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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2019.09.30

企業競争力の強化を図る 「管理職の働き方改革」:川島 克也

「管理職になりたくない」社員が6割以上

 

管理職ではない社員の61.1%が「管理職に昇進したくない」との調査結果がある(厚生労働省「平成30年版労働経済の分析」)。昇進したくない理由は、「責任が重くなる」(71.3%)が最多。次いで、「業務量が増え、長時間労働になる」(65.8%)、「現在の職務内容で働き続けたい」「部下を管理・指導できる自信がない」(共に57.7%)、「賃金が上がるが、職責に見合った金額が払われない」(34.1%)が続く。(【図表】参照)

 

 

【図表】 管理職への昇進を望まない理由

※【図表】 管理職への昇進を望まない理由出典:厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」

※出典:厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」

 

 

昭和時代のサラリーマンは、「管理職に昇進して、より高い報酬を得たい」という価値観が強く、企業側もそれを前提とした人事諸制度を整備することで、社員のモチベーションを喚起してきた。しかし現在は、管理職を「責任・労働時間に見合った報酬が得られない仕事」と見る社員が増え、相対的に管理職の魅力が落ちているのが実情である。

 

確かに、社員の就業意識は多様化している。また、全ての社員が管理職に昇進できないのも事実である。それに対して、「自分のやりたい仕事、適性に合った仕事で活躍したい」という社員を生かすための制度・仕組みづくりは、企業にとって生産性向上のためにも重要な課題だ。

 

しかしながら、「責任のある仕事を任されて苦労するよりは、今の仕事を続けて、それなりの報酬をもらえれば満足」と考える社員が増えるのは、組織活性上マイナスである。

 

「社員総活躍」に関する誤解

 

現在、社員の価値観の多様化に対応するため、人事制度の複線化を進める企業が多い。例えば、市場価値の高い優れたスキルを有して、個人のパフォーマンスで組織に貢献できる社員に管理職者相当(もしくはそれ以上)の処遇を与える「専門職コース」や、地域・職務を限定して組織に貢献したい社員を処遇できる「限定コース」などは、複線化人事制度の代表例と言えよう。

 

人事の複線化は間違いなく組織活性化上、必要なテーマである。前述の通り、「組織編制上、管理職者になることができない社員」「役割・職務を限定した方が能力を発揮できる社員」「育児・出産などライフステージの変化に伴い、仕事のボリュームを落とさざるを得ない社員」に活躍してもらうため、必ず取り組まなければならない。

しかしながら、複線化に目が向き過ぎて、管理職の魅力向上への取り組みが十分ではない企業も多い。事実、「働き方改革」を進めるに当たり、非管理職者の時間外労働の削減が進んだ半面、そのしわ寄せとして、管理職者の時間外労働が増えるケースも少なくない。非管理職者の仕事を管理職者が担うことで、非管理職者の時間外労働を削減しているのだ。

 

また、非管理職者には時間外労働手当が支給されるのに対し、管理職者には時間外労働手当が十分に支払われないため、非管理職の賃金が管理職よりも高くなる逆転現象は、ほとんどの企業で発生していると思われる。

 

業種・業態によって差はあるが、企業戦略は「組織・チーム単位で遂行される」のが原則であり、その原動力となるのは、紛れもなく「管理職・リーダー」である。モチベーションの低い管理職、長時間労働で疲弊したリーダーに率いられた組織。また、そうしたリーダーに魅力を感じていない部下が集まった組織で、戦略目標を達成できる可能性は低い。

 

そうした意味でも、管理職者の魅力向上とモチベーションアップは、企業の戦略推進上の重要課題と言える。

 

管理職に昇進できない(したくない)社員に活躍機会を与えることは必要だが、管理職の魅力を高め、管理職を目指そうという社員を増やさなければ、組織活力は向上しないのである。

 

 

管理職の「働き方改革」の推進

 

管理職の働き方改革については、2019年4月に「労働安全衛生法」関連省令が改正され、一般従業員だけに求められていた労働時間の把握を、管理職にまで拡大している。この改正の目的は、一般従業員と労働内容が実質的に変わらない管理職の過重労働を抑制することだが、企業もこの機会をプラスに捉え、「管理職の働き方改革」に取り組んでいただきたい。

 

管理職の働き方改革を進める判断基準として参考になるのが、冒頭で紹介した厚生労働省の資料である。「管理職以上(役員含む)の昇進を希望する理由」は、「賃金が上がる」(87.2%)が最も多く、次いで「やりがいのある仕事ができる」(73.6%)、「仕事の裁量度が高まる」(68.0%)、「部下を管理・指導する能力を向上させたい」(59.4%)となっている。

 

賃金については、総額人件費の関係から即対応することは難しいが、次のような管理職の報酬向上策は検討できる。

 

① 賞与制度(決算賞与も含む)を再構築し、管理職へ優先的に成果配分が行われる仕組みの導入を検討する(毎年、安定的に賞与原資が確保できるようになれば月額賃金のベースアップを検討する)

 

② 賃金カーブの再設計を通して、「能力」と「仕事」と「報酬」のバランスを図る。その中で得られた原資を、管理職に優先的に配分する(例えば、限定社員制度を導入して総合職と賃金格差をつけ、その格差から得られる原資を管理職に配分するなど)

 

③ 将来の要員計画の策定において、生産性向上による人員・外注費削減目標を設定する。生産性向上によって得られた原資を管理職に優先的に配分する(生産性向上の実現において管理職がリーダーシップを発揮することが前提)

この対策は、企業の実情によって「考え方」に差が生じる。その中で、管理職の働き方改革として取り組むべき課題は、「やりがい」の見える化と能力向上に向けたサポート(=教育システム)である。

 

「管理職の魅力が低い」と感じている社員が多い企業には、次の二つの共通点がある。

 

① 管理職の役割を明確に定義したものがない。または、規定されていても実態とかけ離れている、もしくは活用されていない

 

② 管理職に昇進する前後に、必要なマネジメント研修が行われていない

近年の管理職は、「労務管理」において多くの専門知識が求められ、また多様な人材を管理する必要があるなど、難易度が高くなっている。こうしたことから、一般社員の「管理職に昇進する不安」が高まっているのも、昇進に消極的な社員が増えている要因の一つだろう。

 

まずは、自社の管理職の役割・責任を定義し、その役割・責任を果たすための能力開発の仕組みづくりを始めることが、「管理職の働き方改革」の一丁目一番地だ。役割・責任が明確になれば、それを基準に業務改善も進めやすくなり、長時間労働の解消効果も期待できる。

 

PROFILE
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川島 克也
Katsuya Kawashima
経営全般からマーケティング戦略構築、企業の独自性を生かした人事戦略の構築など、幅広いコンサルティング分野で活躍中。企業の競争力向上に向けた戦略構築と、強みを生かす人事戦略の連携により、数多くの優良企業の成長を実現している。