決めたことが守られない、結果として成果が出ない――。このような課題を抱える企業は多い(皆さまはいかがだろうか)。
私はかねてより、「戦略は二流でも、実行力が一流の企業が生き残る」と提言している。不確実性の高い今の時代に必要なのは、まさに「実行力」である。
ここで留意いただきたいのが、「行動力」と「実行力」は違うということだ。行動力とは、「目的のために積極的に行動する力」。実行力とは、「計画などを実行に移し、達成する力」である。いずれも行動を起こすことが大前提だが、単に動いているか、計画を達成するかという本質的な違いがある。成果の出ない行動は無駄であり、逆にやらない方がよい。
例えば、PDCAサイクルを回そうと動いているつもりでも、実際にはまったく回っていないことがよくある。よくある症状が「PPPP病」。一般にPDCAサイクルは「計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)」という4段階を指すが、計画を実行に移す力が足りず、計画を作ることに満足して計画倒れで終わってしまう。計画策定が“目的”になっている人がいる。
もう一つは「PDPD病」。計画を行動に移すが、振り返りや改善がなく結果として成果が出ない。「とにかく何も考えず走ってみろ!」「行動すれば、その先に必ず何か得るものがある」という精神論で、「頑張る」の意味をはき違えている(そんな時代はもう終わっている)。
これら二つが、実行力未発揮の代表的な症状である。【図表1】を参考に、真の実行力強化を図っていただきたい。
「働き方改革」への取り組みが進む中、企業は“残業ゼロ”で今まで以上の成果(業績)を上げる必要が出てきた。ただ、経営陣も従業員も「総論賛成・各論反対」というのが本音ではないだろうか。
反対する理由はさまざまであるが、その多くは「どうすればよいのか分からないから」。すなわち、具体的な方法が見えないからだと思われる。ここで「見える化」の手法が大いに活用できる。見える化とは、「問題点を可視化して課題解決する手法」だからだ。
働き方改革の観点で考えると、まず生産性を定義する必要がある。生産性とはインプット(経営資源)とアウトプット(成果)のバランスであり、高い方が良い。そこで「総労働時間」を、「主体業務時間」(成果を出すための業務を行っている時間)と「付帯業務時間」(それ以外の業務を行っている時間)に分類すると、【図表2】のように表せる。
超過勤務時間(いわゆる“残業”)を含む総労働時間に対して主体業務時間の割合が低い場合は、組織・マネジメント・オペレーションに課題がある。一方、主体業務時間に対して成果(業績)の割合が低い場合、ビジネスモデル(事業の仕組み)自体を見直す必要がある。
次に、それぞれの課題について見える化を行っていく。
(1)組織・マネジメント・オペレーション
こちらは業務フローやマネジメント、人材育成といった課題に区分されるが、特に見える化すべきは「業務フロー上の問題」である。
一連の業務で、不要な工程や非効率な工程が改善されずに放置されていることが多い。例えば、高付加価値の創造を期待されている人材が、付加価値の低いルーティン業務を担当しているなど、業務改善が行われていない。このような企業においては、役割分担が不明確であり、ミスが発生した場合の責任の所在や原因分析も曖昧である。
これを見える化するには、現状認識、すなわち業務の棚卸しが必要なことは言うまでもない。重要なポイントは、「幹」(全体像)から洗い出しを行うことである。“枝”(個別の業務、タスク)から議論すると、抜けや漏れが出て部分的な改善となる。ネックとなる工程はタスク単位よりも工程間のつなぎ目で起こることが多いからだ。
(2)ビジネスモデル
企業間のシェア争いが激しい、または特定顧客への依存度が高い収益構造で付加価値を維持するには、「量」の増加が必要となるため、長時間労働が発生しやすい。このような企業は、社長や経営幹部などトップ自身が目先の利益確保に追われ、ビジネスモデルを転換しにくい(転換を考える時間がない)。しかし、そのままでは「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり」(石川啄木)という負のスパイラルに陥ってしまう。
ここでも見える化が役に立つ。手法としては、「ビジネスモデルキャンバス」(【図表3】)が有用である。これは、ビジネスモデルをパートナー、主要活動、リソース、価値提案、顧客との関係、チャネル、顧客セグメント、コスト構造、収益の流れという九つの要素に分けて整理するものだ。複雑に絡み合ったビジネスモデルを“因数分解”し、可視化を試みれば各構成要素の相互関係を理解することができる。
【図表3】 ビジネスモデルキャンバス(BMC)
改善・改革の“一丁目一番地”は現状の見える化に他ならない。ここを正しく実施しない限り、行動しても成果が出ず、実行力も不十分となる。現状を正しく捉え、膿を出し切ることで実行力が磨かれる。
見える化手法の活用が、実行力を強化するためには非常に重要であることをお伝えしてきた。しかし、紙やホワイトボードに記入する従来のやり方では、作業負荷や管理コストがかかって中途半端に終わったり、記入と更新が目的となってしまったりするケースもある。
手書きで更新した進捗管理ボードの前でチームミーティングを行い、現状の課題と要因、対策を検討するなど、「全員参加活動」としての運用は大いに進めていただきたい。しかし、その判断の基となる業績資料の作成や更新、マーケットデータの収集などは自動化、効率化すべきである。つまり、アナログとデジタルが有機的に結合した、「進化型の見える化」に挑戦していただきたいのだ。
具体的な手法としては、AI、IoT、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などがある。RPAとは、ロボット技術を活用して単純なオフィスワークを自動化するテクノロジーだ。付加価値の低い定型業務を、24時間ミス知らず、疲れ知らずのデジタルレイバー(知的仮想労働者)に移すことで、本来、人が行うべき付加価値創造業務に時間を投下することが可能となる。
もっとも、先端技術を活用するといっても、あくまで基本はアナログ的な活動による全員参加の体質化である。どんなに優れたITツールが生み出されようと、それを使うのは人だからだ。業務の見える化を徹底し、正しいプロセスへ改善した上で、システムを導入する。属人化したプロセスを自動化しても、失敗するだけである。
なお、タナベ経営ではRPA導入支援事業を展開するキューアンドエーワークス㈱(以降、QAW)と提携し、RPAを活用した業務改善コンサルティングサービス「Robo Working」を共同開発した。中堅・中小企業の煩雑なオフィスワークに対し、タナベが業務フローの課題の洗い出しと改善計画を策定。その改善プロセスに沿って、QAWがRPAによる業務自動化を支援し、アナログとデジタルの両面から生産性向上に資する。
私の経験上、実行力のある企業は、アナログとデジタルの活用バランスが実に素晴らしい。自社なりの“黄金比”を持っており、日々の業務の中でPDCAを回して、継続的に改善を図っている。そのポイントを三つにまとめると、
①目的と手段を見失わないこと
②行動し続けること
③やりっぱなしにしないこと
となる。この三つは、成果を出すための実行力強化のシンプルなツールである。働き方改革、イノベーションで大いに活用いただきたい。