事業を取り巻く環境
顧客ニーズの多様化、IT技術の革新的な進化、オープンイノベーション、働き方改革、異業種からの参入など、企業を取り巻く経営環境は日々目まぐるしく変化している。その中で新たな収益の柱となる事業の創造は、企業にとって常に考えなければならない経営課題の一つと言える。
経済産業省の調査によると、主力事業におけるライフサイクルは、GNT(グローバルニッチトップ)企業※であっても、10年以内との回答が66.7%と大半を占めている(【図表1】)。その他の企業に関して言えば、73.8%と7割を超えている状況である。つまり、顧客ニーズの多様化、技術の進化、モノ余りの現代において、ライフサイクルはどんどん短縮化しており、既存事業に固執した現状維持は近い将来の衰退を意味すると言っても過言ではない。
※ニッチ分野で高い世界シェアを有する中堅・中小企業
【図表1】主力事業におけるライフサイクル
出所:経済産業省「2016年版 ものづくり白書」
そこで、適切なライフサイクルを確保するために、多くの企業がさまざまな取り組みを行っている。前述した経済産業省の調査では、大企業、中小企業ともに「価格競争に陥らない事業領域へのシフト」を実施している企業が多い(【図表2】)。そして、そうした取り組みを行っている企業の過去3年間の売上高を見ると、減少している企業は少ない傾向が見られたという。
【図表2】 適切な製品ライフサイクルの確保の取り組み(複数回答)
出所:経済産業省「2016年版 ものづくり白書」
事業開発の着眼
新規事業のアイデアを考える時、よくマーケットインによる開発か、プロダクトアウトによる開発かが検討される。現代においてはどちらの考えが重要となるか。答えは両方だ。高度経済成長期までの日本は、モノ不足であったため2番煎じだろうが3番煎じだろうが、企業は「作れば売れる」時代であった。この時代においてはプロダクトアウト中心であったが、その後、顧客ニーズが多様化するに伴い、顧客の要望に応える製品・サービスを提供する(もっと言えば顧客の言いなり)マーケットインの傾向が高まった。
しかし、あらゆるモノ・サービスがあふれるモノ余りの現代においては、顧客課題を解決し、他社と圧倒的な差別化ができる価値提供(製品・サービス)の開発、すなわちプロダクトアウトの考えに加え、まだ顕在化していない潜在的な顧客ニーズを創造するマーケットインの両方の考え方が重要となる。
戦略的アライアンス
事業ライフサイクルが短縮化していく現在とこれからの時代、新規事業を推進する上で欠かせないのが、外部リソースの活用、つまりアライアンス(提携)だ。従来のように、自前主義で全て完結させようとすると、そこにかけるヒト・モノ・カネのコストが大きくかかり、上市(市販)する時はすでに他社が先行している、という場合もあり得る。
アライアンスには、開発コストや時間を大幅に削減できるメリットがあり、スピーディーに開発を進めるためにも、自社にないノウハウ・技術は外部リソースの活用で補填し、自前主義から脱却しなければならない。また、オープンイノベーションで自社の技術を外部に発信することも、アライアンスや新規事業につながる大きなきっかけとなる。
自社の技術を外部に発信することによって、これまで自分たちでは気付かなかった分野への技術の応用を、外部から提案してもらうことができる。「競争」ではなく「共創」という考えで、アライアンス先とWin-Winの関係を築き、圧倒的な顧客価値を開発してほしい。
トップの判断
例えば、経営戦略室やプロジェクトチームから新規事業のアイデアや事業計画が提案されても、中堅・中小企業においては最終的にゴーサインを出すのは社長である場合が多いだろう。その際、投資費用の金額面における不安や、その事業案が本当に成功するかどうか確信が持てないなどの理由から、結局、お蔵入りになってしまったというケースをよく見かける。
リスク管理はもちろん重要だが、失敗ばかりを恐れず、むしろ「失敗してもオーケー」という気概と、適度なリスクテークでどんどんチャレンジしていく企業風土を築きたい。
また、「3年で黒字化しなければ撤退」というように、撤退基準も明確にし、その中でどのようにアクションを起こしていかねばならないか、徹底的に戦略を組み、やり切ることが大切である。
アイデアだけでは机上の空論だ。実行しなければ成功するものも成功しない。ぜひ、思い切ったトップの判断で積極的に推進してほしい。
新たな顧客価値を創造する
5年後、10年後の市場はどう変化していくか。自社の業界だけにとらわれず広く予測し、その市場にはどんな製品・サービスが必要となってくるのかを考える。そして、その製品・サービスを具現化するために自社のどんな技術が応用・展開できそうか。また、不足している技術・ノウハウがあればアライアンスで補えるか。将来の仮説から振り返って現在の自社は何をすべきか(バックキャスト)、誰と組むのかを検討してほしい。潜在ニーズを掘り起こし、新たな顧客価値を創造して、皆さんがニッチトップ企業となることを願っている。