メインビジュアルの画像
コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2018.11.30

“あたらしい”を生み出す これからのチームづくり:森井 修

201812_01_case4_01

 

①あたらしいを支える「企業風土」

社員は評価が下がることを恐れ、あたらしいことへの行動は消極的になりがちです。「失敗」を恐れず、「挑戦」を歓迎し、その意欲を支える「企業風土(土壌)」がチームづくりには最も必要です。

②あたらしいを育てる「仕組み」づくり

チームを編成しても、その方向性を誤れば、目標を達成できないまま、やがて解散の憂き目にあうことがあります。それを防ぐためにも、あたらしいを育てるチームのパフォーマンス発揮に向けた「仕組み」が必要です。

③あたらしいを生み出す「人」づくり

社員のやる気は、現場改善、事業アイデアなどのあたらしいを生み出すことにつながります。その知恵の発揮がチームづくりの基盤となります。そのためにも弛たゆまざる行動に挑戦する「人づくり」が必要です。

 

 

タナベ経営では、ファーストコールカンパニーの5つの宣言(条件)の中で「顧客価値のあくなき追求」と「自由闊達に開発する組織づくり」を挙げている。高度に専門化する顧客価値へ対応するにはあたらしいビジネスモデルの構築が必要であるが、それを実現するには個々の力だけで解決できないほど課題が複雑化しており、従来の機能別や事業別組織の枠を超える。会社間や産学官など、これまでにない枠組みを超えた“チームづくり”が必要である。

 

しかしながら、新規事業への取り組みや、さまざまなチーム運営における苦労話は、そのプロジェクトの大小にかかわらずよく聞く話でもある。では、“あたらしい”ビジネスモデルを生み出すための、これからのチームづくりには何が必要なのだろうか。

 

 

①「企業風土」づくり

 

“あたらしい”を生み出すとは、良いものを生み出すための前提条件であり、いわば価値創造活動である。誰からも指示されていないのに、「このようなことに取り組んでみたのですが」と、自律性をもって社員が提案を行う。その活動の積み重ねが業務改善へつながることが理想である。

 

かなり以前の話になるが、私がかつてタナベ経営の総務部に在籍していた頃、毎月発行する手書きの伝票起票をExcel(エクセル)で発行することに取り組んだところ、いつの間にか経理部でそれが取り入れられ、社内に伝播していったことがある。

 

もし、そこで「勝手なことをするな」と誰かに言われていれば、そのアイデアは“お蔵入り”したであろう。今となっては、私の意をくんでくれた上司や周囲のサポートに対し、感謝の念に堪えない。

 

どのような仕事にも、目に見えない工夫があり、携わっているその人なりの努力があり、最後は仕事への矜持につながる。となれば、“あたらしい”を生み出す源泉には「失敗」を恐れず、挑戦を歓迎するといった、「企業風土づくり」という前提条件があってこそ成り立つのではないか。

 

おそらく、この考え方は事業開発においても同様であろう。例えば、私が主宰する「人材マネジメント研究会」のゲストとして招聘したスマイルズは、売上高2億円の会社を50社誕生させるという「100億経営ビジョン」を目指していた。そのための事業アイデアの発案を社員に委ね、それを育成していく土壌があった。業務時間の20%を全くあたらしいビジネスの時間に充てて「1000の花」を咲かせるといった特集1チームビルディングGoogleの取り組みにも通じる。

 

本号でご登場いただいた、関西学院大学アメリカンフットボール部監督の鳥内秀晃氏が取り組む「自分で目標を考え、発言し、実行する能力を磨く」ということも、“あたらしい”を生み出す企業風土づくりの参考になるだろう。

 

そもそも、社員は自分の評価が下がることを恐れ、新しいことに対する行動は消極的になりがちだ。特に、昨今は高い生産性が求められるが、物事を生み出すことと、時間生産性は相反する。「隙間があれば生命は必ず育つ」という法則があるとすれば、“あたらしい”を生み出すためには、そういった企業風土づくりが大前提であると言っても過言ではない。

※名和高司著『成長企業の法則ーー世界トップ100社に見る21世紀型経営のセオリー』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より

 

 

②“あたらしい”を育てる「仕組み」づくり

 

タナベ経営の新入社員セミナーでは、初めて顔を会わせるメンバーが与えられた課題に取り組むコンセンサスゲームを通じ、組織の在り方を体得してもらうカリキュラムがある。目的の共有、メンバー内でのリーダーシップなどの役割を決めなければ、組織に与えられた目標が達成できないというものだ。初めて顔を合わせる人たちとの間で、即座にチームビルディングを実践していく必要がある。

 

しかし、研修の中でそれを理解できたとしても、現実の職場で実践するのはなかなか難しい。チームを編成しても、方向性を誤れば目的を達成できないまま、解散の憂き目に遭うことが起こりがちだ。

 

その理由としては、企業・組織研究の第一人者である立教大学中原淳教授の愛弟子、田中聡助教が、「周囲の人々をどう巻き込んで進めていくのか、という問題に対する取り組みはあまり重視されていない」とし、その対策として「出したアイデアを形にするために必要な資源やサポートが供給される構造が、組織内にあるかに尽きる」と指摘している(『事業を創る人の大研究』、クロスメディア・パブリッシング)。つまり、新たな発想を考え出しても、孤立させないようにそれを育てる「社内の仕組み」が不可欠である。(【図表】)

 

新しいチームは、リーダーに押し付けたり、メンバーに任せきりにしたりという構図に陥りがちだ。それを防ぐ仕組みとしては、チームビルディングに代表される「チームづくりの基本」と、チームを生かすための「企業風土に合った人材マネジメント」が必要であると私は考える。

 

その2つの仕組みの構築には、これまで「人材マネジメント研究会」に出講していただいたゲスト講師のアプローチ事例が参考になる。

 

例えば、数多くのWeb系組織の誕生に携わった楽天大学学長・仲山進也氏は、グループメンバーのコミュニケーションの量を倍増させ、質を上げていくことで目標を勝ち取るチームへと生まれ変わらせた。グループからチームへと昇華させる「チームづくりの基本」を学習することなしに、チームをつくることはできないのだ。また、パプアニューギニア海産の自由な出勤スタイルなどは、従業員一人一人が自らの力を発揮できる職場づくりであり、企業風土に基づいた独自性のある仕組みとも言える。

 

職場では、ある役割を与えられた人が、その仕事を長く取り組むことに納得していないというケースもある。さまざまな経験を積みたいと思う人にとっては、長年同じことを続ける重要性を理解していても、ある程度上達すれば、さらに別の経験をしてみたいという欲望に駆られることはままある(そこに本来の人事異動の意味があるのだが)。

 

“あたらしい”を育てるチームにパフォーマンスを発揮させるためにも、やはり企業風土に合った「仕組み」は不可欠なのだ。

 

 

201812_01_case4_02

出典:田中聡・中原淳共著『事業を創る人の大研究』(クロスメディア・パブリッシング)

PROFILE
著者画像
森井 修
Osamu Morii
タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長 人材マネジメント研究会 リーダー。企業規模・業種にかかわらず、一貫して「人」を中心としたコンサルティングに従事し、組織・人事をはじめ、バックオフィスの課題に対し、実践的な改善策をアドバイス。豊富な体験に基づいたコンサルティングで、多くの企業から高い評価を受けている。人材マネジメント研究会リーダーとしても、幅広く活躍中。