新規開拓受難時代
こんなデータがある。法人営業社員に「最も苦痛なことは何か」を聞いたところ、1位が「新規見込み客への飛び込み営業」、2位が「新規見込み客へのテレアポ」で、“新規開拓”が上位を占めた。また「目標達成の課題は何か」を聞くと、1位が「新規見込み客の獲得」、2位が「見込み客へのアプローチ方法」だった(イノベーション調べ、2015年)。つまりBtoB(企業間取引)の営業社員の多くは新規開拓に課題を抱えているが、見込み客獲得のための最適なアプローチが分からず、苦痛を感じているということになる。
今はインターネットで情報を容易に入手できるため、売り込まれる側にすれば営業担当者が来て説明するというプロセスは不要となりつつある。よって従来の営業活動だけでは見込み客の開拓や購買意思決定に影響を与えることが難しくなっている。
一方、営業活動で重要性が高まっているのがWebの活用だ。従来の営業活動を強化するより、いかにWeb上で自社の商品・サービスを見つけてもらい、必要と認識してもらうかに注力する方が売り上げ拡大の近道になる。
そこで本稿では、BtoB営業でのWeb活用について述べていきたい。
事業戦略からWeb活用戦略への落とし込み
事業の本質は「誰に」「何を」提供するのかで決まる。このプロセスの中で、Webが担う「ターゲット」と「提供価値」を明確にすることがWeb戦略の設計において最重要となる。この2点について、マーケティングの格言「ドリルを買う人が欲しいのはドリルではなく、穴である」に置き換えてお伝えしたい。
まず、ターゲットのポイントは「絞り込み」である。例えば、「穴を開ける手段としてドリルを探しているクライアント」か、もしくは「穴を開ける手段を探しているクライアント」か。前者をターゲットに設定する場合は、競合他社が扱うドリルとの差別化要素を訴求する必要がある。一方、後者の場合は、まずドリルという手段を認知してもらわねばならない。このように、ターゲットによって取るべきWeb戦略は変わってくる。
次に提供価値については、前述した設定ターゲットに対し、本質的な価値を訴求することだ。ドリルをPRするWebサイトで最も訴求すべきは、ドリルの商品写真ではない。他社製品に比べてどれほど使いやすいか、あるいはどんな形状の穴が開けられるか、などである。
BtoBにおいては、見込み客発掘から成約までの全てのフローをWebで担えるケースは少ない。また、営業手法が企業によって違うように、Web活用方法も企業によって異なる。競合他社の状況や市場・商品特性を鑑み、フローのどの部分をWebに担わせるか、自社に合ったWeb戦略を検討していただきたい。
Web活用における注意点
次に、Web活用の推進に当たって、注意点を3点お伝えしたい。
【図表】BtoBビジネスにおける見込み顧客獲得型のWeb活用フロー(例)
(1)営業活動とのシナジー
BtoBにおける見込み客獲得型のWeb活用フローを示したものが右上の【図表】である。この場合、Webが担う役割は潜在的に眠っている顧客を顕在化させることだ。顕在化させることがゴールのため、当然、Webだけでは売り上げという成果に結び付かない。顕在化された顧客を営業担当者がフォローアップし、成果につなげる必要がある。
よって、営業担当者がWeb活用の取り組みをしっかりと理解し、Webから得た見込み客であることを認識した上で、営業活動を行っていく。Webのコンテンツ開発段階においては、見込み客に近いクライアントと接点を持つ営業担当者の意見を反映させるなどの連携も考えられる。
顧客創造活動の全てをWebに担わせるのは難しい。従って、成功の鍵を握るのは従来の営業活動とのシナジー(相乗効果)をどこまで発揮できるかということになる。Web活用を一連の営業活動の一端を担う位置付けと捉え、Web担当者と営業担当者が協同することが重要だ。
(2)経営課題として取り組む
Web活用がうまくいってない企業を見ていると、その原因の多くは、経営陣のWeb活用に対する理解の不足にあると言っていい。経営資源を配分しない、Web活用を前提とした評価体制が整っていないなど、経営レベルでWeb活用を捉えきれていない。BtoBでは、BtoC(企業対消費者間取引)のようにWebと売り上げが直結しないだけに、どうしてもWeb活用が軽視されがちである。
経営陣がWeb活用の重要性を経営課題として認識し、Webの可能性と難易度を把握する必要がある。その理解をもってリーダーシップを発揮し、部門最適ではなく全社最適としてWeb活用を推進する土壌を整えていただきたい。
(3)PDCAを継続させる
Web施策の一つの特徴に「効果測定性」が挙げられる。一般に普及している解析ツールで、ユーザーのWeb上の動きを可視化することができるのだ。例えば、自社のホームページにどういった属性のユーザーが、何をきっかけに来訪し、ホームページ上をどのように動いたかが高い精度で把握できる。この特性を最大限に活用することが、Web施策の成功可否を握る。
「ホームページをリニューアルした。当社はWebを活用済みだ」と話す経営者も見掛けるが、“Web活用”とはそういうことではない。定期的にユーザーのWeb上の行動を検証し、適宜、対策を打っていくPDCAを継続させることが欠かせない。Web活用の成功は、PDCAを継続して回せる体制が構築できるかどうかという、組織面での取り組みも重要なのだ。