巻く状況にかかわらず計測可能だ。基本的には、認知度が高いブランドほど顧客との接点が多く、選ばれる確率も高まるため、収益への貢献が期待できる。
認知度を計測する母集団は、ブランドターゲットを基本とする。競合も含めてブランドセグメント内の認知度を確認し、その中で第1認知・第1想起を獲得することを初期目標に置くことで、ニッチナンバーワン戦略につなげることもできる。
❷ ブランドイメージ
ブランドイメージ調査を定期的に行っている場合、その調査結果を基に目標数値を設計する。
例えば、調査の結果、自社が打ち出したいベネフィット(提供価値)Aのイメージ想起率が10%、Bが40%だったとする。この場合、すでに想起されているBを基準に、「〇年後までにAのイメージ想起率を40%まで引き上げる」といった具体的な目標を設定する。
❸ 売り上げ
認知、比較検討、導入・購入という消費行動モデルにおいて、認知と売り上げは対極の位置にあるため、ブランディングの成果をすぐに売り上げに結び付けることは難しい。
売り上げをブランディングの成果指標とする場合、事業構造を深く理解し、売り上げを構成する要素を分解した上で、ブランディングが影響を与える要素と連動させて目標を設定する。
そのために実施すべき項目として、まずはビジネスモデルの基本設計を見直していただきたい。ブランドビジョンを踏まえ、「誰に」「何を」「どのように」提供するかという基本設計を見直す。
次に、商品・サービスモデルを設計する。4P・4C分析などのマーケティングフレームワークを活用し、競合の動向も踏まえながら、自社の商品・サービスの提供価値を整理することで、基本設計は強固なものとなる。
最後に、商品・サービスの新たなモデルに基づく収益構造の再設計を行う。事業を拡大するためには、高生産性かつ高粗利益を確保できるブランドのシェアを高めるべきである。
ブランドビジネスモデルのデザインと並行して、ブランドアイデンティティーのデザインを行う。ブランドアイデンティティーとは、ブランドが与えたい印象やイメージを視覚的・言語的に具体化したものである。特に、「VI(ビジュアルアイデンティティー)」は、コーポレートブランド、サービスブランド、商品ブランドのいずれにおいても重要な要素である。
VIの策定は、まずデザイン要素の選定から始める。これは、ブランド価値を表現するビジュアルの第一印象を方向付ける重要な工程である。視覚的要素としては、色・フォント・モチーフ(デザインの基調となる形状や装飾)、言語的要素としては、ブランドビジョンやベネフィットなどが挙げられる。
次に、KV(キービジュアル)を制作する。KVとは、ブランドの世界観を象徴する写真やイラストを指す。KVを定めることで、クリエイティブにおけるビジュアル面での一貫性を実現する。次に、ブランドネーミング・キャッチコピーを制作する。ブランド名や、ブランドの世界観を表現する言語をつくる。
次に、ブランドロゴをデザインする。これまでに作った視覚的・言語的要素を、シンボルとロゴタイプを組み合わせた1つのデザインに集約する。
VIを策定した後は、その取り扱い方法を定めた「利用ガイドライン」を策定する。ガイドラインを策定することで、どのような場面でも視認性を損なわず、一貫したブランドイメージを与えることができる。
最後に、デザインシステムの検証を行う。策定したVIをさまざまなデザインも落とし込み、実際に一貫したブランドイメージを訴求できるかを検証する。
ブランディングプロセスの設計
ブランドデザインを確立したら、次はそれをブランドターゲットに届けるためのブランディングプロセスを設計する。このプロセスは次の5ステップで進める。
❶ ブランドプロミスバリューの設計
ブランドビジネスモデルを踏まえ、あらためてブランドがターゲットに提供する価値を定義する。ブランドイメージが「企業が与えたい印象」であるのに対し、ブランドプロミスバリューは「顧客が得られる利益」を具体化する。
❷ コアファンクションの設計
定義したブランドプロミスバリューを生み出す源泉となる、具体的な企業としての取り組みを明確にする。
❸ コアタッチポイントの設計
ブランドプロミスバリューに顧客が接触した時に得られる体験シーンを具体化する。
❹ ブランドコミュニケーションの設計
❶~❸を踏まえ、顧客がブランドを認知し、比較検討を経て、最終的に選択・購入に至るまでの一連のプロセスを可視化する「カスタマージャーニーマップ」を作成する。
❺ ブランドマネジメントシステムの設計
戦略的かつ、一貫性のあるブランディングを継続し、顧客とのブランドコミュニケーションを図るために必要な社内リソースや仕組みを整備する。実行推進を担う組織体制の構築や、ブランドの品質を維持するための基準づくりなどが挙げられる。また、それらを常にアップデートし続け、ブランド価値をさらに高めていくための教育・研修制度の充実も重要だ。
ブランディングにおけるデザインは、戦略的かつ一貫性のあるブランディングを推進し、ブランドビジョンを絵に描いた餅に終わらせず、企業の成長につなげるために重要なフェーズなのである。
タナベコンサルティング
ブランディング チーフコンサルタント
全国紙新聞社、カーシェアリング事業会社、広告代理店を経てタナベコンサルティング入社。主に、流通小売業や食品・日用品メーカーなどへのマーケティング支援で培った徹底的な顧客・生活者視点のソリューション提案に強みを持つ。BtoC・BtoBを問わず、企業やサービスのブランディング・マーケティング戦略の構築から、セールスプロモーション、会員獲得の企画立案・実行まで企業の課題解決をトータルにサポートする。