外食関連業界の現状
外食関連業界は、新規参入障壁の低さから個人事業者が開業しやすい。しかし、資本力がある大企業との価格競争や、競合との同質化に巻き込まれ、倒産・廃業に至るケースが多く見られる。その他にも、原材料高騰による利益の圧迫、生産年齢人口(15~64歳人口)の減少による働き手不足も大きな要因だろう。
帝国データバンクの調べによると、2017年の1年間に倒産した外食関連業者は707件(前年比26.9%増)となり、2000年以降で最多だったという(【図表】)。今後も人件費高騰に伴う収益悪化や、人口減少エリアでの売り上げ減少など、人手不足による倒産増加が懸念される。
【図表】外食関連業者の倒産件数推移
飲食店におけるブランディングとは
そんな状況にある中、飲食店が見直すべきは自らのブランド価値である。“いいものを安く”ではなく、「価値あるものをより高く」売ることであり、それを可能にするためのブランディング戦略が必要だ。
いかに顧客を呼び、いかにリピーターになってもらうかが、飲食店の存続の鍵を握る。そのためには、顧客に店の価値を強く感じてもらう必要がある。
飲食店には「価格価値」や「時間価値」など、さなざまな価値が存在するが、その中でも今回取り上げたいのは、「感性価値」である。要するに、顧客に何を売りたいか、どんなサービスを提供したいかはもちろん、自分たちの店において「顧客がどんな体験ができるか」をイメージできるようアプローチするのである。
そのための着眼点について、事例を3つ紹介したい。
【サービスのブランド化】
まず1つ目は、具体的な利用シーンの提案である。
あるフレンチレストランでは、顧客にコースのメインディッシュまでをテーブルで食べてもらうが、デザートは場所を移し、ゆったりと腰を掛けられるテラスのソファ席で提供する。この工夫により、顧客はちょっとしたサプライズと非日常感を体験できるのだ。このサービスが話題となり、店はブランド化に成功。顧客の多くが特別な空間を求めて記念日に利用するという。
【興味へのアプローチ】
2つ目は、顧客の興味へのアプローチである。
ある日本酒バーでは、「バーミキュラで炊き上げた龍の瞳 鮎と茎山葵と一緒に 旨味ある玉露を注いで」という名の料理を提供している。
料理名だけではどんな料理なのか分からない。調べてみると、愛知ドビーの「バーミキュラ(コメ本来のうま味を引き出してくれるという鋳物ホーロー鍋)」で炊いた「龍の瞳」というブランド米に、アユと茎わさびを乗せたお茶漬けであった。そして顧客がその料理を食べる際には、料理名に秘められたミステリアスな部分を、サービススタッフが説明しながらひもといていくのだという。少しずつ謎が解明される経験をした顧客が面白がり、口コミによって店の人気が広がっている。
顧客が次の日にでも知人へ話したくなるような料理を作るため、このバーでは、店を利用してほしい理想のターゲットを想定し、その架空の人物のために商品開発を進め、料理名には必ず料理通でも分からないような言葉を入れているという。顧客の興味を引くように、あえて分かりにくくした料理名が功を奏したといえよう。
【ストーリーの提供】
3つ目は、顧客のストーリーに寄り添うアプローチである。
「顧客のストーリーに寄り添う」とは、人生のある1点のシーンを提供するのではなく、ライフステージに合わせて、あるシーンからその先のシーンまでを視野に入れてアプローチし、顧客と長く続く関係を築くことだ。
例えば、ある高層タワーでは、カジュアルなイタリアンダイニング、落ち着いたトラディショナルバー、高級レストラン、そしてブライダル会場と4つの店舗を兼ね備えている。その施設で想定しているストーリーは次の通りだ。
特別な日に高級レストランで食事をした顧客が、思い出の場所である同施設でプロポーズを計画するとしよう。その計画に対し同施設は、プロポーズの場所として夜景のきれいな展望フロアを、さらに結婚式はブライダル会場で行うことをアプローチするのである。
結婚後、女性は友人たちとイタリアンダイニングでランチを楽しみ、男性は仕事帰りにトラディショナルバーを利用する。子どもができればレストランで誕生日を祝う。
このような体験を通し、同施設には年間数百組のロイヤルカスタマーが生まれているという。
ターゲットの絞り込みが感性価値を生む
今回紹介した3つの店に共通していることは、「顧客がどんな体験をしたいか」という視点で細かくサービスを想定し、ターゲットを絞ってアプローチしているという点だ。
「20~30代の女性」や「年配の夫婦」といった、ざっくりとしたターゲット設定ではロイヤルカスタマーの創出率は低い。何に興味があるのか、今どのような場面に直面している人なのか、自分たちはどのような体験を提供できるのかというところまで想定することがポイントである。そうすれば顧客自身が気付かないような潜在意識下の欲求を発見でき、先回りした対応が可能になり、店のファンはどんどん増えていくだろう。
「モノ余り、コト不足」といわれる時代において、顧客へ時間と空間を提供する飲食店は、感性価値を生み出すトップランナーでなければいけないのである。