建設業を取り巻く外部環境の変化
建設業を取り巻く課題は大きく二つある。今後の建設投資市場は縮小に向かうことと、人材不足がさらに深刻化することである。
建設投資市場の縮小については、①利益が出る案件の減少、②地域格差のさらなる拡大、③価格競争の激化といった面で、すでに傾向が表れている。例えば②について、首都圏では「2030年まで十分に仕事が見込める」と話す建設会社の経営者は多いが、地方の場合、「今後の建設需要は見込めない」とこぼす経営者も多い(ただし、首都圏においても利益の出る案件数は少なくなってきている)。
また、マーケットが縮小すると入札で価格競争に陥り、単価が下落する③の流れは、これまでも建築・土木市場が繰り返し経験してきた通りだ。
建設業界が直面するもう一つの課題、人材不足のさらなる深刻化については、総人口・就業者数の減少、高齢化、採用難の三つの要因がある。
1.総人口・就業者数の減少
日本の人口は、2063年に9000万人台を割ることが見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」2017年推計による)。各産業で人材の獲得競争が激化していくことは必至であり、建設業の人材不足は今後も引き続き課題であると言えよう。
さらに、これまでの20年間を見ると、建設業就業者数の減少は顕著だ。1997年のピーク時に685万人いた建設業就業者数は、2018年には503万人へ減少(約20年間で182万人減)。また、1997年に464万人いた建設技能者数は、2018年には331万人へ減少した。どちらも約20年で約7割まで減少したことになる。
2.高齢化による影響
建設業では高齢化と若年層の減少が続いている。1999年には24.5%だった建設業における55歳以上の比率は、1999年の24.5%から2018年には34.8%へ増加。一方、29歳以下の若年層は1999年には21%を占めたが、2018年には11.1%まで減少している(全産業の場合、2018年の55歳以上比率は30.2%、29歳以下比率は16.5%)。
つまり、日本全体の人口が減少する中、建設業はこの進行がいっそう顕著であり、その現実へいかに対応していくかが求められている。
3.採用難の深刻化
人材獲得力(採用力)の低さは、建設業を悩ませる最大の課題と言っても過言ではない。全業種の有効求人倍率(常用、パートタイマーを除く)は1.43倍(2019年10月)だが、建設業関連職種の有効求人倍率は6.80※1に上る。こうした現状を打破するため、建設業界では「新3K」(給料、休日、希望)の実現を目指す動きも広まっている。
建設技能者の採用が難しい現状を踏まえ、近年、海外から技能者を受け入れる企業が増えている。ある建設会社では、海外(エジプト、マレーシア)からインターンシップ生として技能者を受け入れ、一定期間後に正社員として採用している。
ちなみに、インターンシップ生の海外人材の多くはICT業務に従事しているが、彼ら・彼女らのICT技術は日本の学卒社員よりも高い。海外からのインターンシップ生は、何十倍もの倍率をくぐり抜けて実習に参加しているため、モチベーションの高い優秀な人材が集まっており、その多くは現場で即戦力として活躍している。
※1 「建築・土木・測量技術者」「建設躯体工事」「建設」「土木」の有効求職数合計に対する有効求人数合計の割合
「働き方改革」は建設業に何をもたらすか
建設業は他業種に比べ、時間外労働が多い。こうした実態を考慮し、建設業では2024年4月から「働き方改革関連法」(2019年4月施行)が適用される(5年の猶予がある)※2。ただ、就業者数の減少、高齢化、採用難といった現状を踏まえると、それでもなお法律と現状のギャップは相当大きい、というのが建築・土木会社の経営者(従事者)の実感だろう。ここで重要なのは、「働き方改革」を単なる長時間労働の削減ではなく、「生産性向上=付加価値向上」を実現するイノベーションを合わせて実施するものと捉えることである。
働き方改革関連法(時間外労働規制の見直し)にのっとり、時間外労働は原則として月45時間(年360時間)に抑制していかなければならない。建設業界において、この水準に到達できていない企業はまだ多いのが現状と思われるが、日本建設業連合会の改善目標(2019~2021年度:月80時間・年間960時間、2022~2023年度:月70時間・年間840時間)も参考に、少しずつでも取り組んでいくことが求められる。
時間外労働の削減に向けては、業務の受け手である建設業界の取り組みとともに、発注者である施主の取り組みが欠かせない。実際、国土交通省のガイドライン※3で「適正工期」「適正価格」「BIM・CIM活用」が明示されたことで、施主の仕事の出し方も変わりつつある(ただし具体的な意識・実行度合いについては、施主によってばらつきがある)。
業務の受け手である建築・土木会社が実施すべきポイントとしては、「むり・むだ・むらの排除」「仕事のシェア(女性活躍・全員活躍)」「ICTの活用」により、生産性を高めていくことだろう。
また、協力業者(パートナー企業)との関係については、日給から月給への契約改定、人材の多能工化、グループネットワーク力の強化とM&A(合併・買収)も含めた連携こそが目指すべき方向性と言える。
※2 ただし建設コンサルタント、建築設計など建設サービス業は一般企業と同様に扱われ、大企業(資本金5000万円超で従業員数100人超)が2019年4月1日から、それ以外の中小企業は2020年4月1日から適用される
※3 働き方改革関連法による改正労働基準法に基づき、5年の猶予期間後、建設業に時間外労働の罰則付き上限規制が適用される。ガイドラインは、猶予期間中においても受注者・発注者が相互の理解と協力のもとに取り組むべき事項について、指針として策定されたもの
ICT型モデルの実例
世界における先端技術の市場成長は著しい。ICT技術は今後の応用ステージで一気に進むことを考慮すれば、技術面で取り残されないためにも、ICT型モデルについて今から少しずつでもアプローチしておくことが必須と言えよう。
さらに、生産年齢人口は2050年までに約30%減少する(2018年:7516万人→2050年:5275万人)。ICT活用を例えるなら、「100人で取り組んだ仕事を70人で行う」イメージだろう。また、導入当初から「コスト削減」を見込むのではなく、「労務費を経費へ置き換える」(労務費を経費でカバーする)イメージで取り組む必要がある。
1.ICT土木
土工工事の場合、ICT技術の活用により、例えば、ドローンなどによる短時間での面的(高密度)な3次元(3D)測量、3D測量データによる設計・施工計画、ICT建設機械による施工、検査の省力化などが可能になる。
実際、ICT土工を活用することで、丁張りの短縮、精度向上、自動制御向上、遠隔操作、品質管理技術向上などのメリットがあるという。
2.タイムラプス・ウエアラブルカメラの活用
各現場にカメラを設置することで、本社、施主、建設会社などで現場の状態を遠隔でもタイムリーに確認できる。これにより、効率的で質の高い管理、現場を見ながら顧客とタイムリーな打ち合わせ、現場意識の向上(品質・安全)などの効果が得られる。
実際、ある中堅規模の建設会社では、全現場にカメラを設置したことで、業務の効率アップ・スピード向上につながり、生産性が従来と比べて著しく向上したという。
また、別の建設会社では、前日の現場撮影データをコマ送りにして見ながら全員で振り返り、安全・品質向上へのフィードバック、改善点などを話し合う活動を続けている。この取り組みによって、品質・安全面で今まで以上にレベルアップしているという。このように、成果につなげる最大のポイントはデータの活用にある。
3.建築×VR
新潟県三条市の小柳建設では、VR(仮想現実)への取り組みを進めている。VRだと、視覚・感覚的にイメージができ、施工段階では3Dで危険箇所などを事前に把握できる。同社では日本マイクロソフトと連携して建設現場でのVR活用を推進。こうした外部の専門会社とのアライアンス(事業提携)、そして自社内での専門部門の設置といった進め方も重要なポイントとなっている。
4.教育×ICT 企業内アカデミー
タナベ経営は、企業内大学「FCCアカデミー」の設立を推進している。
FCCアカデミーは、“デジタル版OJT(職場内教育)”を取り入れた人材育成システム。リアルな場での講義と併せて、自社の社員が講師を務めるオリジナル動画により現場業務のノウハウを共有できる。タナベ経営はこれまでに87社のアカデミー開設を支援している(2019年11月時点)。
アカデミーへ取り組む建設会社は多く、実施企業全体のうち、2割を建設業が占める。アカデミーには、職場によるばらつきのない教育の実施が可能な上、一人前に育つまで10年かかっていたところを、教育の仕組み化により3年で育てることができる。さらに採用においてもブランディング効果を発揮するなどのメリットがある(アカデミーの詳細については69、70ページ参照)。
ICT型モデル推進のポイント
「作業の50%はロボットへ」「管理の50%は遠隔で」――。ある大手ゼネコンで使われる言葉にも表れている通り、ICTの活用は今後ますます重要になっている。AIを使った無人化施工、溶接ロボット、無人搬送、多能工化ロボ、スマート現場事務所など、建設業界においてICT化は今後どんどん増えていくだろう。ICT型モデルを推進する上で、ポイントは三つある。
1.できることからやってみる
自社にとってICTを活用できる業務は何か、自社内に残すべきノウハウは何かを検討した上で、ICT化を進める。
2.コストを抑える工夫をする
中堅・中小企業にとって、ICT化に伴うコストを抑える工夫は必須。もしくは、「労務費を経費へ置き換える」考えで実施すべきである。
3.どこでICTを使うかを決める
工程全体についてトライアルした上で、あらためてどこでICTを使うべきか検討すると、ICT化すべきポイントが明確になる。
自社にとって最適なICT型モデルへのアプローチを、ぜひとも検討していただきたい。
建設ソリューション成長戦略研究会
「ポスト2020以降の事業戦略を考える」「ドメイン特化ブランディングモデル」「建設サービス化・PFIコンセッションモデル」など、テーマに沿った事業モデルを実践する企業の生の声から学び、成長の突破口を発見できます。
PROFILE
竹内 建一郎
Kenichiro Takeuchi
タナベ経営 経営コンサルティング本部 大阪ファンクションコンサルティング本部長。大手メーカーで商品開発の生産マネジメントに携わった経験を生かし、経営的視点による開発・生産戦略構築から現場改善まで、多くの実績を上げている。モットーは現場・現実・現品の「三現主義」。