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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2019.12.16

教える仕組みと技術を見つめ直す:山内 一成

 

 

 

部下・後輩が同じ失敗を繰り返すのはなぜか

私は現在、数社の「企業内大学(アカデミー)」設立支援コンサルティングを行っている。

例えば、建設会社のアカデミーであれば、「実行予算の組み方」「工程表の作成の仕方」「協力業者の手配のポイント」など、実務に即した必要知識・技術の学習ツール(レジュメ)を作成。レジュメに基づいた解説を動画で撮影し、インターネットのクラウド上の通信講座として配信するシステムを構築する。こうした支援を通じ、企業にとって最大の経営資源である人材の育成をお手伝いしている。

このコンサルティングをしていると、上司・先輩が部下・後輩に知識や技術を教えるシーンを見ることが多々ある。一度教えてすぐにマスターできるなら良いが、なかなかそうはいかない。そんなとき、「教え方」について考えさせられる。

何回教えても、部下や後輩が同じ失敗を繰り返すのはなぜなのか。教わる側(部下・後輩)の努力不足という可能性もあるが、教える側(会社や上司・先輩)にも課題があるのではないだろうか。そう考えたとき、要因として挙げられるのは、大きく分けて「教える仕組みの不足」「教える技術の不足」という二つである。

 

 

教えるべき内容が体系化されていない

学校教育が「学習指導要領」に基づいて行われるのに対し、多くの会社は教育・指導の基準や計画を作らずに教育を行っている。もちろん会社は教育機関ではないので、学習指導要領に該当するものがないのはやむを得ない。しかし、業務上の必要知識・技術を、難易度の低いものから順に、どういうステップで学習させていくかというガイドラインは、あった方がよい。

教わる側は、「これを学び、できるようになったら、次はこれをマスターすれば良いのだな」と、自分のレベルアップストーリーを明確に持てる。教える側も、教えなければならないことと、その手順が決まっている方が指導しやすい。

この「基準や計画がない」という問題は、教える側(上司・先輩)ではなく、会社の教育・指導の仕組みの課題である。人事制度の能力評価の組み立てなどにも関連することであり、上司・先輩(=個人)に原因を求めるべきではない。

 

 

 

教える側の教える技術が足りない

もう一つの要因は、教える側(上司・先輩)の教え方が拙いこと、つまり「教える技術」の不足にある。

製造業A社において、5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)に関するレジュメを作成するケースを具体例として解説する。

(1) 目的を伝えているか

製造業の社員なら、5Sが何なのかについては新入社員でも分かる。しかし、なぜ5Sが重要なのか、つまり5Sの「目的」についても、しっかりと伝えられているだろうか。

コンサルティングの現場で、中堅社員が作成したレジュメを見せてもらうと、目的の記載や説明がないことがよくある。普段のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)においても、指示した業務や教える内容の目的を伝えていないのではないか、という不安を禁じ得ない。

目的が不明瞭なまま教育・指導をすると、「毎日掃除はしているが、業務効率はいっこうに上がらない」という状況が生まれてしまう。「なぜそれをやるのか」まで落とし込んで教える必要がある。

(2) 定義・ルールを明確にしているか

「教える側(上司・先輩)が、定義・ルールを正しく理解しているか」という問題である。

例えば、5Sが「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」であることは教えていても、「整理とは何か」「整頓とは何か」まで教えているだろうか。

整理(必要なものと不要なものを分ける)と整頓(整える、片付ける)の違いを教えずに「5Sを徹底しろ」と言ったところで、不要なものだらけの職場では、3定管理(定められた場所に、定められたものを、定められた量だけ置く)もままならない。当然、業務効率も上がらない。

(3) 丁寧に説明しているか

日常の教育・指導シーンにおいては、「説明しなくても、このくらいのことは分かるでしょう」といった教え方になってしまうことが往々にしてある。私がレジュメを監修する際も、「もうちょっと丁寧に説明・解説しないと、理解されないだろうな」と感じるケースは多い。

例えば、清掃についてなら、清掃する場所ごとに「どのような用具を使い、どのような仕方で、どのような状態にするのか」を伝えているだろうか。この説明が不十分だと、教える側が期待する仕事の成果は得られない。

(4) 分かりやすく説明されているか

分かりやすい説明とは、一言で表すと「要約」と「ビジュアル化」だ。詳し過ぎたり、冗長だったりして、「要するにどういうことなのか」が分からない説明では相手に伝わらない。

言葉を並べるよりも、「こんなふうにして」と写真やイラストで示した方が、直感的に伝わることは多い。5S であれば、ビフォー・アフターを写真で示すのが一番分かりやすい。逆に言うと、それがなければ成果のイメージは湧きにくい。

 

 

業務遂行の技量と教える技量は別物

学校の先生は、教員免許を取得する際に学習指導案を作成したり、教育実習で先輩教師から教え方についての指導・アドバイスを受けたりする。また、実務に就いてからも、研修や勉強会に参加することができる。

しかし、一般企業では、社員のほぼ全員がそのうち“ 先生” を務めることになるにもかかわらず、教え方についての指導・アドバイスを受ける機会はほとんどない。

また、特に技術系の職種の方は、教えるより前の段階で、そもそも人と話すことが苦手というケースも多い。技能伝承の難しさは、こういうところにも要因があるのだろう。

業務の知識・技術を十分に持っていても、それを伝え、教える技術とは別物だ。教えることについて、社内でもっと指導・アドバイスし合える状況をつくることが大切である。

指導・教育の仕組みがあるか。「教える技術を教える」ことができているか。人材育成が進まない原因は、そこにあるかもしれない。いま一度、自社を見つめ直していただきたい。

 

 

 

 

PROFILE
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山内 一成
Kazunari Yamauchi
タナベ経営(現タナベコンサルティング)入社後、社員教育の企画・運営や研修教材の開発・制作などに従事。現在は、経営管理システムの構築から人材制度の構築まで幅広くコンサルティング活動を展開。特に人材教育で数多くの実績があり、体制構築、研修実施、フォローまでのきめ細かい展開で高い評価を得ている。