活躍できる場の提供は、「未来の会社」づくり:岩谷 充史
生産年齢人口の減少や新卒者・転職者の大企業志向の高まりなどにより、中小企業の人手不足が深刻化している。中小企業基盤整備機構が実施している「中小企業景況調査」から従業員数過不足DI※の推移を見ると、全ての業種で2009年をピークにマイナスへ転じている。特に建設業やサービス業での人手不足感が顕著である。(【図表1】)
新卒採用の難しさもさることながら、「多様化する顧客ニーズへの対応」や「新規事業展開」に必要な中核人材(【図表2】)の不足が、中小企業の成長制約要因ともなっている。そこで本稿では、10年後の売り上げ倍増計画を掲げたA社における、中核人材の育成事例について紹介したい。
※従業員数が「過剰」と答えた企業割合から、「不足」と答えた企業割合を引いたもの
【図表1】業種別従業員数過不足DIの推移
【図表2】人材の定義
「ハイブリッド型」チームの発足
A社の社長(就任2年目)は、前社長の強烈なカリスマ性で築き上げられた「社長絶対主義」「社員が考えられない組織」からの脱却が課題であった。前社長のトップダウンの弊害で、管理職層は前向きな発想ができず、それに伴って部下も実行力を欠くケースが多々あった。
社長は、「部門単位ではなく、一人一人がこれまでの既成概念を取り払い、旧体質から脱却して自立型組織に進化できなければ、10年ビジョンの実現はあり得ない。若手・中堅社員が会社の未来を考える機会をつくりたい」という熱い思いから、「全員活躍ハイブリッド型組織の実現」を掲げ、部門・役職・年齢も関係のない6つのプロジェクトチームを発足した。
プロジェクトチームの活動テーマは、事業拡大や生産性向上、管理会計、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント:顧客関係管理)などさまざま。課長クラスの管理職メンバーはオブザーバー程度の関与にとどめ、プロジェクト推進の中心メンバーは30代半ばまでのメンバー構成とした。
プロジェクトリーダーは若手・中堅メンバーが担い、社長への意見具申も行う。A社の場合、若手・中堅メンバーにはトップダウン型組織の風土が染み付いていなかったため、ベテラン社員から出てこないような新しい発想を多く生み出した。また、このプロジェクト活動が定期的な他部門メンバーとのディスカッションの場となり、組織上、役職を持たないメンバーも全社最適で物事を考えるよいトレーニングにもなっている。
そして、プロジェクトの参画メンバーは「自分たちが考えたことを実行・推進できる」とイキイキとし、目に見える形で組織が活性化してきたのだ。特に私が驚いたのは、プロジェクト活動の中で最も目を見張る活躍を見せていたメンバーが、なんと入社2年目の社員だったことである。
現場業務・バックオフィスから顧客創造活動へ
次に、A社のプロジェクトチームの中から、「生産性改善」チームの取り組み事例を紹介したい。
同チームの主な取り組みテーマは、工場を中心としたIT・ロボット化や業務の平準化などによる生産性向上である。活動の第1弾として実行したのが、工場内の商品を配送パレットへ移し替える工程でのロボット導入であった。
同チームにおいて、年間の製造計画をベースにした投資回収シミュレーションを作成して、検証~設備導入までを実行。そして削減した労働力の付加価値業務化に対して、計画立案・実行サポートを行った。その中で、チームが計画した付加価値業務が「工場作業員の顧客創造活動」であった。
これは、A社の「全員でお客さまと向き合おう」という年度スローガンの実現に向けた、一つの取り組みである。顧客とのコミュニケーションを通じて、普段は現場で働き、顧客の顔が見えなかった作業員も、意見・要望の中から商品開発のヒントを得たり、顧客との向き合い方を考えさせられたりといった、さまざまな発見があったようだ。
選抜メンバーによる新たなチームを組成
この作業員の顧客創造活動を成功事例として、現在では間接部門も含め、全社活動として実施しており、その情報をCRMチームが集約して活用している。
その後、A社では当初立ち上げた6つのプロジェクトチームから若手・中堅メンバー8名を選抜し、「未来の中核人材候補」としてさらなるプロジェクトチームを組成した。現在、そのチームはA社のビジョン実現に向かって活動を始めている。
社員に活躍の場を提供し、「中核人材」候補を発掘する方法として、ハイブリッド型組織を推進する企業事例を紹介した。日常のルーティン業務だけでは、社員の本来の能力が発揮されているかどうかは分かりにくいものだ。中核人材候補や若手社員に活躍の場を与えることで、彼ら・彼女らのモチベーションアップにもつながり、本来の能力を発揮することが期待できる。
自社の未来への成長を見据え、「中核人材候補・若手社員」へ活躍の場を開いてほしい。