【図表】消費者の購買行動プロセスの進展
変わらない「口コミ」の重要性と顧客との接点の変化
小売り・サービス業の店舗経営において、「顧客が顧客を呼ぶ」、いわゆる「口コミ」を広げる仕組みづくりは重要である。その根幹が、顧客満足度の向上であることは、すでに業界の常識となっている。現在も、口コミが最も重要な要素だということは本質的に変わりないが、その顧客との接点(コミュニケーション・ツール)は大きく変化している。
現在の情報社会では、かつて主流であったテレビCMなどのマス広告に加え、インターネット広告やFacebook、Instagramなどに代表されるソーシャルメディア(SNS)広告が普及している。ネット広告に関しても、単なる一方通行の情報発信ではなく、ビッグデータの活用といった双方向的な情報活用が当たり前になってきている。
これにより消費者の購買行動も大きく変化しており、かつてはAIDMA(アイドマ)と呼ばれた行動プロセスが、AISAS※(アイサス)、SIPS(シップス)と呼ばれる行動プロセスに変化している。単純に情報を伝えるのではなく、「共感」を出発点にして顧客をファン化していくことが重要になっていると言える。(【図表】)
このように多様化する消費者ニーズに対し、中小企業がとるべき顧客コミュニケーション戦略はどのようなものか。大きなステップに分けると、「現状認識」、「ターゲットの具体化」(誰に伝えるか)、「メッセージの具体化」(何をどのように伝えるか)の3ステップである。
※電通の登録商標
Step1 現状認識
まずは自社の強みを基に方向性を決める。顧客の声や購買行動、自社のビジョンからコミュニケーション戦略の方向性を明確化していくのである。自社の商品・サービスは、誰に、何(商品・サービス)を通じて、どのように(手段・接点)、どんな価値(コト)を提供するのかをまとめていく。
ここでのポイントは、適切なデータ収集と分析である。顧客の声などの具体的な内容から強みと弱みを明確化していくため、根拠となるデータの質が重要になる。適切なデータ収集のためには、ある程度の仮説を立てておく必要がある。その仮説に基づいてアンケートを行ったり、イベントでヒアリングを実施したりすることで、必要なデータを集める。
Step2 ターゲットの具体化
次に、Step1で見えてきたターゲットをより掘り下げていく。ここでは、「誰に」という部分が非常に重要となってくる。ポイントは、できる限り具体的に絞り込んだターゲット設定を行うことである。その際は、ペルソナ(ある1人の架空の顧客像をイメージすること)を設定するとよい。
例えば、「40歳代の主婦」というターゲット像だけでは漠然としたメッセージしか打ち出せず、さまざまな広告媒体に満遍なく手間と費用をかける必要が生じてしまう。そうではなく、ペルソナを設定することで「同居の息子がいる、日中はパートに出ている、休日は家族でショッピングに出掛ける」などの生活スタイルや、「料理には一工夫を凝らしたい、健康志向・美容促進に興味がある」などの趣味・趣向を押さえることで、どのようなメッセージをどんな接点・タイミングで伝えるべきかが見えてくる。
適切なペルソナを設定するためには、POS(販売時点情報管理)レジやアプリからの顧客情報と購買動向、自社サイトを訪問するユーザー情報をより詳細に収集・分析できる仕組みを作っておく必要がある。
Step3 メッセージの具体化
最後に、自社の強みと顧客価値の最大公約数をメッセージとして具体化し、発信する。ポイントは、期待する行動を明確にイメージしておくことと、最適な接点(コミュニケーション・ツール)で伝えることである。来店頻度を増やしてほしいのか、購入単価を上げてほしいのか、誰かを紹介してほしいのか、それぞれでメッセージの内容は変わるはずだ。
メッセージの目的が決まれば、ターゲットのペルソナを基に、どのような接点で、いつのタイミングで発信すれば、より伝わるかを検討する。この接点は単体で考えるのではなく、他のものと連動させて情報拡散を促すことが重要となる。例えば、マス広告やSNSで興味を引き、ネットで検索させて来店を促し、SNSでの共有やアプリのダウンロードでポイントを還元するといった形である。
テクニックで言えば、SNSや広告でメッセージを伝える際は、自社の強みや“オススメ”を打ち出すというのではなく、ターゲットの興味を引くことを第一にして、その上で自社の強みを感じてもらえるようにすることが重要である。前述のペルソナ設定に合わせると、「○○の商品が安くてオススメ!」という内容よりも、「今が旬の○○は△△の作用で美容に効果的」という内容の方がターゲットには刺さる。
顧客コミュニケーション戦略の要
コミュニケーション・ツールを活用し、ターゲットにメッセージを伝えることで顧客行動を変化させていく仕組みづくりの基本は以上だが、顧客満足度向上の要は、あくまでも実店舗での商品・接客サービスというアナログな部分にあることを忘れてはならない。コミュニケーション戦略で伝えるメッセージがいかにターゲットのニーズを捉えていても、実店舗で感じる印象が違えば、満足度は上がるどころか下がり、逆効果になる可能性が高い。
そのため従業員はもちろん、パート・アルバイトにも戦略の要点を浸透させ、メッセージと日々のオペレーションに一貫性を持たせられないと、効果は期待できない。
単なる販売促進ではなく、デジタルとアナログをうまく連動させて顧客とのコミュニケーションを改善することで、重点顧客に選ばれ続け、その顧客が新しい顧客を呼ぶ善循環の仕組みづくりを進めていただきたい。