コンサルティング メソッド
2018.07.31
強いブランドには思想と美意識がある:平井 克幸
ブランドとは世界観・価値観の表現
企業がブランディングを成功させるための鍵は、「根幹」をどう鍛えるかにかかっている。人間に例えれば「体幹」に相当するものだ。トレーニングによって体幹を強くしていくことで、どんなスポーツにも適応できる運動能力の基礎が出来上がる。
同様に、ブランドの根幹に相当するものは何だろうか。それはブランドコンセプトである。コンセプトとは目指している世界観や価値観を表現したもので、ブランドのエッセンスが凝縮されたものだ。コンセプトの強弱は、そのままブランド力の格差となって表れる。強いブランドには、それにふさわしい明確なコンセプトが存在し、その思想や使命感が強烈なほどブランドが際立っていく。ブランディングの全ての取り組みは、コンセプトを起点として進めるため、まずはこの部分を確立しなければならない。
強いブランドコンセプトを作成するために、押さえておくべきポイントとして、「独自性」「必然性」「普遍性」の3つが挙げられる。(【図表1】)
ブランドコンセプトをつくる3つの視点
コンセプトやデザインをそのまま模倣して使うのは簡単だが、会社の歴史や文化までをまねすることはできない。ブランドとはその会社にしかない組織風土や企業文化といったDNA(遺伝子)レベルで形成されるもので、そこにつながるものが必然性である。
(3) 普遍性
「普遍性」とは、時代が変わっても通用するコンセプトで、社会や人間の本質的な部分とつながっていることがポイントだ。
教育サービスの分野では、公文教育研究会が挙げられる。「KUMON」ブランドの教室として海外50の国と地域に展開しており、生徒数は全世界で約430万人にも上っている。
同社には教育に対して独自の価値観があり、その根本にあるのが日本古来の「子宝思想」である。子どもは神から授かった宝物であり、親だけでなく地域全体で育てていくべきだという考え方で、それが形になったものが江戸時代の「寺子屋」である。地域に密着して展開し、近隣の身近な大人が指導者になる公文の教室は、まさにその現代版といえる。そして、子どもが持っている可能性を信じて最大限に引き出すことを目的に、個々の成長度に応じた課題を与える「ちょうど」をカリキュラムの基本としている。教室運営も「子どもから学ぶ」という姿勢で、常により良い指導方法の改善を行っている。同社のこうしたコンセプトは国や地域を超えて、子どもを育てる上での普遍性に通じるものだ。
コンセプトに正解はない。そこにあるのはブランドに込められた思想であり、意思である。これら3つのポイントを踏まえて、経営者と全社員が理解・納得できる、明確で分かりやすいブランドコンセプトが策定できれば、ブランディングは半ば成功したも同然である。
コンセプトを美意識でキュレーションする
ブランドコンセプトを確立した次の段階としては、それを美意識に基づいて具体化し、ブランドイメージに換えていく。これを、ブランドキュレーションという。キュレーションとは、「精選する」という意味の言葉で、ブランドのもとになるさまざまな要素を、コンセプトに基づく価値判断で整理することである。
キュレーションによってブランドを際立たせるとは、簡単に言うと「絞り込む」ことだ。あれもこれもと欲張り過ぎると、結局は平凡なイメージになってしまう。そこで「捨てる」または「やらない」といった割り切った判断が必要になる。
例えば、商品・事業に関しては、「〇〇事業は行わない」「△△分野には進出しない」といったNG集を作るのもよい。価格面では、一定以上の金額に絞り、安売りや値引きはしないことを条件にしてみる。品質面では、厳格な品質基準で検査を行う方法もある。意匠面では、デザイン・ロゴマークの使い方やカラーリングの規定を設けるなどである。(【図表3】)
キュレーションによって編集されたブランドは、総じて不要なものが少なく、全体の統一感が増して、顧客に強いインパクトを与えることができるだろう。
ブランドは極めて情緒的・感覚的なものであり、決して理性では測れない。そこに心を揺さぶられる何かがなければ、顧客が共鳴することはないのだ。強いブランドの背景には必ずと言っていいほど、トップの思想や美意識が存在している。
まさに「経営とは、トップの思いを社員の力を借りて実現すること」だといわれる通り、会社を一つの作品と捉えれば、全ての社員はアーティストということになる。全社員が一致協力して強いブランドをつくり上げていくことが、ブランディングの真の姿に違いない。
ぜひ、思想と美意識の観点から、いま一度自社のブランドの在り方を見直していただきたい。
PROFILE
平井 克幸
Katsuyuki Hirai
?タナベ経営 経営コンサルティング本部 副本部長 ナンバーワンブランド研究会 リーダー.。経営者の参謀として、企業のさまざまな課題に精通する戦略コンサルタント。専門分野はブランディングをはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたり、これまでに中堅・中小企業の成長支援を数多く手掛けてきた。著書に『タナベ流新規事業開発プログラム』(タナベ経営)がある。中小企業診断士。